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E判定からの逆転面接 ②作戦 by 茶茶 サティ (無料原稿)
これは某有名公立進学高での実話です。
センター試験(現代なら共通テスト)が終わって、センターリサーチはDにも遠く及ばぬE判定。100点足さないとボーダーに届かないような、そんな男子Nさんがおりました。
その男子Nさんが担任に連れられて私の目の前に座りました。そのNさんとは初顔合わせのようなもの。同じ学年で3年目でしたが、私には見覚えもない顔でした。
ただ活字の名前は辛うじて… 基礎教科で担当せず、専門教科でも選択が違っていて、いわばこの日まですれ違いばかりだった関係だったのでした。
「この子Nって言うんだけど、ほらプリントで面接練習の割り当て見たでしょ? ○○某地方国立大学の理学部化学科をどうしても受けたいって、後期でも… でもぜんぜん届かないから。記念受験でもいいからって言うんで、煮るなり焼くなり、もう好きにしていいから」
私が質問します。
「ほほ~ん… 私が担当してことは…たぶんないですね。で、前期もやっぱり? それと滑り止めは?」
「もうお察しのとおり… 前期も後期もぶっ通し(同じ大学の同学部同学科を受ける)でね、本人の前で難だけど、もうぜんぜん… 私学は▽▽大で止まってる(合格してる)、ね」
本人の顔を見て念を押す担任。
そもそもこういう場に担任が出て来ることなどあまりないことです。なにか事情があってわざわざおいでになったのでしょう。
そうか… 察するに、
「落ちるのが必然で無駄な努力になるからゴメンなさいだけど、まあ担任の顔を立てて面倒見てやって」
ということなのでしょう。
私がそのNさんに確認を入れます。
「では、浪人の心配はないワケですね。ちょいとリサーチ見せくれるかな」
………
担任はまさに掛値なしの事実を述べていました。
そして思いついたのが、この作戦。
これから紹介する作戦は、このNくんへの指導が発端になっています。
「わかった、確かにこのままじゃまず無理でしょ。無難なだけの面接じゃ、とてもとても… ただここは面接の配点が高いし、しかも面接だけだから、なにかとびきり目立つしか救いはないと思うけど、やってみる? 明るくハキハキニッコリと、スキです熱心ですってアピールしてさ… かなり覚悟が要ると思うけど、それでも良い?」
『あ、はい。絶対入りたいので… ぜひお願いします』
「でもやったからと言って可能性はほぼないよ、冷静な判断なら、ね」
『それでも良いんです。絶対入りたいしお金もないし… 弟子になるつもりでやり切ります。落ちてもともとだし、必死でやります』
「わかったよ。なかば洗脳とか宗教とかみたいになるかもよ、私が教祖さまの… ははは」
『あーははは、いいです、全部賭けます、おねがいします』
なるほど、こういう生徒(こ)か…
担任にむきなおって、
「ふふ、わかりました、できるだけやりますが… もしこれで受かったら乾杯ですね」
「でしょ? でも私学は留まってるからもういいんです。じゃお願いします」
「あ、はい、引き受けました」
このあとすぐに面接カードを書いてもらい、次に対面でさまざまな雑談をかさねてゆきます。その狙いは人間関係の構築、知識量の推定、ボキャブラリーや学問的常識の確認、表現力や話し方のクセなどを確認し、少しでも使える部分を捜し、細かくチェックして、自身の備忘ノートを埋めて行くことです。
やがて方向に目途がついてきたところで一点突破の肝となる興味関心と知識量をいくつかの物質について訊ね、答を聞きつつ候補を絞っていきます。
Nくんの志望は化学科なので、やはり化学にでてくる物質や現象、法則の中で候補を絞るのが正統的でしょう。しかし現象や法則は、一段二段とレベルを上げて突っ込まれたときにボロが出やすいのではないでしょうか。
雑談のように話しながらそんなことも考えています。
例えばコロイドで出て来るチンダル現象。
自分で見たことある?
どのくらいの粒子なら観察できる?
顕微鏡は持ってる?
発見者は誰?
自然にはどんなところで、どんなことが見られる?
現象の本質はなに
このへん、私なら答えられそうですが、Nさんにはどうでしょう。仕込めばモノになるでしょうか。
例えばアボガドロの法則
関連する法則や基礎研究は何?
