映画『室井慎次 生き続ける者』感想(ネタバレ)
見てきた。
前作『室井慎次 敗れざる者』の時点でかなり好印象だったので、「この良い印象のままの後編だったらいいな」と思っていた。
結果、期待(大して具体的に内容を想像していたわけではなかったけど)と違わず、それ以上に、前作と同質の魅力のある映画だったので嬉しかった。
好きな映画を挙げろと言われたら入りそうなレベルで好き。
ただ、ネットの感想を見ていると否定的な意見も目につくので、悲しいし、影響されて自分の感想が変質していきかねないと思ったので、今の時点での感想を書いておくことにした。
特に構成を考えるわけでもないので、箇条書きで雑多に書いていく。(タイトル通り、ネタバレの感想になります。)
この映画を見る前の時点で、私は「室井慎次」というキャラクターが元々かなり好きだった。青島との約束がどう果たされるのかもやっぱり気になっていた。信念を果たそうと足掻く姿に尊敬すると同時に、信念は硬直し腐敗した組織の中で生き続けるための彼にとっての寄る辺でもあるのだろうと思っていた。『容疑者 室井慎次』は暗いし権力闘争でややこしいので映画としては好きではないが、室井慎次というキャラクターを理解するエピソードとしては好きだった。そういう、「踊る大捜査線」というシリーズのファンというよりも室井慎次というキャラクターのファンとして、この映画は満足できたし好きだった。
主要キャストと製作陣が長年一線でいることで、まだ青い若者の時代から熟した定年あたりの時代まで、描いてもらえる。これがまず嬉しい。
結論としては約束は果たせない。前編で室井慎次は「負け犬」と自称する(一方で映画タイトルは「敗れざる者」なのが、製作陣からのこのキャラクターへの愛を感じる)。その敗北感と罪悪感、無力感は引退後の秋田暮らしでもずっと引き摺っている。その意志を警察組織のなかで受け継ぐのが、とばっちりを食らって秋田県警に飛ばされた新庄(とその応援をする沖田)である。
しかし考えてみれば秋田県警トップとは、本来室井慎次自身が、改革室の業務の後に異動先として提示された部署だ。改革に失敗した室井慎次の最後の花道として用意されたという話だった。つまり、本来は室井慎次自身が秋田でモデル事業をすることも(発想とやる気がありさえすれば)できたのではないか。
多分本人がそれを思いつかなかったのは、一つには、「正しいことをするには偉くなれ」という言葉に真っ直ぐすぎたからではないかと思う。権力闘争にもまれる中で、偉くなることだけが「正しいことをする」ための道に見えていたのではないか。だから改革室での仕事が失敗したのち、「偉くなれなかった」という後悔を抱え、「花道」を拒んで秋田県警の仕事を蹴ったように見える。もちろん、改革室での仕事に全力投球して、燃え尽きる気持ちも大きかっただろう。とはいえ、結果論的に新庄の振る舞いを見た後の視聴者視点から言うと、名前を冠されるという形ではなく、やはり室井さん自身がその手でモデル事業を作って、ごくわずかでも約束を達成した、と言えるところまで警察組織の中でもがいてほしかったなと思う。でも、それでは良しとできなかったのかな。室井さんは大きいものを夢見過ぎたのかもしれない。あの高潔さと信念が呪縛にもなっていたのではと思う。対して、新庄はそこまでの潔癖さと大志を抱かないかわりに、バランス調整の上手な人間らしい(容疑者室井慎次の時の立ち回りから)。その人が後輩として意志を継ぐのはキャラクター的にも妥当だ。
そう言うことを考えると、個々人の人生に限った話としてみれば、最善(そんなものがあるのかわからないけど)の生き方をできたわけではなく、敗れている部分も囚われすぎた部分もきっとあるのではないかと思う。後悔も罪悪感も、ずっと胸に残る悲恋も、抱え続けたままのものもあるけど、その人だから達成できたことも人々に与えた影響も本当にたくさんあって、そういう人生の生々しさとザラついた感じがこの映画(とこれまでのシリーズ)では描かれていたなと思う。勿論人生の生々しさと言っても、フィクションの登場人物だし、ちょっと室井さんはカッコ良すぎるんだけれども。
愛着を持っていたフィクションの登場人物がその作品中で死んでしまうというのが私は初めてで、勝手に未来の姿とかをもう思い描けなくなってしまったことが受け入れられない気持ちもあるんだけど、人生を描く映画として見た時にはある程度幸せな最期ではあるのかなと思う。もっと子どもたちと田舎暮らしの余生を楽しんでいて欲しかったし、リクを預かるという約束も果たして欲しかった。道半ばで死んでしまった、とも思う。もっと不可抗力的な形で亡くなっていたら、未練も薄かったかもしれないのに、とも。本人も、死後の世界でまた罪悪感や責任感を抱えているのかもしれない。残されたこちらとしては、寂しい。でもそういうモヤモヤを含めて人の人生っぽいとも思う(脚本への不満として感じる部分も一部はあるけど)。
なんか他の話も色々と書きたかったのに、ここまで書いて満足しちゃった。気分が向いたらその他の感想も書きます。