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19の梅雨
こちら自分の感じたものをべらべら喋るものになっております。
悪しからず。
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雨が好きだ。
何も考えず、ただボーっと窓ガラスに付いた無数の水滴を眺めている時間が堪らない。
ぽつりぽつりと重力に逆らうことなく落ちていく雫。
物理の法則にはどうあがいても敵わないよ、という降参の表情も垣間見える。
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雨が好きだ。
街の喧噪を完全にシャットアウトし、独りにしてくれる。
どうやらお迎えの車の到着だ。ごたついた外界から逃れるための車。
無数の雫が降りてくる日、人間によって形成された「街」から私だけをピックアップしてどこかへ連れて行く。
その集合体から切り離されて初めて、自分が「街」という巨大なシステムを構成している一部だったのだと認識する。
生活音を遮断してくれる雨は、黙って孤独を肯定してくれる。
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雨が好きだ。
極めて無機質で、繊細な雨音が体に沁みる。
ザーザー。これは、ふと窓の外を眺めた時の音。
会話に詰まると、「今日は雨かよ~」なんて分かりきった事をつい口走ってしまうのは多分一生直らないのかもしれない。
曇天模様は気だるさを加速させる。やる気はどこかに置いてきた。
ダンダン。これは、雨がトタン屋根を力強くたたく音。
隣家の倉庫の屋根は、ひどく古びていて映画のセットを連想させる。
お世辞にも鮮やかとは言えない赤茶色の錆びは長年の雨との勝負の証なのかもしれない。
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雨が好きだ。
先日、雨の日に散歩をした。
散歩をしようと外に出るや否や、こびりつく様な湿度が私を襲った。
その不快感を抑え、どこに行くわけでもなく小一時間適当に歩いた。
白色でも黒色でもない鉛色の空はまるで自分の心を精巧に模写しているかのようで少し気味が悪かった。
大して寒くないだろうと思っていたが、完璧に誤算だった。肌寒い。
これが温度からくる「寒さ」なのか、気味の悪さからくる「寒さ」なのかはよく分からなかった。
何しろ、久々の外出なので体の感覚が麻痺していた。
しかし、適当に歩くのは案外楽しいもんだ。何にも縛られない上、どの道を選んでも良い。
人通りの少ない道を選ぼうが車がひっきりなしに通る国道を選ぼうが誰からも何も言われない。
どの道を選んでも正解は存在しないし、その逆もまた然り。
どこかに落としてきた「自由の楽しさ」を改めて感じることができる。
見慣れた線路沿いの道が、
「雪化粧ならぬ雨化粧だよ~どう?」
なんて話しかけてくる。どうやら雨で化粧は落ちちゃったみたいだ。残念。
小雨のせいで、いつもは遠くからでもくっきりと見える駅近のマンションが今日は霞んで見える。
本当にそこに建っていたのか疑いたくなる程にぼやけていたので、雨が必死になって人間から隠してるようにさえ感じた。
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雨が好きだ。
雨によってぼやけた景色が私にはとても魅力的に映る。
雫はこの世界の輪郭を艶めかしくなぞって、奪う。そしてぼやかす。
そういった雨がもたらす怪しさ、曖昧さに強く強く惹かれる。
忙しない日常を送っていると、雨によってもたらされる結果にばかり振り回されてしまう。
雨そのものと会話してみると、いつもは見せない哀しい表情を見せてくれたり、意外にもおしゃべりであったりと色んな発見があった。
今年の梅雨はそういう梅雨みたいだ。
おわり