
映画『マジカル・ガール』が好きすぎて観直した
スペイン・フランス共同制作の映画『マジカル・ガール』が大好きでして。
先日、映画が大好きで映画の感想をお二人で熱く知的に語っておられる月真猫さん・真月里さんのポッドキャストを聴いていると、この映画の話が出てきたんです。で、その感想をnoteに書かせていただいたところ、なんと次のポッドキャストにて僕のコメントを取り上げていただけることに。キャッ、嫌だ、恥ずかしい!(嘘をつくな、昔、自分でポッドキャストやってただろ30回も! データはあるが、内容が恥ずかしくて、もう今さらアップできねェ)
僕のコメントを取り上げていただいたポッドキャストを拝聴したのですが、なんと一時間半かけて映画『マジカル・ガール』について語られてました。熱意スゲェ。しかも映画についてのPDF資料付き。今は資料もAIが作るんだ……と妙なところで感心したり。
お二人の『マジカル・ガール』特集のポッドキャストは、僕のコメント含めて以下のnote記事から聴くことができますので、良かったら聴いてみてくださいね! ポッドキャスト中に何度も「しまっちさん」って呼ばれるんで、僕はまあまあ恥ずかしかったです(笑)。
さて、聴いてたら観直したくなるのが人間の性。観直しましたぜ『マジカル・ガール』。僕が観たのは2017年なんでだいぶ前で、色々観直して気付いたことがいっぱいあったので、感想を書いてみたいと思います。
あらすじ
世界
スペインに住む12歳の少女アリシアは、日本のアニメが大好き。中でも「魔法少女ユキコ」が大好きで、主題歌(長山洋子「春は SA-RA SA-RA」)を聴きながら魔法少女になることに憧れている。
しかし、実はアリシアは白血病に冒されており、余命いくばくもない。かつて国語教師であり失業中の、アリシアの父ルイスは、ふとしたきっかけでアリシアの「願いごとノート」を覗き見てしまう。「誰にでも変身できる」「メイコ・サオリが歌手のメグミ用にデザインした『魔法少女ユキコ』のドレスを着る」というかわいく飾られた2つの願いごとの次のページには、装飾も飾り付けもない簡素な文字で「13歳になる」という娘の切実な願いが記されていた。アリシアは、自分がまもなく死ぬと知っているのだ。
ルイスは父として、3つの願いごとで唯一実現させられること、「魔法少女ユキコ」のドレスを手に入れることを決意する。しかし、娘が欲しい衣装はコスプレ用ではなくデザイナーが作った一点もの。価格は90万円(6,845ユーロ・映画内時価)。ルイスはありったけの本を売るが、まるで足りない。知人に借りることも叶わず、銀行から借りることも叶わず、追い詰められたルイスは宝石屋に強盗しようとするが、そこで想像だにしなかった事件が起こる。
悪魔
美しい娘バルバラは、精神科の夫と裕福な二人暮らし。一見幸せな生活に見えるが、バルバラは精神を病んでおり、夫から日々薬を飲むことを強制されている。
ある日のトラブルで夫が失踪。自暴自棄になった彼女は、本来なら結び付くことのなかった人間同士をつなぐ事件を起こしてしまう。
肉
かつて幼いバルバラを教えていた数学教師ダミアンは、刑務所から刑期を終え出所しようとしていた。ダミアンは善良な教師でありながらバルバラを愛し、バルバラはそれを知りながら彼を利用していた。ダミアンはバルバラを守るために罪を犯し、刑務所に入ったのだ。
刑務所のカウンセラーにダミアンは懇願する。出所したくない、刑務所にいさせて欲しい、バルバラと再会することが恐ろしい、と。
しかしダミアンの願いは叶わず、彼は出所し、独り暮らしを謳歌していた。そこへバルバラからの電話が鳴る──。
というお話です。んーもう、あらすじ書いてるだけでゾクゾクしちゃう(変態)。
どこがそんなに好きなのか?
