抜け殻の遺書

「ここ最近、停滞している感覚がある。人間は齢とともに成熟し、あるいは成長するというけれど、僕の場合、高校生かそこらの時からずっと成長していない感覚がある。ぼくは今年で30歳になるけど、心はずっと幼いままだ。中学生のころ僕はクラスの中心人物だった。それが高校に上がると落ちこぼれ、自信を無くし、それからずっと魂が抜けたままだ。地方の三流大学に入り、結局それも中退してしまった。両親は顔を合わせるたびに失望した、諦めたような表情になり「仕方がないから…」と呟く。仕方がない?はっ。ぼくの人生は「仕方がない」のだろうか?
確かに…彼らから見れば、僕なんて落ちこぼれの出来損ないだろうさ…でも、こんなふうになったのも、もとはと言えばお前らが勝手に期待をかけて、僕の自主性を奪い、未来に対する重すぎる期待で僕を押しつぶしたせいなんだからな?それを、お前らの所為で抜け殻になった僕を見て「仕方がない」とは?ははっ。笑っちゃうよ。確かに僕は仕方がない奴だよ。この齢になるまでまともな職に就かず、彼女もできず、無意味に、目標もなく、ただただ空っぽの日々をすり潰してきたんだからな。誰がどう見たって、お前が浮かばれないのはお前の所為だ。いろいろと人の所為にしてるけど、本当のところ、全部自分の所為なんだ…大した能力もないくせに妙にプライドだけ高くて、そのくせ小心翼々で思い切った行動ができない。思い通りに行かないのを、今はまだだからと言い訳して、決定的な決断を先へ先へ引き延ばす。いつも他人を馬鹿だの冷淡だのと罵っておきながら、決して自分から心を開こうとはしない…こうなったのも、結局は全部僕が蒔いた種なんだ。同情なんてできないさ。どこからどう見ても僕は他人から見たら犬なんだ。
…こんな僕でもまだきれいな頃があっただろうか?まだ魂が汚れておらず、自由な感情をわだかまりなく素直に発露させていた時期があったのだろうか?人間は生まれ落ちた時は白紙《ダブラ・ラサ》であるとどこかで聞いたことがあるが、そこからどうやったら黒に染まったり、あるいは白いままでいることができるんだろう?
僕がこうなったのも…僕の所為ではあるんだけれど…根本のところ、僕の所為ではないんだ…何か運命が僕を導き、僕が今いるところまで僕を拉してきたんだ。どうしようもないこの僕だけれど、でもこの惨めさも、屈辱も、押し込められた憎しみも、どうやら全部引き受けなければいけないらしい。引き受けるということが、僕に残された唯一の積極性の残滓なんだ。僕の両親、教師、上司、味方だと嘘つく偽善者、お前らは正しい。でもお前らが見下し、慰み者にする「仕方がない」奴の人生を僕は僕の自由で選んでやるんだ。それが僕の誇りでもあり、首にぶら下がった勲章(あるいは烙印)なんだ。
でも、もうさようなら。結局のところ、僕は滑稽な存在なんだ。君たちの笑いものになるくらいなら、消えるよ」

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