ボイルの法則、シャルルの法則とはどんなもの?
発見の経緯や実験はどんなもの?
1モルの根拠は何?
当時どうやって温度の差や圧力の差を実験的に作ったと思う?
んん、深く突っ込まれたとなると、サティでもちゃんと応えられるだろうか… これは怪しいものだし、Nさんにはちょいと荷が重そうです。
その点、物質の方が質問が生徒さんにも予想しやすいし答えやすいのではないでしょうか。
原料、工業的または実験的製法、用途や応用、利点、欠点など、そして、どうしてその物質に興味があるのかどうか、などなど。
さらにもう一つの難題があります。それは受験生が「用意していた答を答えるための質問」をしてくれるように、受験生が面接官の質問を誘導する、という高等芸です。
たとえば面接官がこんなことを言うことがあるでしょう。
ア 「あなたが理学部化学科を志望する理由は何ですか」
イ 「この学科で研究してみたいことは何ですか」
ウ 「あなたの好きなコトを、理由を含めて述べてください」
エ 「高校時代に好きだった教科は何ですか」
オ 「高校時代に頑張ったことと、その成果を挙げたかを話してください」
カ 「興味を持った時事ニュースや、読んだ本について述べてください」
キ 「最後の質問です。なにかアピールしたいことがありますか」
こういう質問が来たときに「さりげなく匂わせて、もう一歩突っ込んだ質問をしていただく」のが狙いです。いわば自分の領域(エリア)におびき寄せ、引きずり込むという作戦なのです。他に商品(売るモノ)はないので、いわばアリジゴク的な手口で何が何でも買っていただく必要があるのです。
仮に想定問答の中で答の一例を出してみましょう。仮にターゲット(面接官)を二酸化炭素に関する質問を誘導するならば…
ア ①
「理学部化学科を選んだ理由は、何と言っても好きで興味があったからです。特に二酸化炭素という物質には前々から興味があって、個人的に調べたりしてきたので、もっと専門的に勉強してみたいと思ったからです」
こんなふうに撒き餌をすれば、十中八九、面接官は
「ほう、どんなことを調べたんですか」
「ではどんなことがきっかけで興味をもったんですか」
「わからないときはどのように解決しましたか」
「現在特に調べていることはありますか」
「研究ノートなどは作っていますか」
「では二酸化炭素の特性について、5つの観点から述べてみてください」
「温暖化を抑える具体的な政策について述べてください」
などと食いついてくるにちがいありません。
無論
「やったー、fish on !」
などというホンネはおくびにも出さず、ちょっと意表を突かれた、という顔をして… あとはわかりますよね。
ここで述べておきますが、面接とは「自分の思っていることを全部喋りまくる場」ではありません。では何を重要視すべきかというと…
それは「コミュニケーション能力」なのです。
相手が1問してきたら、こちらも程よく1答でお答えする。
楽しい会話ってそういうものじゃないですか?
相手がベラベラ喋っているのを聞かされてもねぇ…
大多数の方は高校入試で面接を受けたかと思いますが、中学の面接指導は必ずしも正しくはありません。なぜか、と言えば、あれは受験生が言いたいことを原稿通りにもれなく復唱するという「生活指導の一環」だからなのです。
中学では言うこと聞かない生徒、そして悪いことにモンペがセットで突いてくることも少なくありません。で、その生活指導の「ダシ」に使われているのが高校入試なのです。
「内申」や「面接」を利用して脅しをかけることで、教員の威厳を高め生徒を反抗させにくくする効果が… 心当たりはありませんか?
ではなぜ中学生にながながと全部言わせる指導をするのか。
仮説的推測を述べてみましょう。
高校では公式見解では「ないことになっている学力差」が、現実には厳然とした「成績的な輪切り」になって存在して… いわばレベルが揃っています。
しかし中学生には様々な生徒さんが居ます。気の利いた応答ができるヒトもいれば、物おじと人見知りが激しくて、そしてまた話しをすること自体が苦手で… という生徒さんも少なくありません。
でも教育だの指導だのは平等に行わなければなりません。
この際、気の利いた応答ができる生徒はまあどうにでもなる… とすると、課題はその逆の生徒さんです。さあ、どうしましょうか?