この映画は「愛するが故に犯す罪」の行き着く先を描いた物語です。ルイスは愛する娘アリシアのために罪を犯し、バルバラは愛する夫のために罪を犯し、ダミアンは愛するバルバラのために罪を犯していきます。
つまり、この映画はどの登場人物の視点で観るかで大きく受け止め方が変わってくるのです。上記しませんでしたが、僕はいつも罪を犯す3人ではなく、死を目前にした子どものアリシアの視点で観ることが多いです。今、アリシアは罪を犯していないかのように言いましたが、無知な子どもの願いは十分な罪と言えるかもしれません。もちろん、どの登場人物にも感情移入せずに、神様の視点のように俯瞰するとまた違う物語になります。
一本の映画でこれだけの視点を持てる、しかもそれぞれの視点に立つことで全く違う問題を考えさせられることになるというのは、なかなか無いんじゃないでしょうか。
映像、色彩、音楽も非常に美しいです。興味を持たれた方は、各種サービス(Amazonプライムだと有料レンタル・購入/僕はWOWOWでの放送を録画してBlu-rayにムーブしたので無料、ありがとう、相方!)にて観れますので、観てみてくださいね。
観直して気付いたこと
ネタバレをしたくないので、あくまでも気付いたことだけを書き記しておきます。
抗がん剤治療

白血病の治療をアリシアは受けていますが、抗がん剤治療は受けていないように見えます。短いとはいえ髪が生えていますし、ハンバーガーにレタスが挟まっているのが見えます(抗がん剤治療中は、生野菜が食べられない)。
まあ、そこは「あまりリアルにやり過ぎたらキツいところよね」という気もしますが。そもそも、抗がん剤治療中の人間はアリシアのようにはしゃいで踊ったりできないはずなんで、お話が成立しなくなっちゃいますね。
江戸川乱歩

ルイスが「魔法少女ユキコ」のドレスを検索する検索エンジンの名前が江戸川乱歩(Rampo=乱歩)。日本がよっぽどお好きなのでしょう。並々ならぬ思い入れを感じます。名探偵・明智小五郎さんが探してきてくれるんでしょうか。
江戸川乱歩がサインをする時に必ず書き添えた言葉が「現世はゆめ よるの夢こそまこと」ですが、冒頭でアリシアが「土曜日に泊まりに行きたい」とせがんだ友だちのハンドルネームが「マコト」でしたね。
そして江戸川乱歩と言えば、もちろん『黒蜥蜴』。

もう、そのものズバリが出てきちゃいますね。日本だと三島由紀夫の戯曲として有名だったり、美輪明宏さんが演じ続けられておられることでも有名です。
物語完結後のスタッフロール(エンドクレジット)で流れる歌を、よーく聴いてください。歌っているのは日本人ではありません(知る人ぞ知るPink Martini)が日本語の歌詞ですし、スタッフロールの挿入歌のところにちゃんと「『黒蜥蜴の歌』作詞・作曲:美輪明宏」って書いてありますよ! みんなもスタッフロール、ちゃんと観ような。
セーラームーン

バルバラが自暴自棄になってオーバードーズ(薬の過剰摂取)をする場面のボトル。よーく見てください、「SAILOR MOON」。セーラームーンて(笑)。やっぱ美少女戦士なんでしょうか。月に変わっておしおきされちゃうんでしょうか。偉大だなあ、セーラームーンは。
ルイスとバルバラが出会うのも、ルイスとダミアンが出会うのも、夜なんだよなあ。
ちなみに『美少女戦士セーラームーン』のあまりにも有名な主題歌「ムーンライト伝説」はオリジナルではなく、中谷美紀さん(同姓同名とかではなく女優の方。「桜っ子クラブさくら組」というアイドルグループに所属されていたのです)と東恵子さん、女性二人のアイドルKEY WEST CLUB「夢はマジョリカ・セニョリータ」(曲提供はビーイング)がステージで歌っておられたものが原曲になっています(CDリリースは「ムーンライト伝説」が先で、「夢はマジョリカ・セニョリータ」はCDリリース時に違う曲に書き換えられました)。信じられない? じゃあこちらを。若き日の中谷美紀さんを、さあ、ご一緒に。えっ? 中谷美紀さんの振り付けが全部ワンテンポ遅れてる? シッ! 消されるぞ。
普通は逃げる。俺なら逃げる!(笑)

上記の画像、ルイスとバルバラの出会いの場面ですが。映画をご覧になっていない方が見ると「これより情報量が多い画像を挙げたヤツが優勝」スレの画像みたいですよね(笑)。
ゲロまみれのルイス、額からダラダラ血を流しながら走ってきてルイスを呼び止めるバルバラ。「これってコメディ映画だったっけ?」と首を傾げる一瞬です。
ここ以外にも「コメディ映画でしたっけ?」っていう場面がチョイチョイあるんで、なぜこうなるのかが気になる方は、ぜひ観てください(どんな薦め方?)。
誰が描いたの?

