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3. 初めてのコンテスト、海の怖さを肌で感じた。死ぬかと思った。

夏休みも過ぎ、
少しずつ上達の兆しが見えてきた頃。

サークルの先輩から
グループLINEに呼びかけがあった。

“10/22,23で大会に参加しよう。
今年始めた人でも大丈夫。
絶対に楽しい思い出になるよ!
興味のある人は連絡ください。”

私は少し迷ったのちに参加を決めた。
参加種目はウィメンズ、ロングボード。

どんな人が出るのか、
何人くらい参加するのか
これっぽっちも情報はないけど
ワクワクを頼りに申し込みを完了。

試合前日。
参加者でレンタカーに相乗りし、
一足早く会場へ向かう。

白い砂浜、
海はエメラルドグリーン、そして青。
そこに降り注ぐオレンジの光。
初めて見た伊豆の海はとても綺麗だった。

そして、なかなか波には乗れないけれど
これだけ条件が揃っていて、
メンバーと一緒に入る海は
とんでもなく楽しかった。

“ほんとに、雑魚寝でいい?”
“はい、大丈夫です。”

その晩、宿に着いて早々に先輩から一言。

サークル内で参加した女は
私1人だったのだ。

でも、気にかけることが少しあるくらいで、
特に困ることはなかった。

大雑把さと適応力は
親から持って生まれた私の良いところ。
AUS留学でさらに磨いていたから
なんてことはなかった。

あとはもう、ただ楽しむだけ。

いびきがうるさい先輩から
できるだけ離れたところに布団を敷き、
ぐっすりと眠りについた。

そして迎えた大会当日。
海のコンディションは”最悪”だった。

一応初心者なりに
台風波も何度か経験していたが、
正直、この中で開催するのかと
驚くほどだった。

波はでかいし、ぐちゃぐちゃ。
横風びゅーびゅー。
非常にハード、なんならクローズ。

いつもは波が大きくなると、
おばけセット(※)にびびって
沖に逃げてばかりいたから
誰よりも早く回避することだけは
できるようになっていたが、
そんな問題じゃないくらいに荒れていた。

(自分1人だけうねりを超え
振り返ってお掃除セットに
みんなが一掃されるのを眺めるのは
少し悪趣味な、優越感のある
私の好きな瞬間だった。)

※セット: いくつかの大きめのうねりが等間隔でくる、サーフィンに向いている波のかたまりのこと。時間の間隔を空けて定期的にくる。

セット間(セットとセットの間の時間間隔)は数十秒の時もあれば、長いと30分に一回ということも。

私の気持ちは置いてけぼりで、
参加人数の多いメンズショートから
淡々と大会が始まる。

午前はまだ風も弱めで
なんとか試合になっていた。
それでも、一緒に参加した同期は
こてんぱんにやられてノーライドで
上がってきた人もいたくらいだった。

私のヒートはより風の強まった午後。
不安しかなかった。
参加者は全部で5名なので、いきなり決勝戦。

風に吹かれながらも
応援に背中を押されて海に向かう。

“ゲット(※)でだいぶ右に流されるから、
左端から入った方がいいよ。”

※ゲット: うねりから波に乗るために、沖に向かってパドルをし、海上での適切なポジションに向かうこと。

先輩のアドバイスに従って、
スタートポジションは
コンテストゾーンを示すために
立てられた左フラッグのギリギリからにした。

“それでは、ウィメンズロングの
ヒートを開始します。
選手の皆さんはゲットを始めてください。”

司会の合図で海の中へ。
他の参加者に置いていかれたくないと
必死にパドルするも
すぐに大きな波が迫ってくる。

ローリングスルーを試みるが、
波のパワーに負けてしまい
思いっきり引っ張られる。

※ローリングスルー: ロングボードで沖に向かう時、波を避けるために使う技術。波が目の前に迫ってきたらボードと共にひっくり返り、波の通過を海の中で待ち、通過後は素早く反転してパドルを再開する。

板を離さないように必死にしがみつく。
落ち着いてからなんとか水面に顔を出すと、
次の波がすぐそこに。

板の上に戻る時間はない。
そう判断し、板を捨てて潜る。

ぐるぐる、ぐるぐる。
まるで洗濯機で洗われるかのように
波の渦に引き込まれていた。

もう自分がどこにいるかなんてわからない。
息がもたない、苦しい。
とにかく、水面へ顔を出したい。

外からはもがいてるようにしか
見えなかったかもしれない。
”ここでパニックを起こしたら死ぬぞ”と
自分を落ち着けて、なんとか冷静を保つ。
とにかく必死だった。

試合時間のうちに沖に出て、
波に乗らなきゃ。
波の合間で必死に板の上に戻り、
下手くそなパドルで沖を目指す。

そして、また、波に飲まれる。

次に水面に顔が出た時、
1人の参加者が波に乗っているのを
視界の左端で一瞬捉える。

すごいなぁ、ちゃんと沖に出て乗ってる。
あれ?
私、”左端”からゲットし始めたよね、、?

視界にも頭にも”沖”しかなかったが、
そこではじめて岸を振り返った。

すると岸には、大声を出しながら
手を振っているサークルメンバーたちの姿が。

“コンテストゾーンはもっと左!
一回上がってこーい!!”

ここでやっと自分の位置がわかった。
ゲットし始めた時には1番左にいたのに、
気づけば右端のフラッグを飛び出して
さらに右にある河口付近まで流されていたのだ。
その距離、200メートルはあった。

驚愕だった。
だって、まだ始まって数分しか経ってない。
それなのに、私はあっという間に流されていた。
何より怖かったのは、
”気づかぬうちに”ということ。

ここから戻るのは無理。
一度上がろう。

そう思った私は、上がるためにも
またもみくちゃにされながら、
板と共に打ち上げられた。

もう体はへろへろだった。
だけど、砂浜を走って迎えにきてくれた
サークルメンバーとともに、
板を引きずってなんとかフラッグ間の
コンテストゾーンに戻る。

残り時間はあと5分ほど。
沖に出るのはもう諦めた。

足のつくところで
スープを捉え、なんとか立ち上がる。
私にはそれが精一杯だった。

試合終了のホーンに、安堵した自分がいた。

結果は、4位。
1人は試合途中でリタイアし、
ジェットスキーで救出されていたので、
実質最下位。

それでも、悔しさより
怪我なく無事に上がれた安心感の方が
ずっと強く感じた。
(悔しさは家に帰ってから猛烈にやってきた。)

ちなみに、同じヒートで
まともに波に乗っていたのは1人だけで、
今では世界中で戦っている憧れの
プロロングボーダー 田岡さんだった。

こうして、
楽しくて悔しい思い出とともに
海の怖さを胸に刻み、無事帰路へ。

私に取っては色々な意味で
一生忘れられない
貴重な初コンテストとなった。

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ここまで読んでくださり、
本当にありがとうございました。
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