生物:④母性効果遺伝子の順序 by 茶茶 サティ (無料)
卵の細胞質にあって効果を表す「母性効果遺伝子」。
でも「母性」って子供を持った母の本能的とも言える気持ちでしょ?
「母性」は「母性本能」とかのイメージが強くないですか?
だから個人的には「母系効果遺伝子」の方が良いと思ってます。
なぜ「ボセー」という名前をわざわざ選んだのか、この「ボケぃ」が…
数年前の1月くらいの寒い時期、
「生物の用語は多すぎる、だから1/4くらいにしちまおうぜ」という結論を出した「権威」とされる方々がいました。確かに用語や単語が多過ぎ、枝葉末節過ぎるのは同感ですが、3/4 を削ったら、考えたり議論したりする単語にも不自由するのは明白です。
何考えてるんすかね?
そもそもいまの教科書は、高校レベルでさえ複雑怪奇で枝葉末節すぎます。教員でも理解しかねるほどの高度な知識や学説が羅列され、入試でも平然と出題されている。
そのくせ学生はと言えば、カマキリが何喰ってるのかさえよくわかってない。もう、まるでチグハグなのが実情なんです。
そしてしっかり検討されたはずの掲載事項のはずなのに、実際に授業してみると他教科との… いや同じ科目の中でさえ整合性がとれてない部分もあるのです。
例えば、最初の「生物基礎」の「細胞」のところでは、電子顕微鏡レベルの「リボソーム」は掲載されていないのに、「生物」の「DNAからのタンパク質合成」のところになると遠慮するワケでもなく普通に、ごくあたりまえのように「リボソーム」が登場してきます。
つまり、枝葉末節過ぎる割には、必ずしも足りていないし、整合性もとれていないのです。
さらに奇怪なのが「浸透圧」で、生物基礎の教科書から姿を消してだいぶ経ち、現場では細胞膜や腎臓の説明に四苦八苦していたのです。 しかるに… 化学の教科書にはバッチリ掲載されているって…
どういうこと?
この勢いでさらに言うなら、英語教育を推進するはずの割には外来カタカナ用語の中に英語でないコトバが堂々とカタカナ化されて登場してきます。
酵素の名前なんていまだに「アミラーゼ」に「マルターゼ」ですが、これは立派なドイツ語読み。英語読みなら「アミレース」「マルテース」くらいになるはずです。英語重視とかとはどうしても思えない無軌道ぶりです。
おかげで学生は大学の専門的な講義を受けるときにおったまげることになるワケです。
「ん? いまのスクレースってなになに?」 ざわざわ…
カンの良い人が
「スクラーゼのことじゃねぇ?」
とんだコントが大学の教室の一角で演じられることになるのです。
他にも「ホメオスタシス」なんて用語もありましたね。そんな発音する英語はねぇよ…
えっと…「エネルギー」も同様です。世の中すでに半分は「エナジー」になっていますって。
もっとも酷いのは「カロリー」じゃないかなぁ… そんな単位が堂々と出ててくるのは、家庭科は別格として、理科では生物だけ… 化学の教科書はすでに「ジュール」に統一されて久しいですよね。
さて、本題です。
ビコイド、ナノス は、昆虫の卵で頭と尾の方向を決める母性効果遺伝子のRNAまたはタンパクです。
ここがポイントですが、はじめから卵の特定方向に沿ってRNAが仕込んであり、胚の発生を始めると「母の仕込みRNA」が翻訳されてタンパク質ができ、このタンパク質の濃度勾配(のうどこうばい)によって体の前後軸や内臓、器官の分化が決定されていくのです。
もういちど同じ趣旨を繰り返しますが、はじめから卵(母由来)の細胞質(核以外の部分)には将来の頭側には「ビコイドRNA」が多く混入されており、尾側には意図的に少なく含まれているのです。したがって発生が進んでRNAがタンパクに翻訳されると、頭側には「ビコイドタンパク」がより多く存在し、尾側には少ないことになります。
「ナノスRNA」は頭側に少なく、尾側には多く配合されているので、「ビコイド」と「ナノス」の含有比から頭と尾の方向および位置が決定されるのです。
ビコイドタンパク質が相対的に多い「前側」には頭部や目、口といった器官が形成されていきます。
だからビコイドが前… ええっ? ちょっと待った。語呂合わせの反対になっちゃうじゃん…
ビ(尾)コイド の方が尾だと真に都合が良いのですが…
さにあらず。これは漢字の当て方が悪いんです。ビに尾を当てたのが混乱の根源…
えっと、なんかビとかビコとか、身体の前の方でないかなぁ…
そうだ!
