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ep.97 感情の芽 師走の風速に散る前に

書類やメールに「2025」と打ち込む頻度が増えてきて、慄いています。理由があるわけじゃないけど、遠い未来のように感じていた西暦年ってありませんか? わたしにとって2018年から2019年は地続きだったんだけど、2023年はなぜか非現実な未来を生きている感覚になっていた記憶。件の2025年も後者で。

こんばんは。たまです。そんな”未来”までも2週間ちょっとだって、本当なのかい…と疑っています。


ここは、小さなラジオブース、あるいは寝る前の談話室。水曜日は「生活の日記」と「今夜の1曲」をお送りします。


生活の日記

12月がとてつもない風速で過ぎてゆく。それでも生活は営まれ、感情が芽生える。根を生やせず散ってしまう前に、この心のゆれうごきを記録しておく。

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美容院のスタッフの子、名古屋がふるさとだそう。いつか名古屋の喫茶店に行ってみたいな、と呟くと「おじいちゃんと早起きして行ってました」と返ってきた。

ドライヤーを準備しながら話してくれる思い出たち。鏡越しに目を合わすと、今日いちばんのくしゃっとした笑顔が飛び込んでくる。おじいちゃんってすごい。上京し日々大人たちのなかで緊張しながら励む孫を、一瞬でこんなに純粋な表情に戻す。思わぬ愛のおすそわけに春みたいな気持ち。ゴーッと吹きはじめたあたたかい風に身を委ねながら。

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兄の妻つまり義姉だが、わたしより年下な彼女から、最新の甥っ子写真をLINEで送ってもらう。艶々のお餅のような寝顔、入浴姿、ミルクタイム。「甥っ子、寝て食べてお風呂まで入ってえらすぎる…」と送ったら「どんどん成長中です!」と返信が来た。

成長、ということばの持つ眩しさに少々くらくら。大人にはすっかりハードルが高くなってしまったその任務を、懸命に全うする小さき命。わたしが思うよりきみはずっと力強いんだな、と感嘆するたび、叔母もがんばるね、と力が湧いてくる。

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旅の準備をしている。いつぶりに広げただろう大きめのスーツケースへ、洗濯を終えた衣類から丸めて入れていく。「終わってほしくないな」とまだ始めていない旅をすでに名残惜しく思う。どんな景色が見られるかな。五感も好奇心もよろこぶ旅になりますように。

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もやもやっと心が曇ったことより、グッと堪えて「おめでとう」と言えたことを覚えていたい。そうしないと、誰かの祝福に躓いてしまう自分をいつまでも憎んでしまいそう。にこにこ言えてえらかったぞ、でもたまにはもやもやのまま駄々こねてもいいよ、ってハグしてあげたい。

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こうやって思い出して書いてみると、嗚呼ちゃんと心が動いているじゃないか、と安心してきた。喜楽はもちろん、怒哀のこともまるっとたいせつにして、年末まで歩いて行けたらいいな。



今夜の1曲

荒井由実12月の雨 を。

もう、文学。それでいて、とても音楽。ユーミンの歌はどうしてこうも「ない記憶」を生成させるんだろう…!詩が音と一緒にからだにどんどん染み込んできて、ぼんやりとした寝起き・胸を締め付ける寂しさ・だいじょうぶになりたい祈りを一気に経験する。のに、聴き終えてから涙でしょっぱい思いにならないのは、この甘くてチャーミングなサウンドのおかげだろうか。

にしても50年前の作品と知り、震える。そして20年後、30年後の未来もわたしはずっとすきなまんまだと誓えるから、いっそう震える。


夜の長いこの季節だからこそ、こたつでアイス、をあなたのかわりに許可しちゃいます。甘やかしの夜を過ごしてね。

今日もおつかれさまでした。あなたも、わたしも。

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