捨てられたソファー
「最も後悔されること。
それは自分に対する敬意の欠如」
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ
8時45分
何度目のアラームだろうか
ゆっくり起き上がる君
スマフォ手に取りラインを返す
多分会社にだろう
起こせと言わんばかしの目つきで
僕にスマフォを投げつける
少し機嫌が悪そうだ
遅刻と
ぼそっとつぶやき
支度をする
僕がこの家に越してきて早4年
気づけばこの光景が当たり前になっていた
最初こそ君は僕にべったりで甘えん坊
楽しい時も怒ってる時も
辛くて泣いてる時も
僕のそばにいた
今はどうだろうか
仕事に追われ
付き合いを大事にする君と
フリーランスで基本
家にいることが多い僕
会話の数も減れば
喧嘩をすることもない
俗にいうマンネリだろうか
支度する背中を見て
ふと思う
9時30分
君が先に家を出た
僕はベランダから見える
向かい側のマンションに越してきた
猫を眺めるのが好きだ
この何も考えない無の時間をただ眺めるだけでいい
偶然カーテンが揺れて部屋が見えた
あっ
目が合ってしまった
ある日の夜
君は珍しく機嫌が良かった
楽しい事でもあったの?
別に。
そっか そう一言返す
それを境に君が家に帰る回数が減ってきた
もちろん二人の溝は広がるばかり
それを意味するのは分かり切っていた
1週間経ったころ
別れを切り出された
好きだけど好きじゃない
僕は何も言えなかった
何も返せなかった
行く当てもなくただ
道端で座り込んでいた
何時間座っていただろう
だんだん瞼が重たくなると同時に
見覚えのある男性が近づいてきた
しかし耐えれず深い眠りについた
何かに舐められながら目を覚ますと
そこには見覚えのある猫と
君が住んでいた部屋が見えた
ベランダから見える部屋は
空っぽになっていた
僕を拾ってくれた人が
楽しそうにマグカップを持って
猫と一緒に私に座る
懐かしい