
偏西風の故郷について
偏西風が地球の自転によって惹起されるという仮説を前に書きました。その時の仮説では、大気が地球の自転に追従する為の力は地球表面と大気の摩擦力と仮定してます。ところが、地球の自転は地面が東に進む方向で動いており、若し大気がその位置から動か無いと仮定すると、地上の観察では東から西への風 (東風) が吹くはずです。偏西風の向きは西から東と逆方向なので、更なる風力の源が存在するはずと推察しました。
地球と地球上の流体との相互作用の判り易い例として海流の流れる向きと自転の関係を見たのがその次のノートですが、此方は地球から自転による動きを摩擦力を介して受取った海水が、西向きの海流を作り、その西向きの流れが岸に当たって向きを変え南北の高緯度方向に向う海流を形成するという解釈と矛盾し無い様です。
一方、大気と地球の間にはヒマラヤ等の高い山脈が存在しますが、偏西風の起源を説明出来る規模の反回には十分では無いと考えられます。という訳で偏西風の起源を気象データから探ってみました。
方法
データは「NCEP-NCAR Reanalysis 1」から取得し、Macintosh (Sequoia 15.2)上の python (Version 3.13.0)の Matplotlib (3.9.2) と Cartopy (0.24.1) を用いて画像化しました。作業環境は marimo (0.10.9) で構築してます。今回用いたデータは、uwnd (東西方向の風速, uwnd.mon.mean.nc), vwnd (南北方向の風速, vwnd.mon.mean.nc), omega (気圧座標系における鉛直速度成分, omega.mon.mean.nc), shum (比湿, shum.mon.mean.nc), air (大気の温度, air.mon.mean.nc), hgt (位势高度, hgt.mon.mean.nc)です。画像化にあたり、1980年 - 1999年の再解析値を月毎に平均しました。(ホームページ上で図が小さ過ぎる方は図だけを新ページで開くと少しましです。)
注意事項ですが、このノートのデータは1980年から1999年の月毎の平均値を使用しています。意図としては、人為的地球温暖化が人間に体感として捉えられる前の気象の理解を目的としており、現在の気象の解析を目的とはしてません。現在の気象分析には、基礎的知識の更なる蓄積が必要と考えてます。
結果と考察
先ず、正距円筒図法で風の向きと速さを画像化しました (uwnd, vwnd, 下図)。風の向きは東から西に吹く風(東風)が赤色の矢印で、西から東に吹く風(西風)を黒の矢印で、風の速度は矢印の長さと背景の色で示してます。下の図は、1月のデータで、高度は925 hPa面(~高度1000 m)です。地形は気象庁の再解析用データの引用で、白から緑の線で示されます。1月の図からは、多少斑は有りますが、赤道付近では東風が優位な一方で、高緯度領域では西風が優位です。此の所見は自転している地球の地表が静止してる大気を摩擦で引っ張るという仮説と矛盾はしません。


7月の950 hPa面の大気の動きが次の図です。数カ所で大気の流れの反回が見られます。一番目に着くのはアフリカ東岸のアフリカの角辺りの反回で、赤道近辺の東風から時計回りに反回した西風はヒマラヤ山脈の南を通って東南アジアから北太平洋に抜けています。此の風が南アジアのモンスーンの様です。更に東に向かうと、北アメリカの北部西海岸沖の太平洋上で南向きに反回し赤道付近の東風と合流している様です。その他、北アメリカ東海岸でも東風の反転が見られます。

7月の200 hPa面ですが、東風の反転は比較的低い大気中に見られる現象で200 hPa面では不明瞭です。

では、赤道付近の東西風について、その高度分布を検討します。その為に赤道面の大気の断面図を作成しました。真中の白塗りの処が地球に相当します。矢印の色、向きと長さが、それぞれ東西風の向きと風速を、背景の色がその地点の南北風を含めた風の絶対速度を示してます。経度上の位置は円周の外の数字が経度 (0, 90, 180, 270)で、等圧面高度が円弧上の数字で示されており、1000 hpa面が一番内側です。下図の内、上図が1月、下図が7月です。赤道面の大気の動きからも、低高度では東風が優位で、地表の動きの影響を比較的強く受けている考えて矛盾は無い様です。尚、7月に経度45°-90°にかけて観察される西風は、正距円筒図法で見られた東風の反回と合致してます。


次に反回部の少し東側、経度60°と240°の大円の等経度断面での風の流れを見ます。この断面図では"E0"が緯度 0° 東経 60°で、"W0"が緯度 0° 経度 240° (西経 120°)です。赤色が東から西に吹く東風で、青色が西から東に吹く西風で色の漉さが風速を示します。下の小さい図は経度の視覚化の為に経度60°と240°を正中にして正射方位図法で投影してます。東風は低緯度の比較的低い高度を西風は高緯度の高い高度を流れている様です。


比湿(大気の水蒸気量)とアフリカ東岸の東風反回の流れとの関連性を見てみます。此処では、地球の様な球体を平面に投影することによる錯覚を減少させる為に地球外からの俯瞰図 (正射方位図法)に投影しました。比湿分布を背景に投射し、風の向き・強度と照らし合わせる様に設定してます。此の表示下でも、正距円筒図法と同様に、7月にアフリカの東海岸領域で東風が反回し西風となって南アジアから東南アジアを経て南シナ海に抜けているのが見られます。水蒸気の分布については、1月はアフリカ南部は夏なので強い水蒸気の発生が観察されます。7月の東風の反回に関しては、水蒸気の分布ではアフリカの東海岸ナイル川の源流領域に反回の頂点から始まり北方向に広がる水蒸気の集積が見られます (下の図)。この水蒸気と東風反回との関連は更なる知見を得る必要が有りそうです。


次に背景を気圧に置換えて教示します。7月の東風の反回は気圧の高い南半球から気圧の低い北半球に流れている様に見えます。これらの気圧の変化が空気塊の動きにより気圧が変化したのか、空気塊が気圧分布に引かれて動いたのかの判定は今後の検討課題です。


冬の北風
ところで、冬(1月)の西アジア (アラビア半島、カスピ海) からの気流成分の内、北東に向かう気流を追いかけてみると下図 C: 000° (緯度), 060° (経度)から、下図 C: 045° (緯度), 045° (経度)を経由して 下図 C: 075° (緯度), 105° (経度)と、地球が丸い事を考慮すると、比較的直線的に流れている様です。



此方が冬の日本に吹く北風の生成経路の可能性が有りますので、今後、北極上空の空気塊の動きや垂直方向の気流も考えながら検討を続ける予定です。