人生の山を登る人、下る人、間をすり抜ける人
元恋人が言ってた。
「山なんて登らなくていい、間をすり抜ければいいんだよ。」
よくいえば、傷つかずに生きることが上手で
わるくいうなら、逃げてしまう臆病者だった。
わたしは山を登る選択をいつもしていた。
のぼるために必要なのは、幾冊かの本だった。
言葉はたくさんのことを私に知らせてくれた。
下るためにひつようなのは、温かい紅茶くらい。
頂上まで来てしまえば、あとは下るだけなんだもの。
鼻歌を歌って、景色を眺めて、一人で平気。
登る選択肢しかない山が人生にはあるなんて、私はこれっぽっちも知らなかった。
夏が来た。心がもうダメだと叫んでいた。
のぼるために、沢山泣いた。
夜の道端で、公園で、帰りのタクシーで。
ここにいる時が1番苦しいのだとその時はぼんやりと思っていた。
ある日、ぽつりと人に話した。
それから一人で泣きながら歩いてた夜も、地に足がつかないまま人に話した。
やっぱり、山を下るのはかんたんなことだった。
こんな暗い日がずっとつづいていくと思っていたのに。
ここ4日間くらい、私は泣かなくなったかわりに空っぽになった。
まるで蝉の抜け殻みたいに。
ベランダで朝までタバコを吸う。
土砂降りの雨の道を歩く夜。
何もたべる気がしないまま3日くらいが経って、なんとか一食を胃に流し込む。
眠っている間は夢ばかりみている。
朝日と透明になってしまった心で部屋の天井を眺める。
怠い体でギターを弾いて、眠るを繰り返す。
何一つ前へと進めない毎日に嫌気がさし始めた。
海のことばかり考えている。
もう立ち直れないかもしれないと愚痴をいうのにも、タイムリミットがやってきた。
天国はないけれど、あってほしいと思う。
月曜日、私の心は病気になってしまったのかもしれないと気が付いた。
つづく