ep.17 雨のシャワーをきみはすきだと言った
新玉ねぎ、春キャベツ、そら豆。時季の野菜が店頭に並びはじめて、見るだけでときめきます。調理方法がまったく浮かばない芽キャベツだって眼福。ころころまるくてかわいい。
こんばんは。たまです。
生きるために日々食事をつくっているようなわたしだけれど、春野菜には料理してみたいなと思わせる魔力があります。
生活の日記
雑談のテーマ第1位は未だに天気の話だと思っている(わたし調べ)。
天気の話って続かないし、つまんないとの声はよく聞いてきた。なかには苦痛だという同僚までも。
しかし、天気の話が案外好きだという稀有な者も、世にはいる。わたしである。
仕事で久しぶりに県庁へ行く機会があった。前回タクシーに乗って向かったときは運転手さんが癖ありで(県庁って…なんですか…?と哲学のような問いをされたりなど)、今回は大丈夫かしらとやや不安に乗り込む。
運転席からおじいちゃんが「これも配ってますんで」と振り返りざまにポケットティッシュをくれた。県庁へ、と告げながら受け取ると、短く返事し、すっと車を走らせる。
話題が思いつけば車内で話すのは好きなのだが、その日はなんとなしに車窓を眺めていた。無言でも苦ではない空気が流れていた。最近のタクシーは後部座席にモニターが設置されており、風呂の修理を頼むアンミカのCMも2分に1回威勢よく流れていた。
「あったかいですよねえ、今日は」
のんびりした口調で運転手さんが話しかけてくる。ちょうどビル街を抜け、陽のあたる坂道へ入ったところだった。
「ほんとそうですね、昨日まで冬って感じで寒かったのに」
「ですよねえ、今日は春みたいにぽかぽかだ」
その「ぽかぽか」と話すトーン、速度、質感が、柔らかくて暖かい温度で明るかった。それは、あんまりにも文字通りの「ぽかぽか」だった。普段からこの天気を「ぽかぽか」という言葉で表しているのかと推測できるほど、彼と「ぽかぽか」の蜜月を垣間見た。
なにか話そうと思って雑談を持ち出してくれたのだろう。あるいは春の陽気に高揚したのかも。どちらにしても、わたしの心はさっきよりぬくもっていた。誰かと、同じ天気を「ぽかぽか」という朗らかな言葉で共有できたことが嬉しかった。
もしや天気の話じたいを好んでいるわけではないのかもしれない。誰にも等しく存在している天気だが、感じ方は人によって違うはず。言葉を介しながらその感覚を共有するプロセスが、わたしには喜びなのかもしれない。
思い出してみれば、ジブリ映画「おもひでぽろぽろ」でも、このシーンが好きだった。
主人公たえこちゃんを好きな広田くん。恋の噂なんて秒速で広まるのは小学生あるあるで、ふたりは若干気まずいなか、放課後道端で会うのだ。
そこで広田くんがたえこちゃんに勇気を出して尋ねた言葉が、当時のわたしを大いにときめかせた。
驚きながらも、たえこちゃんは「くもりの日」が好きだと答える。すると、ぱぁっと明るい表情になった広田くんが「おんなじだっ」と喜ぶ。
「くもりの日」というちょっと特異な、すきな天気を共有しあうふたり。特別を交換して、喜びいっぱいになるシーンのなんと愛おしいことか。
わたしは晴れている日がやっぱりすきで、とろけそうなぽかぽか日和だと尚しあわせ。だけど、くもりの日や雨の日も、その天気をすきなひとたちを思い出して恋しい気持ちになれる。
あなたのすきな天気はなんだろう。いつか聞かせてほしいです。
今夜の1曲
Coldeの와르르♥(ワルル♥)を。
와르르(ワルル)は崩れるときの「ガラガラ」という擬音をあらわす韓国語。いじわるな「君」によって「僕」の心はガラガラ崩れてしまう。どうかそんなことしないでよ、と脆さを歌うこの曲を聴くと、心の擦り傷が慰められるとともに、いつ誰かを傷つけているやもしれない自分へちくっと戒めを思います。
今夜はわたしにこの歌を出会わせてくれた、NewJeansのハニちゃんのカバーでぜひ。
ダウンコートはいつクリーニングに出せるんだ〜!な寒い今週ですね。近いようで遠き春。やむなしなのであったかくして気長に待ってあげよっと。
今日もおつかれさまでした。あなたも、わたしも。