アリシアが憧れる『魔法少女ユキコ』。その姿はアニメとして流れることはありませんが、アリシアの部屋にポスターとして一瞬現れます。かわいいんだが、一体誰が描いたんだ(笑)。日本のアニメ絵の特徴を、実によく分かってらっしゃる。いかん、スタッフロールを観直そう。
ただですね……今、あらためて見てみるとコレ、AIに描かせたみたいな絵に見えてきました。頭だけ浮いてない? 試しに、頭を手で隠して身体をじっくり見て、パッと手を離してみてください。頭の向き、おかしいですよね。でも2014年の映画だから、AI絵は時代的にあり得ないんだなあ〜。ミステリー。
ダミアンは必ず一度引き返す
劇中、ダミアンはその全ての行動で一度引き返します。
バルバラの病室を去る
ルイスのマンションのドアを開ける(呼び鈴を鳴らして隠れる)
ルイスの携帯を取り、アリシアの前を去る
いずれも彼が善人であり、彼が逡巡する様を示していると考えられますね。
世界、悪魔、肉の意味するもの
劇中、章立てのように「世界」「悪魔」「肉」と表示されますが、これは登場人物3人、アリシア、バルバラ、ダミアンを指していると考えられます。
世界── 白血病に冒された少女アリシア
世界とは「世の中の全て」。幼児的万能感(心理学の用語で、幼児期特有の「自分は何者にもなれる、何でもできる」という万能感。アリシアの願いごとの1つ目が文字通り「誰にでも変身できる」でしたね)を身に宿したアリシアを現すのに、これ以上ふさわしい言葉は無いだろうと思います。
なりたいと願えばなれる、手に入れようと手を伸ばせば届く、世界の全てが自分の思いのままになる。
しかし、世界は閉じたものです。地球だって一周すれば元の位置に戻ってきてしまいます。アリシアの願いごとは、本人が書きながらにしてあきらめていたように僕には見えていました。
悪魔 ── 夫に背き、己の肉体を売り、ダミアンを利用する魔性の娘バルバラ
夫が自分から去った孤独をルイスとの情事で埋め、金を得るために自分の肉体を惜しげもなく売り(しかも条件指定。「挿入は無し」「1日で」とか何様?)、かつては自分の教師であったダミアンの秘めた想いを知りながら嘘をついて利用するバルバラ。彼女が悪魔でなかったとしたら、他の誰が悪魔なんでしょう。
そして恐ろしいことに、成人しているはずのバルバラが「私は誰にだってなれる」と子どもであるアリシアと同じ言葉を発します。バルバラは未だに幼児的万能感から抜け出せていない、大人になれていないのです。
この映画のタイトルは『マジカル・ガール』、つまり魔法少女ですが、バルバラも大人になれていない以上「少女」だとみなすべきでしょう。
アニメの魔法少女に憧れるアリシアも『マジカル・ガール』ですが、大人になりきれないまま大人として行使できる自分の魅力で周囲の男を翻弄し、世界を思うままに魔法を扱うかのように操ろうとするバルバラもまた『マジカル・ガール』でしょう。
肉 ── 暴力を行使して自らの愛を貫く矛盾した善人ダミアン
二元論においては、人間は魂と肉体の2つに分かれていると考えられています。三位一体という考え方では、魂と生命体と肉体の3つになるそうです。
いずれにせよ、善悪の判断を司っているのは魂であり、魂に依らない罪を犯すのは肉体であるというお話です。
ダミアンは極めて善人です。徹頭徹尾の善人です。刑務所にい続けるために看守を襲うことを考えるも踏みとどまって告白し、自分が銃を向けるのではなくルイスに自分を撃つように命じます。
しかし、彼は教え子であるバルバラを愛し、その命じるまま不条理な暴力を行使します。ダミアンという存在は肉体の為せる罪、すなわち肉そのものであると言えるでしょう。