眉(まゆ)も ビ と読むことを忘れてました。
眉毛に火が付いたくらいの緊急事態を「焦眉(しょうび)の急(きゅう)と言いますよね。これで解決です。
つまり 「ビコイド → 眉コイド → 眉濃いど!」にすれば一件落着ですね。念のためにナノスをアヌス(肛門)と引っ掛けておきましょう。この辺は現代風の清純でない高校生ならばっちりおわかりいただけるでしょう。
お下品ですが、これで前後軸は何とか決定できそうです。
しかし、一難去ってまた一難。
さらにこのあとにも「分節遺伝子」という様々な体節を造らせる遺伝子が控えています。
ギャップ遺伝子
ペア・ルール遺伝子
セグメント・ポラリティ遺伝子
という3つの遺伝子群です。
ギャップ遺伝子は動物の初期発生でビコイドタンパクやナノスタンパクによって前後軸の決定した後に体節の形成に関与する遺伝子群の1つです。体節と言うのは、そうだなぁ… アタマと胸と腹のような大まかな区切りだと思ってください。ヒトでも腹筋を鍛えるとシックスパックなどという筋肉の集団ができますが、あれも体節の名残りのようなものです。
そんな大切な体節を造る遺伝子群を分節遺伝子群(segmentation gene)と呼びますが、そのうち最初に発動するのがギャップ遺伝子群です。遺伝子群のうち、いずれかの遺伝子が欠損すると体節の一部を「欠く」ことからギャップ遺伝子と名付けられました。
ペア・ルール遺伝子はギャップ遺伝子によって大まかに分けられた部分(ショウジョウバエの場合は7つのセグメント)を、さらにそれぞれ2つずつのペアに分割して14のパラセグメントを創っていきます。2つずつだからペアなんですね。これで昆虫の幼体が持つ14の体節が決定されるワケです。(成体と比べると分かりづらいかも)
そしてセグメント・ポラリティ遺伝子が、生じた体節構造をさらに細かく規定して行くというような役割分担になっています。
ごくおおざっぱに例えると、胚の細胞集団をギャップ遺伝子がまず7グループに分け、ペア・ルール遺伝子がそれぞれを2分割して14群の体節を作り、セグメント・ポラリティ遺伝子が「キミの体節の役割は○○だからね」と説明していくような感じでしょうか。
実際にはこの後に「ホメオティック遺伝子」が発現して肢(あし)や翅(はね)など、その体節に相応(ふさわ)しい器官を分化させていくのです。
さあ、いよいよです。ショウジョウバエの第3染色体にある8つの「ホメオティック遺伝子」によって各体節の形態が決定されていきます。
ホメオティック遺伝子の発現の組合せは、「体節を決定した分節遺伝子の濃度や状態」によって決まるとされています。このうち頭部から胸部にかけての構造を決定するものを「アンテナペディア複合体」、胸部から尾部にかけての構造を決定するものを「バイソラックス複合体」と呼んでいます。
アンテナペディア変異体はアンテナ、つまり「触覚」が目から生えた変異体ですし、バイソラックス変異体は胸が2つ(バイ:LGBTQのバイ)だと思えば覚えやすいですよ。このへんは図解等の模式図と一緒に目で見てイメージで覚えてください。
しかしこんな遺伝子、言葉をしては記憶にとどまっても、その順番とかまで正確には把握しきれません。
困った、 困った… こんなときには道しるべがほしい。
いや、道しるべより地図が… いや、地図よりやっぱGPSがほしい…
↑
Global Positioning System
んっ? おお、やった、これで決まりです。
G: ギャップ
P: ペア・ルール
S: セグメント・ポラリティ
この順番で発動するのでしたね。
思いついたサティ自身を褒め(ホメオティック)てあげましょう!
大切な、体節を決めていく遺伝子の発動順を、もう決して忘れることはないでしょう… 昆虫ですけどね。教科書では昆虫ですが、実はこれ、類縁関係が遠いハズの脊椎動物(つまりヒト等)にも、そして植物にも共通な「分化の仕組み」なのです。
いわば多細胞生物に共通なカラクリ… 生物って… うまくコトバにならないけれど、なんかスゴイと思いませんか?
まとめ:
「GPSホメホメ」ということで… 締めておきましょうか。
おあとがよろしいようで…
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