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「総譜に見る第九の不思議な魅力。」

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ベートーヴェンの第九交響曲は、新しさと不思議な魅力を備えた交響曲である。
私は、第九の総譜を見るたびに不思議を感じる。
それは第1楽章の冒頭部分にある。
楽曲は二短調で構成されているのに、主和音で開始せず、おそらく属和音と思われるA、E音のみで、開始している。

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一般的にこの時代の作品は、楽曲が持つ調性の主和音から始まるのが通常のスタイルだ。ベートーヴェンの交響曲も第8番までは、古典派の伝統を引き継ぎ、主和音で開始する。
この彼の新しい考え方を、作曲家や音楽学者の文献で、あらためて読み直してみると、一様に彼の調性不明な表現、神秘的表現の出だしなどと述べている。

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これは属和音A、E音の2声の持続音で始められ、第3音C#がないためで、A、E音の和音が鳴り続くと、聴き手は和音の第3音がない空虚な響きを感じさせられ、この響きが私たちを暗い神秘的な不思議な世界へ、
引きずり込む原因となっているのだろう。

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理論的には、第3音C#が入ると、ニ短調、二長調の属和音、あるいはイ長調の主和音で、Cが入るとイ短調の主和音となる。
しかし、第3音がないため調性が不明で、
調性音楽としては、ニ短(長)調とイ短調の間を、聴き手がさまようような状態になってしまう。

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第九のニ短調の調性が判明するのは、21、22小節目である。
その後すぐに冒頭のの序奏部分を再現するが、ここでは二短調の主和音D、Aで現われるので、ベートーヴァンは、冒頭ではイ短調を考えたのかもしれない。
このように考えると、彼は今までの伝統の音楽形式、主調から属調への調性移行に反し、
属調から主調への移行の新しい分野を開拓しようとしたのだろう。

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音楽学者たちの分析では、全楽章を通して、
DからAの音の間で旋律が基本的に書かれていると説明されており、
確かに彼らが述べるように、総譜から読み取ることができる。
ベートーヴェンは第九交響曲という壮大な作品を創作するに当り、
もう一度、音楽の原点に立脚し直しているようだ。

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例えば、ヴァイオリンの調絃の基本音Dを弾くと、同時に自然発生する倍音の第3倍音A~第9倍音Eへと響く。
第1楽章と第2楽章はニ短調で、第3楽章の変ロ長調をはさみ、第4楽章のニ長調へのつなぐ。

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「歓喜の歌」の主題はD~Aの音の間で創作され、ニ短調における倍音の響きを、より明確なニ長調で輝かせ、さらに声楽を加えた
ダイナミックな音響を創り上げた。繰り広げられる第九の演奏で、聴衆が感激させられるのは、当然な姿だろう。

(MIYABI)

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