そして誰もが思いつく方法が、アレなんです。
そう、言うべきことすべてをセリフのようにまとめて長々と朗読すれば大過(たいか)はない。成功は覚束なくても大過はないはずです。
一例を書こうかと思いましたが、考えるだけでもタルイ。5秒の質問、
「では○○さん、この高校を志望した理由を教えてください」
に対して延々と1分以上、ひどければ2分ほどのお経を唱えるワケですね。
悪いけど聞いちゃいません、私は。
そのかわり面接官である高校教員はこんなところを見ています。
制服やスリッパが妙に新しくないか? 内申が異様に低く、制服やスリッパが「おnew」に近い場合…
それは普段まともな恰好や生活をしていないことを意味する場合があります。
合否判定の材料にはしませんが、クラス編成の要注意人物になることがあります。
面接官が面接で聞く内容には幾つかの制限があります。
家族や国籍、家庭環境などプライバシーに関わること
思想信条宗教に関わること
性別やLGBTQに関わること
などは基本タブーとされていますね。
あ、すみません。ちょっとそれましたね。
こんなふうに「話題となっているテーマから脱線し過ぎる」のはコミュ能力の低さの証。
「訊かれていることに、的確にハキハキと順序立てて応え」られたらポイントは高くなります。だからと言って怖がる必要はありません。県下10指には必ず入るエリート校の受験でさえ、面接で高い評価を貰えるのは3%もいません。逆に低い評価を付けられる生徒は底辺普通高校でさえほぼ0人なのが普通です。現代は成績の開示がうるさくて、もしかして裁判で開示命令が出た… なんて非常事態を想定するなら、特に悪い評価についてはは「相当な理由」がない限りなかなか付けられる世の中ではないからです。
高校入試では、たいてい3人くらいでチームを組み、一人が質問して2人は観察しています。受験生が退室すると
「どうですか、ハキハキ的確に答えてましたが…」
とか
「ちょっと良かったですよね」
「ああ、私は気に入りましたよ」
「じゃあ、理由は… ハキハキ、的確、それから声も大きかった。そんなとこですか?」
「あと、総合学習の説明がよかったですよ」
「ああ、そうだった、よかったよね」
なんて会話があり、合議によってαとかβ+とかの評価が付きます。
逆に
「どうですか、あがってたんですかね」
「それはそうと、声が小さくてあんまり」
「なんか、あんまりでしたね」
「じゃあ、ちょっと引いときますか、β-くらいに」
「まあγ(ガンマ)ではないですよね」
「うん… 本心はマイナスだけどさ、選抜(職員)会議で説明求められるでしょ」
「それさ、できれば避けたいけどな」
「じゃ無難にβ(ベータ)で?」
「β、それでいきましょ、クレームあると面倒ですし…」
ってなこともあって、実情ほぼ全員がβになるのです。
言い換えます。高校の面接では、99%は「普通」の評価。逆に面接で高い評価を得れば、「考査(テスト)」に多少の難があっても総合選抜でほぼ合格するわけです。
え、内申が低い場合はどうかって?
それはJK(常識で考えて)ですよ。面接でそれだけの評価を得ることができる生徒に限って、内申、つまり中学のセンセのウケが悪いなんてことありえますか?
ながながと高校入試の面接について語ってしまいましたが、同じ人類のやること、大学の入試も似たような事情だと考えています。
もし… たとえば配点400点の第5面接室(以下5面)を4人の教官で担当するとしたら…
ひとつの可能性として想像してみましょう。
「じゅあ、ひとり100点満点、合計で5面の点数にするけど、どう?」
「OKだけどさ、平均何点くらいで付ける?」
「そうだね、やっぱ標準は決めときたいよ」
「普通に60点でどう?」
「いいね。でも面接官同士でブレが激しいとアレじゃね?」
「ああ、そうだな… じゃ3人終わったとこでいったん調整するか」
「おお、名案! 3人なら覚えてられるわ。それでいこ」
「あいよ、共通質問はこの3つだろ? あとは適当でいいんだっけな」
「ああ… だがタブー質問だけはよく読んどいてくれよな」
「もちろん、クレームだけは御勘弁願いたいもんな」
「おれさ、気に入らん奴ついいびっちまうからさ、やばきゃ止めてくれよ」「いやいや高校管轄の県教委にチクった方が楽しかろう」
「いやいや、待て待てごめんごめん。五面だけにゴメン… こんどタイ焼きおごるからさ」
「しょうがねな… じゃ肘を突っついてやるからちゃんと止めろよ」
あくまでも仮想の会話なのでお間違えのないようお願いします。
この場合、平均的な面接の結果が60点とすると、4人で400点中の240点は仮想的なライバルも取っている計算になります。
想定は先ほどと同じ、共通テスト800点満点、ボーダーは70%として560点と仮定して試算します。
ライバルの得点は共通テスト560点+面接240点=800点ですね。
繰り返しますが1200点満点中の800点です。
Nさんがボーダー得点より100点少ないとすると、460点で得点率は57.5%。つまりボーダーからみて70-57.5=12.5ポイント低いという設定になります。
ライバルの合計点が800点ですから、Nさんがライバルを抑えて勝つために必要な面接の得点は
800―460=340点!
