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yukiko160830
遠い海 - その航海の日々
私は船の手すりに寄りかかり、朝日に輝く波を見つめていた。十年という月日が流れ、今も変わらず美しい海は、あの日の約束を静かに見守っているようだった。
「必ず戻ってくるから」
出航の日、岬で彼に告げた言葉が、今でも胸に響く。若かった私は、世界中の海を航海して、自分の夢を追いかけたかった。彼は黙って頷き、「待っているよ」とだけ言った。
航海士として過ごした日々は、想像以上に厳しく、でも素晴らしいものだった。嵐の夜に星を頼りに進路を定め、未知の港で様々な人々と出会い、時には孤独と向き合いながら、少しずつ成長していった。
けれど、どんなに遠く離れても、夕暮れ時になると決まって故郷の岬のことを思い出した。彼は今も、変わらずあの場所で海を見ているだろうか。私の心は、いつも静かな波のように、彼のもとへと寄せては返していた。
そして今、十年の航海を終えて、私は故郷の港に帰ってきた。懐かしい岬が見えてきて、涙が溢れる。夕陽に照らされた岬の上に、一つの人影が見える。
風に揺れる白いワンピースの裾を抑えながら、私は彼の名を呼んだ。「待たせてごめんね」
彼は昔と変わらない優しい瞳で私を見つめ、何も言わずに抱きしめてくれた。潮風が私たちの周りを優しく包み込む。
十年の歳月は、私に多くのものを与えてくれた。でも、本当に大切なものは、ずっとここにあった。遠い海を渡り、たくさんの港に寄り、そして最後に辿り着いたのは、この人の傍だった。
波の音が静かに響く中、私たちは肩を寄せ合い、それぞれの十年を語り合った。これからの人生という新たな航海も、きっと素晴らしいものになるだろう。