因果応報の物語
『マジカル・ガール』の中心には、因果応報の考え方があるように感じました。「風が吹いたら桶屋が儲かる」とは言いませんが、劇中で一人一人が取る行動が絡み合って、自分が犯した罪が自分に返っていく物語だと思います。
バルバラがルイスを誘惑した罪は、ルイスからの脅迫という形で。ルイスの脅迫は、ダミアンの復讐という形で。そして、幼い頃にバルバラがダミアンから消したメモは、ダミアンからルイスの携帯を消されるという形で。
何かをするということは、その結果を受ける覚悟が要るよね、ということを観る度に考えさせられます。
アリシアについて思うこと
えーっと、何なんですかね。アリシアって名前で幸せになったキャラクターを僕は知らないんですが、幸薄い名前なんですかね(笑)。
アリシアで真っ先に思い付くのが、TVゲームSFC/Nintendo Switch/PS4・5『LIVE A LIVE』の中世編なんですが。そうです、鬱ゲー好きなら通らずにはいられない、みんな大好き「あの世でオレに詫び続けろ、オルステッドーッ!」の時間です。あのアリシアも酷い娘でしたね。なんたってスクウェア・エニックス3大悪女に選ばれていますから。SFCで大学生の時にプレイして、ボー然としました。
なんか他の映画かドラマでもアリシアって名前の娘が酷い目に遭っていた覚えが。誰か、世界の誰でもいいから僕に幸せなアリシアをください。
白血病
その……僕にとってこの映画が特別、っていうのは、映画の内容ももちろんあるんですけど、白血病で死を目前にしてるっていう話がどうしてもあって。相方を白血病で喪ってますから、頭を色々よぎりながら観ちゃうんで、あんまり公正な評価ではないかもです。
僕がそもそも『マジカル・ガール』を観れたのは、元気な時の映画大好きな相方がWOWOWに入ってくれていたからで。元々僕も映画は好きでしたし、色んな方から良い映画を教えてもらって観てきてるんですけど、一番楽しかったのはやっぱり相方と観た映画なんです。相方がいてくれたから、映画がより楽しくなったっていう。
相方と一緒に『マジカル・ガール』は観ておらず、相方のWOWOWなのに録画予約は僕が観たい映画ばっかりでしたが、それでもたまに僕の観たい映画に付き合ってくれて、相方の観たい映画を一緒に観て、あーだこーだ言うのが楽しくて(たまにケンカもしましたが。すみません、今だに僕は『ニュー・シネマ・パラダイス』の良さが分かりません。誰か教えて……って説明されても多分無理だと思います)、幸せだったなあと思い返します。
やがて自分が実際に白血病になる相方とは、『マジカル・ガール』観なくて良かったのかも知れませんが。天国で一緒に観れたらうれしいな。
まとめ
何一つまとまってませんが(笑)、そしてネタバレも分析もしてないのにこの長文、もう一体どうしてくれよう。iPhoneを打つ僕の人差し指が既に限界です(qwertyソフトウェアキーボードを人差し指1本で打つから痛くなる。フリック入力は覚えたくない)。
必ずしも全ての人にオススメできる映画ではないことは事実です。観て「良く分からない」っていう感想もあると思います。ですが、もしここまでの話を聞いて「あっ、ちょっと面白そうかも」ってだけでも思ってもらえたらうれしいですし、実際に観ていただけたらもっとうれしいです。観た感想とかコメントをいただけた日には絶頂死すると思います。いやァ、映画で死ぬ奴ァいねェや。
ということで、また次の映画でお会いできたら幸いです。どうか楽しいシネマライフを。