これは、計算上では4人の面接官が平均85点以上をつけなければ合格できないことを意味しています。いかに至難であることか…
しかしNさんはそれを達成した、という実績が残ったワケですので、決して不可能とは言えないんですね。
ただし… こんな仮説も考えています。
設定として合理性があるのはこんなケースです。
あと1名だけ合格枠が残っているけど、残った受験生はみんながみんな、帯に短し襷(たすき)に長し。
さ、どうする?
合計点からみたら、その点に近い数人の集団が遺ってる。でも定員から見て全員合格ってワケにはいかない。
特技は? 特にないねぇ
部活は? みんな平々凡々さ
資格は? 英検準2級と漢検準2級だってさ、決定打にはならんね。
でもあと一人は選抜しないとね。
えええ、無理だわ、こんなん…
んんん
えええええ
あっ、ちょい待ち。この下にさ、面接点高いヤツいるじゃん、これどう?
えええ、こいつ面接はポイント高いけど、共テがベラボーに低くね?
でもさ、説明できる特徴持ったヤツを合格させるのがセオリーだろ?
そ、そうだな。根拠ってものが必要だからな
わかった、こいつ(Nさん)にしよ。それしかまとまらんだろ…
わかりました。そうしましょう
はい… まあ入れときゃたいてい無事に卒業するからな、ははは
違いない… さ、終わった終わった。
こんなことがあったともなかったとも言い切れないですが、たまたま天使の微笑みで合格できたとしても、結果は結果。
たとえビリであっても合格は合格だし、落ちた中でトップであっても不合格は不合格なのです。
さきほど面接官の質問として以下の例を挙げました。
ア 「あなたが理学部化学科を志望する理由は何ですか」
イ 「この学科で研究してみたいことは何ですか」
ウ 「あなたの好きなコトを、理由を含めて述べてください」
エ 「高校時代に好きだった教科は何ですか」
オ 「高校時代に頑張ったことと、その成果を挙げたかを話してください」
カ 「興味を持った時事ニュースや、読んだ本について述べてください」
キ 「最後の質問です。なにかアピールしたいことがありますか」
そうそう、面接しながら「面接官の質問を誘導する」という話しの途中でしたね。
アは終了、イウエオもそのものズバリ、二酸化炭素の話題を出しても不自然ではありません。そしてたいていの面接官はこの手の質問をしてくるものです。
ところが緊張でアガってしまったり、部活の話しで盛り上がってしまったりなど何らかの事情で言いそびれた時には何がなんでも二酸化炭素の話題を持ち出さねばなりません。
カは用途に合わせた記事や本を用意しておけばなんとでもなりますが、キを言われたときは非常事態です。それはもう、調べたことを事細かに説明する時間がないことを示しているからです。
逆に言えばこうなるかなり前の段階で、かねて用意の話題に誘導する必要があるワケですが、それでもなんとか合格を引き寄せる執念がほしい!
さあ話題を「二酸化炭素(用意していた話題)」にもっていくことができた、としましょう。
そしてここからが勝負なのです。
話題に出したものの、ここで
「フーン」
と聞き流されたのでは元も子もありません。
面接官が思わず食いついてしまう「撒き餌」を上手に投げ、そこに食いついていただくこと… これが「盛り上がる必勝面接」なのです。
おっと、今回はここまでにします。