【2010年代のベストアルバム100枚】Robyn "Body Talk" (2010)

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概要

"Body Talk"は、スウェーデンのシンガーソングライターRobynの通算7作目のスタジオアルバム。先だって告知された3枚のミニアルバムシリーズの最後を飾る作品で、事前にリリースされた『Body Talk Pt. 1』と『Body Talk Pt. 2』の収録曲すべてに、新曲を5曲加える形でフル・アルバムとして発表されました。全米アルバムチャート最高位は142位ですが、本国スウェーデンのアルバムチャートでは2位を獲得しています。

定期的に新曲をリリースしながら、ツアーと並行して制作された作品

「素晴らしい曲がこんなにあるんだから、やらない理由がないでしょ?」と語っていたRobynは6月に『Body Talk Pt. 1』をリリースした段階で3部作コンセプトを固めていました。

Robynはその理由について次のように語っています。「実際にアルバムを作ってから随分時間が経ってしまったからね!どうすればその期間を短くできるか考えていたら、私のマネージャーEricが今ある曲をリリースし始めてしまえばいいんじゃないかっていうアイデアを思い付いたの。そうすれば、ツアーもできるし、もっと曲も作れるしって。それでそういう風に動き始めた。一度スタートしてしまえば、理に適ったやり方だと思えるだろうって私は考えている。長い空白期間なくリリースし続けれるしね」

さらに最終的には、このツアーをしながらレコーディングに取り組む方法から、新しい視点が生まれたと語っています。「1年半もスタジオにいると、他人から切り離されてしまうから、少しオタクっぽく自分の作品について考えてしまう。ライブでどうやってコミュニケーションを取るのかっていう、実用的な観点から物事を見れなくなるかもしれない。おかげで、二つの世界を融合させることができた」

ジャンルの壁を破壊したクラブミュージックを祝福して

今作の音楽的方向性について「古いディスコ、テクノやハウスなんかをたくさん聴いてたから、そういうのを念頭に置いたアプローチをこの作品ではしたの」と語っています。「躍動的なベース、アルペジオ、そしてシンセ。それぞれに明白なソロが必要だったの。私たちは『この作品にはシンセのソロが要るね』なんて話して、すごくダサいけど美しいの。耳に心地よくて」

また今作のゴールは、商業的なポップがクラブミュージックという音楽のサブカルチャーを内包して、ジャンルの壁を破壊してきた歴史を祝福することだったと彼女は語っています。「私にとって、クラブ・ミュージックの目的は動くことなの。自分自身と対話して、自分の周囲と関わりを持つための手段なわけ。私にとって心安らかになれて、インスパイアされる場所だから」

メインストリームとは違う道を選び、辿り着いた自分のやりたいポップミュージック

Robynは1997年のデビュー作『Robyn Is Here』でアメリカでもシングルヒットに恵まれた当時を「楽しんではいたけど、私の夢が叶ったわけじゃなかった」と振り返っています。「17歳の子にアイデアがあっても、誰も耳を傾けてくれないもの。両親はいつも自分のやりたいと思えることをやって創造的になれるよう、いつも背中を押してくれる環境にいたから、この業界の考え方に馴染めなかったの」

さらに自分のレーベルを立ち上げ、インディーとして活動しながらポップミュージックにこだわり続けた彼女はこれまでを次のように振り返っています。「私はインディー・キッズでは決してなかった。クラブ・キッズでポップ・インダストリーにすごく早い段階で飲み込まれていった。だから、時間をかけて自分で他のやり方を試行錯誤する必要があったの。だけど一度これだってわかったら、そんなに難しい決断ではなくなった。失うものは何もないって本当に思ってたし、これが最後の手段って感じだったから。リスクを取る価値はあったし、うまくいったから良かった」

そして、今作では久しぶりに"Show Me Love"を手掛けた音楽プロデューサーMax Martinともコラボレーションを行っています。「前作では意識的に彼とは制作しないと決めていたの。なぜなら、自分で答えを導き出す必要があったから。だから、一緒にスタジオに入ったときはノスタルジックな感じだった。私にとって、パーフェクトなタイミングだったと思える。元に戻ってきたのね。私は自分の原点から距離を置こうとしているわけではないってことを証明する一つの方法って感じで。結局大事なのは楽曲そのものだから」

同時に、自分の経験や感情に忠実なアルバム

また、Robynは基本的にパーソナルな内容の曲しか書かないとも語っています。「私はいつも自分の経験に基づいて曲を書く。自分が共感できないようなものは書いたことがないと思う。一方で、スタジオに入るときにいつも何かタスクを考えているわけではないの」と彼女は明かしています。「アウトサイダー・カルチャーみたいなものや、若さに消費される若者みたいなものを正確に表現したい。誰かを除外したり仲違いさせないようにリスペクトを持ってね」

「『私は音楽でこの世界を変えるんだ』っていうような目的意識を持っている必要は必ずしもなくて、すごく正直で無意識に自分の中で持っているような共感できるものへとなるべく近付く必要があるの」

