noteでノベルゲーム『薔薇の城』 *5 背後に飛びすさる
背後に飛びすさる
刺さった剣を無理やり引き抜き、私は背後に飛びすさる。熱い。傷口から流れる血が沸騰しているようだ。
「そうやって、いつまでも逃げ続けられるとでも?」
薔薇姫は再び距離を詰め、踏み込んで横薙ぎを繰り出す。間合いが近すぎて、後ろに下がってかわせる距離じゃない。やむなく私はその場に身体を低くして頭を下げ、横薙ぎをかわす。
「遅いのよ」
頭上で空を切った剣の風の音が、途中で変わる。横薙ぎの途中で薔薇姫は手首を返し、剣先を真下へ、剣を垂直に構え直す。身をかがめてしまった私に、真下への突きを避ける術はない。
「染まりなさい、赤に!」
両手で柄を握った薔薇姫の剣が、かがんだ私に垂直に突き刺さる。首と肩の間、骨のない部分の肉がたやすく縦に切り裂かれる。
「ギャァアゥああッ!」
「殺してやる、このクソ女!」
引き抜かれた剣が再び振り下ろされる。後頭部と首の間を狙い澄ましたその一撃は、受ければ無事では済まない。瞬時に私は身を引く。剣は私の右の乳房をえぐり取り、右太股を貫通して床に縫い留めた。気を失いそうな痛みを、歯を食いしばって堪える。
私の股の間が熱い。最初は太股からあふれる血の温度かと思ったが、違った。私は失禁していたのだ。辺りに血とアンモニアの臭いが充満する。
「傑作ね。血と尿まみれの薔薇姫。大人しく刺されていれば、美しい赤い薔薇になれたっていうのに。やっぱり貴女には白い薔薇なんて似合わないのよ」
遠くで、ズン、と何か大きなものが倒れる音がした。
「正門が破られたみたいね。そろそろ終わりにしましょ」
軽々と床まで突き刺さった剣を引き抜き、薔薇姫が再び構える。
「死んで、蝿と蛆にまみれた薔薇になればいいわ」
貫かれた足が痛みで動かない。目の前には、切り落とされた私の右の乳房が白い脂を見せて転がっている。痛みを通り越し、朦朧とした頭で、私は薔薇姫を見る。
そんなに私が憎いの?
私を愛してはくれないの?
なら、私は──。
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