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『これ、料理長から』〜箱根 旅館単発バイト物語〜

物語といっても、たいそうなものではない。
いつも通りの、日記のようなものである。

さて、10月11日、日曜日。
私は、大学の後輩たちとの練習を終え、駅へと急いだ。
箱根に行くのである。

旅行?
不正解ではない。

正解は、
旅行しつつ単発バイト
である。

そう、この日は、箱根のとある高級旅館で、バックヤードのお仕事をするため、箱根に向かった。

勤務時間は18時から22時。
車があれば帰ってこられるだろうが、免許すらない私にとっては、このバイトは不可能だ。
と思っていた。
いや、不可能ではない。
泊まればいいのである。

そう思い当たり、まずはその旅館を調べる。
少なくとも2万円はしそうだ。
きつい。

少し範囲を広げると、強羅にGoToトラベル利用で2,500円となる、温泉旅館があることに気づいた。
良いではないか。

さっそく予約する。
すると、地域共通クーポン1,000円も発行された。
実質1,500円で温泉旅館である。
値段が安いので、あまり期待せずに、でも楽しみにしていたのである。

さて、JRでまずは小田原へと向かう。
バイトとはいえ、半分は旅行である。
旅行といえば、特急or各駅停車のボックス席で駅弁である。

私の選択は、これだ。

2人旅ではない。
1人旅である。

これをほんの10分ほどで平らげ、そこからは車窓風景を堪能することとした。

換気という名目があるので、窓を開けても白い目をされない。最高だ。
私は、開けた窓から感じる爽やかな風が大好きなのである。

16時に、宿泊する宿に着く。
さっそく、大浴場へと向かう。
白濁した温泉。湯船は十分に広い。

びっくりした。これだけで、日帰り入浴として800円くらい取られてもよいくらいの設備だ。

部屋も、古い旅館という感じ。
匂いは少し気になるが、許容範囲である。


17時を過ぎたので、バイト先に出勤することにした。
山道を歩くこと30分。
到着

中に入ると高級感あふれるエントランス、廊下が続く。

差し入れを渡すと、驚かれた。
初めてだよこんなの!と。
これが結局、この日の私の幸福度を上げることになるのである。

私に任された仕事は、皿洗いだ。
食器洗浄機を使い、拭き上げ、元の位置に戻す。
カフェでのバイト経験があるので、大型の洗浄機の扱いも慣れている。
作業は単純だが、旅館スタッフの会話を聞いていると、飽きない。

2時間ほど経った頃に、少しいかつい支配人の方が、何やらお皿を持ってきた。
舞茸の炊き込みご飯が、おむすびにされている。

そして、こう言った。

"これ、料理長から"

一瞬、声が出なかった。
すると、支配人はこう続ける。

"ほら、食べて!おにぎり、美味しいよ!"

お礼を言って、さっそくいただいた。

とても美味しかった。

そりゃそうだ。料理を売りにした高級旅館なのである。美味しくないはずがない。

たぶん、差し入れをしたことへのお礼なのであろう。
とても嬉しかった。

しかし、1番嬉しかったのは、支配人の心遣いである。

なぜなら、おにぎりを持ってきてくれる前の、支配人と料理長のやりとりが、洗い場まで聞こえてきていたのである。

支配人が、料理長にこう言った。

"彼にさ、おにぎり1つ握ってくれない?"

そして、料理長がこう答えたのである。
"あ、いいですよ"


そして出てきたのが、あのおにぎりだ。

しかし支配人はこう言った。
"これ、料理長から"
と。

何を美徳とするかは、人それぞれだ。
しかし私はこれを、美しいと思った。

支配人は、単なる照れ屋なのかもしれない。
しかし、自分があげるんだぞ、という気配を一切見せず、料理長から と伝えられる支配人の心意気が、自分は気に入った。

支配人は横浜で30年間旅館を営んでいたという。
人をもてなす、ということについて長年考えてきたのであろう。
その精神に少しだけ触れられた気がして、なんだか、とてもあたたかい気持ちになった。

"また来てな、次はぜひうちに泊まってな"
"いや、高過ぎて無理です笑"
こんなやりとりをして、旅館をあとにした。

旅館からの帰り道は暗く、叫びたいほど怖かったが、気持ちは晴れ晴れしていた。

といっても、やはり怖い。
友人に電話をしながら、なんとか下山した。

なんとも言えない解放感と喜び、そして疲れが全身に溜まっていた。
コンビニを見つける。
普段あまり酒は飲まないが、なぜか飲みたくなった。
レモンサワーを購入し、旅館に戻る。

お気に入りのおつまみと一緒に楽しんだ。すぐに酔いが回った。
久しぶりにたくさん寝た。

次の日は、優雅な朝風呂からスタートした。
白濁した湯に浸かり、計画を練る。

強羅は、何度か家族で来ている。大涌谷なども考えたが、たいていの観光地は行ったことがある。

大人しく、ゆったりと帰路につくことにした。
箱根湯本で、カフェに入る。鉄分が高めの、素敵なカフェだ。

お昼過ぎになり、空腹になったので、小田原に向かう。
行ったことのある海鮮のお店がある。
奮発して、ランチメニューの最高値のお膳を頼んだ。

最高だった。

そしてその後、ミスドのコーヒーを啜りながら、箱根旅行に想いを馳せ、noteを記しているのである。

何事も、挑戦だ。
単発バイトと旅行の組み合わせ、自分は気に入った。
非日常は、人の感性を磨くと思う。

これからも、いろいろなことに挑戦したい。
そのすべてに価値がある。


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10月12日(月)
○部活の書類だいぶ進んだ
○TOEICようやく当選!笑
○来週の面白いことをもう1つ企画
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では、また。

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