参照

リリース時の評価

2010年のベストアルバム・リストで、『Slant』が2位、『Billboard』『Entertainment Weekly』が3位、『Stereogum』が5位、『The A.V. Club』が10位にそれぞれ選出している他、多くのメディアがTop50以内に選出しました。

『Billboard』は「印象的なマーケティングの動きの中、ポップ・プリンスRobynは3つの『Body Talk』を今年リリースし、それぞれのアルバムでエレクトロビートとヘヴンリーなヴォーカルの卓越した融合を披露している」と称賛しています。「Robynは今年を勝利を収めたまま終え、アメリカにおけるポップ・アーティストとしての存在を確立した」

『The A.V. Club』は今作に収録されている"Dancing On My Own"、"Indestructible"、"Call Your Girlfriend"をその年のベスト・ダンスシングルのうちの3曲と称賛したうえで、それは「甘いポップ・サンデーの一番上にある輝き目立つチェリーにすぎない」としています。「このプロジェクトが今年受け続けていたハイプを正当化するに十分な素晴らしい楽曲の数々以上の存在、つまり彼女がポップ・スターとしての保証済みのステータスを持っていることを証明した」

2010年代における評価

2010年代のベストアルバム・リストで、『Slant Magazine』が5位、『The A.V. Club』が6位、『Consequence of Sound』が7位、『Pitchfork』が8位、『Billboard』が9位に選出した他、多くのメディアで50位以内に選出されています。

『Slant Magazine』は「"Body Talk"は今日のシンセ中心のユーロポップ流行の最高点とパーフェクションをどちらも象徴している」とその影響力の大きさを称賛しており、このジャンルで「Robynがここで制御しているように、皮肉っぽいウィットや鋼鉄の美しさ、そして素晴らしい一貫性を持って」アルバムを届けられるアーティストは稀であると称賛しています。さらに今作は、「この10年間でほとんどのポップミュージシャンが捨ててきた自我の目覚めの手に入れやすさみたいなものを提供している」と指摘しています。

『Pitchfork』は今作について、「イノベーター、エネルギッシュな創造者、そして祝福すべき複雑さを持ち合わせた女性として、Robynを再度紹介している」と指摘しています。「"Body Talk"の下には、それが孤独のどん底にいるときでさえ、揺るぎない自信の電流が流れている」

かみーゆ的まとめ

商業主義とセレブ文化に強く結びついていた2000年代のポップミュージック。2010年になってもその勢いは止まらず、Lady Gaga、Rihanna、Katy Perry、Bruno Marsといったアーティストによって、メインストリームにおいてヒップホップやR&Bの要素を取り入れた華美なエレクトロ・ポップミュージックが全盛となりました。その中であえて、Robynは"Body Talk"でダンス・ポップミュージックを”自分の脆さや弱さを見せるためのパーソナルな音楽”として再定義します。

面白いのは、彼女が"Body Talk"で語るその孤独感、一方で時には”ガールフレンドに電話して別れるよう”迫りもする強い意思は、テクノロジーの発展によって人々のソーシャル・ライフの在り方が変化した今、よりリアルに迫ってくることです。彼女は当時、”テクノロジーの発展はまだ初期段階にある”という見解を示しており、”人々のコミュニケーションのあり方を変えた”だけだと語っています。10年が経ち、たしかにテクノロジーは進化しましたが、結局私たちの生活は”コミュニケーションの質や手段”しか変わっていないようにも思えます。彼女の鋭い考察は正しく、人々のコミュニケーションのあり方、その時にどう人が感じるのかを自分の経験から語った"Body Talk"は10年かけて熟成していき、誰もが共通して抱いている漠然とした不安に寄り添う作品となりました。

この作品の成功がなければ、いまのポップミュージックの世界はもっと違う色合いをしていたかもしれません。Carly Rae Jepsenを代表とする様々なインディー・ポップ・アイコンが生まれなかっただけでなく、華美なエレクトロ・ポップを連発していたLady GagaやKesha、Rihannaなどによる当時の音楽が過去のダサい商業主義の産物となっていたかもしれません。しかし、ダンス・ポップが普遍的な音楽にもなり得ることを証明したこの作品(と今もなお活躍する素晴らしいポップ・スター達)のおかげで、メインストリームやインディーと言った垣根を超えた今のストリーミング時代でも、ダンス・ポップは力強く音楽産業の中で根付いており、彼女のレガシーは引き継がれているのです。

トラックリストとミュージックビデオ

01. Fembot

02. Don't Fucking Tell Me What to Do

03. Dancing on My Own

04. Indestructible

05. Time Machine

06. Love Kills

07. Hang with Me

08. Call Your Girlfriend

09. None of Dem feat. Röyksopp

10. We Dance to the Beat

11. U Should Know Better feat. Snoop Dogg

12. Dancehall Queen

13. Get Myself Together

14. In My Eyes

15. Stars 4-Ever


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