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10.4%という数字を考える

日本の国会の現状(属性のバラツキの観点で)
日本の国会議員の比率は、
10.2パーセント(193カ国中165位)です。
(ここ1.2年でやっと2桁になった)

単なる数字でしょうとも思うけれど、意外とこの数字には目に見えない意味が存在するとも言えるかもしれません。

というのは、女性の割合がほんとうに「女性陣の行動様式」に変化を、ひいては「政策の質」に変化をもたらすには、それぞれに最低値が存在するということです。
それは、集団の中において異なる属性の人間はどのように行動するかを考えてみればわかりそうです。


クリティカル・マスの理論
「企業内女性行動の理論(クリティカル・マスの理論)」というものがあります。Rosabeth Moss Kanterが説いた理論です。そこでは、「組織内に存在する文化・社会的に異なるメンバーの比率が15%以下であるとき、差別的地位に固執し、15%以上になるとより積極的に環境に適応する」と主張されています。

私なりに雑に言い換えると、これは、ある属性のメンバーにその属性としての自然な思考や行動をしてもらうようにするには、組織の中にその属性のメンバーをただ存在させれば良いのではなくて、そのメンバーが自身の存在に自覚と自信を持って行動するための環境づくりが必要だということ。

で、このクリティカル・マス理論ですが、何も企業だけではなく様々なタイプの組織で言えると考えてもおかしくないと思います。日本の国会のジェンダー比率にこれを当てはめて考えると、女性議員が女性議員としてそれ特有のセンスやアイデアを反映させるような行動ができるようになるためには、ある程度女性議員を主流化させる必要がありそうです。

女性議員の割合を増やすことは当然それ自体で女性の立場を象徴する意味もあるけれど、目指したいのはおそらく政策の変化だと思うので。

*クリティカル・マスを政治分析に応用した例

ちなみに、実際に国会での女性比率と女性議員の行動の変化を「クリティカル・マス」の理論を使って説明した学者はいます。ちょっと古い研究ですが、Sue Tomasは、1970年代と1980年代のアメリカ州議会での女性議員の行動の変化をクリティカル・マスから説明しました。
ここでの女性の行動とは具体的に、委員会・本会議・男性議員との交渉などへのより積極的に参加したこと、女性・子ども・家庭関連の自身の優先政策を持っていたことです。Sueは、「女性議員は形だけの地位ではなく、組織化して相互目標で協調する場合、合衆国の州議会に対して識別しうる貢献を行う可能性が最も高い。女性州議会議員は、形だけの地位から主流メンバーの地位に以降するとき、そのような行動を採用する。」と結論づけています。


10.4%という数字はどう捉えられるのか
ということを踏まえて話を日本の国会に戻すと、10.4だとまだ女性が組織化しアイデンティティを発揮できる段階には(理論的にはだけど)達していないということです。

つまり、実質的に女性がそのセンスや思考を堂々とぶつけるには不十分な環境で、政策形成おいて優先される事項に彼女らの視点はほぼ盛り込まれていないといっても良いのかもしれません。

しかも、10.4は10.4のまま放っておいてる今は割と悪循環というか突破口を見失っている…という状況だとも言えます。制度的に、その他の女性が加勢するための安全性もない、みたいな。
だって、かなり勇気がある女性だったとしても、10人に1人しか女性がいない環境に飛び込んでいくのはハードルが高いです、多分。なったとしても自分が女性としてのアイデンティティを発揮するというより一旦男性に認められるために男性化して「勝た」なくてはいけないので本末転倒なうえ、男女間の対立が助長されるという悲しい状態になりそうだから。

翻れば、一旦マジョリティ化(この言葉が良いチョイスなのかはわからないけど)さえすれば加速度的に女性が女性を集めてアイデンティティを発揮できるようになるはずなんですけどね…


まとめ
実際クリティカル・マスの理論だけで女性議員の行動様式について説明できるかはわからないけど、でも肌感覚的にこの理論が言いたいことはわかるな〜と個人的には思います。
というかこれを逆に考えれば、今日喋ったことはクリティカルマスの理論とか言わなくても感覚的にみんなわかってることだな…
とも思うのですが、それでもあえて理論や用語を使ってある事実を解釈し直すというのは応用して考えるために効くと思ったのでわざわざこんなことをしてみました。

あとちなみに、でも結構重要なのですが、日本の国会のように特定の組織で男性がマジョリティとなったことは決して男性自身のせいではないと私は考えています。文化や社会が複雑に絡み合った、構造的な問題だと思います。

あともう一つちなみにを付け加えると、男性女性という二元的な議論からも早く抜け出したい…。女性議員を増やすのも女性が男性の立場に「おいつくこと」を目的とはしていないと思うし。いかに多様な属性の人がそれぞれの意思を発揮できる議論の場にするかが最終ゴールじゃないですか。

というのは一旦さておき、じゃあ、特定の属性の議員の割合が低いという日本の議会の状況に変化を与えるにはどうすれば良いのか?
ということになりますが、
これについては次で書いてみたいです。
選挙制度のこととか、強制力のあるクオータ制とか…

参考:
Monna Tremolai, ed., Women and Legislative Representation: Electoral Systems, Political Parties, and Sex Quotas,2008
Sue Thomas, How Women Legislate, 1994
吉野孝先生の講義

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