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優秀主演女優から配達員へ
時は遡り、2013年8月2日。
中学3年の私は部活終わりに大飯を食らっていたのだが、テレビで放送していたMステから変な歌声が聞こえてきた。
一体なんだ、この歌い方は。
今はこんなバンドが流行っているのか。
その前に前髪を切ったほうがいい。
中学生ながら、流行りについていくことを諦めた。
クリープハイプとのファーストコンタクトは最低だった。
それなのに、最低だったはずなのに、
数日経ってもあの変な声が頭から離れず、気付けばYouTubeで憂、燦々のミュージックビデオを見ていた。
気付けばタワレコのレジに立っていた。
初めて自分のお小遣いで買ったCDは、変な声のバンドのCDだった。
それから、たくさんライブに行ったし、たくさんCDも買った。
ファミレスで副店長に怒鳴られながら、ランチ帯の古株のおばさんパートの闘争に揉まれながら、音楽のためのお金を稼いだ。
いつの日かライブやミュージックビデオの映像制作に携わりたいと思うようになり、そういった類の専門学校に進んだ。
専門学校で課題に追われる中、苦汁100%の発売に合わせてインストアイベントの開催が発表された。
なんとあの尾崎世界観と話すチャンスがあるらしい。
参加券を勝ち取るには、可能な限り早く本を手に入れる必要があった。
しがない学生だった私は、発売当日、授業抜け出し作戦を決行した。
作戦の成功率を上げるため、事前にさりげなくお腹痛いアピールをしておいた。
そろそろ猛烈にお腹が痛くなる頃だ。
さぁ、準備は整った。
高揚か罪悪感か、どちらか分からない理由で滲む手汗を拭い、トイレに行きたいことを先生に申し出た。
もちろん止める者はいなかった。
なぜなら、お察しするほどの完璧な演技力だったからだ。
私は駅前のHMV へ走った。
その結果、1番に買えた。
その年の優秀主演女優賞は蒼井優だったが、裏の優秀主演女優賞は私である。
映画のタイトルは「なんか出てきちゃってる」でお願いします。
実際出てきちゃってないし、もよおしてすらないけど。
イベント当日、
尾崎さんに自分が就活生であることと、ライブ映像の制作会社を受けていることを伝えると、待ってるよと言ってくれた。
憧れの人の言葉は、何よりも支えになる気がした。
結局、上京して入社した映像の制作会社を2ヶ月半で逃亡し、数回転職した後、今はUber Eatsで生計を立てている。
優秀主演女優だった私は、みなさまのお食事配達要員として生きている。
本当はクリープハイプと働くはずだったこの東京で。
待ってるよと言ってくれた尾崎さん、私の人生を変えてくれたクリープハイプ、東京に送り出してくれた両親、奨学金を貸与してくれた国、すみません。
映像の仕事を辞めてもうすぐで5年になるが、
ライブに行くと罪悪感がご丁寧に顔を出してきてどうしようもなくなる時がある。
それでもやっぱりライブに通ってしまうのだ。