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米作りの温暖化対策
米価の高騰がニュースで話題になってます。それで、農林水産省が毎月出しているマンスリーレポートを覗いてみました。そこで見付けたのが下のグラフです(1 米の民間在庫情報, 在庫-1)。米価の高騰が始まったのが昨年(5/6年)の6月位でグラフでは黄色の棒です。黄色の棒と今年の7月・8月の在庫が少ないのは昨年の収穫が十分で無かった所為ですが、10月になっても在庫量は前年・前々年の在庫量に届いてません。
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米に関するマンスリーレポート(令和6年12月号)
米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等には11月の数字も出てますが、状況の好転は見られ無い様です(下のグラフ)。こちらのグラフには直近の数年のデータを示してますが、令和3/4年以降、民間在庫は減少を続けており、今年は、とうとう米価に影響するまで減少したって感じの様です。このデータから見る限り今年(2025年)どころか来年(2026年)の米価まで気になってしまいます。
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米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等
農林水産省は米価の維持を目的に田圃の面積を減らし米の生産を抑制する「減反政策」を行なってきて、その流れは未だ続いてる様ですが、何を目標に置いてるかが気になる処です。それで、米の生産と消費のデータを纏めてみました。「米に関するマンスリーレポート 資料編(令和6年12月号)」に農林水産省の「主食用米等の需給見通し(米の基本指針(令和6年10月30日))」が掲載されてます。以下に推定方法を引用します。
【需要見通しの算出方法】
① 平成8/9年から令和5/6年までの需要実績をそれぞれ当該年の人口で除し、各年の1人当たり消費量を算出
② ①で算出した値を用いたトレンド(回帰式)で、令和6/7年(令和6年7月から令和7年6月まで)及び令和7/8年(令和7年7月から令和8年6月まで)の1人当たり消費量(推計値)を算出
③ ②で算出した値に令和6年及び令和7年の人口(推計値)を乗じて算出
米に関するマンスリーレポート 資料編(令和6年12月号)
下のグラフが一人当たりの消費量の推計値ですが、2024年が明かにはずれ値になってます。この外れ値を如何に判断するかが政策ですが、農林水産省は通常変動の範囲内と判断してます。
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では、供給はというと、やはり農林水産省が「令和6年産水陸稲の収穫量」というレポートを出していて、そこに集計が記載されてます。点線は指数函数を用いた回帰分析の結果で2025年・2026年値への外挿(推定)の為です。こちらで見ると、需要に対する収穫量が少しづつ減少してきており、2024年でその差が表面化したと解釈できるかもしれません。ここで「10a当たりの収量」を見ると、ほとんど変化してません。つまり、米の生産量の減少は耕作面積の減少、つまり農林水産省の生産調整の産物です。
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農林水産省の米生産調整の目標には、食料品安全保障とか消費者物価安定とか幾つか考えられますが、錦の御旗は「生産者保護」つまり農業振興と期待されます。しかし、令和の米騒動に於ける坂本大臣の反応は流通業者の利益に偏重しており、消費者物価は何処まで耐えれるか限界を探る、農家は御情け程度って感じです。経済規模からすると、農林水産省のデータによると食品関連の経済規模の内、生産者の参与は約1割で残りは流通業(外食産業を含む)です (令和4年農業・食料関連産業の経済計算(概算))。坂本氏の様な昭和の高度経済成長の夢から覚めようとし無い政治家が農林水産大臣なら仕方無いって感じです。
も一点、気になるのが、2023年の米の作柄は2024年に米が実際に不足するまでは米不足になる程の不作だったという声は聞かれ無かった。つまり、農林水産省も含め農業関係者は温暖化による米の高温障害に付いて十分な認識が無い様に感じられる。2024年の作柄でも、高温対策が有効で収量が改善したという話しは余り聞け無い。ここで座視してるとお腹が空くって訳で、何が可能か考えて見る為に、地方別の生産効率を見てみました。データは農林水産省の「作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物), 令和x年産水陸稲の収穫量」を令和元年から令和6年までです。
前述の様に、全国平均の「10a当たりの収量」は安定してるのですが、地方別に見ると、西日本の生産性の低下を東北と北海道が補っての安定といった様子です。米作の高温障害が最初に表面化したのを2023年(令和5年)として2022年からの変化を見れば判るかと思います。つまり、米作りの高温障害対策として有効なのは、「米の産地を緯度の高い地方に移動する」です。
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気象庁が12月15日に発表した「日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2024年:速報値)」によると、2023年と2024年の気温はそれ以前と比較して急激に立ち上がってます。2年間で1℃ (0.5℃/年)の平均気温偏差の上昇です。現時点では、2025年が同じペースで上昇を続けるのか、再度安定化して1.4 (℃/100年)のペースに戻るのかは判断でき無いでしょう。そこで、政策担当者に期待されるのは、若し、気温の急上昇が継続した場合(ワーストケースシナリオ)の対応策を準備しておく事です。直接的に言うと、産業として余裕の有りそうな北海道での米作推進です。米価維持に対してはリスクと取られるでしょうが、安全保障の為です。保険と同じで、事故が起きなければ保険代は無駄になります。でも、事故が起きたときの社会的損失と比較して許容範囲内の保険代なら払えるハズです。
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日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2024年:速報値)
2024年の日本の平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差は1.64℃(速報値)で、1898年の統計開始以降、2023年を上回り最も高い値となりました。日本の年平均気温は、様々な変動を繰り返しながら上昇しており、長期的には100年あたり1.40℃の割合で上昇しています。特に1990年代以降、高温となる年が頻出しています。