DCD『アイカツプラネット!』に心を持っていかれた日のお話(前編)
【2022.05.24(TUE)】
この日、筆者はド田舎の社宅を離れ、映画館のあるショッピングモールを当て所なくうろついていた。仕事が休みだったので朝から映画を観ようと思い、前日に実写ハガレンの新作とシン・ウルトラマンのチケットをネットで購入し、当日寝坊して朝イチのハガレンに遅刻するというヘマをやらかしたのである。そのチケットは発券不可能になっていたため、ハガレンは15時頃の回を買い直し、13時からのシン・ウルトラマンまで筆者は数時間暇を持て余すこととなってしまった。
筆者は映画館と同じフロアのゲーセンに入り、生まれてこの方一度も成功した試しのないクレーンゲームや、遊び方のよく分からないメダルゲームで小銭と時間を浪費した。しかしそれも1時間程度で飽きてしまい、「同じ業務用ゲームでも何か確実に報酬が得られるもので遊びたい」という気持ちになった。
報酬が得られるもの、というのは、早い話がコインを入れると必ずカードやら何やらが出てくるアレ(アミューズメントベンダー、と呼ぶらしい)のことだ。幼少期には『甲虫王者ムシキング』、小学生の頃は『大怪獣バトル』、中学生の頃は『仮面ライダーバトル ガンバライド』『デジモンクロスウォーズ 超デジカ大戦』といった具合に、決してガチ勢ではないものの、こういうカードを使って遊ぶアーケードゲームにドハマリしていた。歳を重ねるにつれ関心が薄まり、今ではその類のゲームに全く触れなくなってしまったため、折角だから童心に帰って久々に遊んでみようと思った訳だ。
では具体的に何をプレイしようか――ゲーセンの一角、“そういうゲーム”が並ぶエリアをざっと眺めてみる。仮面ライダー……は今でも好きだが食指が動かない。ドラゴンボール……はよく知らないのでパス。ポケモン、ガンダム、ウルトラマン……よく見たらポケモン以外全部DCDか。ともあれ興味を引くタイトルが見つからなかったので、「じゃあいいか」と筆者はゲーセンを後にした。
※“DCD”……「データカードダス(DATA CARDDASS)」の略。バンダイが展開するAMベンダーのブランド名で、筐体から払い出されるカードを筐体のコンソールに読み込ませるとそのカードに描かれたキャラクターや特殊効果がゲーム内に出現する、お馴染みのアレ。
暇だしガシャポンとか玩具でも見ていくか、と、筆者はゲーセンから少し離れた玩具ショップの区画に足を踏み入れた。プラモデルや特撮のなりきり玩具等、いつの世も男の子が好きそうなグッズのディスプレイ群に自然と目が吸い寄せられる。大人になった筆者は、小銭を溶かすタイプの娯楽より、札金でひとつしっかりしたグッズを買ってそれを長期間愛でるタイプの娯楽に嗜好が移り変わっていたようだ。
そしてひとしきりウィンドウショッピングを楽しみ、男児向け玩具コーナーと女児向け玩具コーナーの境目に差し掛かった時、「それ」が目に留まった。
『アイカツプラネット!』。なんか既に10年くらいシリーズが続いていて、最近実写とアニメを融合させた映像作品の話題がTwitterで流れてきた、そういう感じのシリーズ。ひどくふわふわした書き方だが、この時点での知識が本当にこの程度しかなかったのである。筆者は女児向けゲームと縁のない生活を送ってきたオタクであった。
そんなアバウトな認識しかないゲームのマシンが妙に気になってしまったのは、以前Twitterで見かけたある動画の影響だと自覚する。
これのせいで、アイカツプラネット実機を見た瞬間の感想が「あっ! ミラーにインしてカードで戦う変身モノのあれじゃん!」だった。うん、そうなんだけど……
要は「自分の好きな作品(仮面ライダー龍騎)との共通点が話題になっていた」から印象に残っていたのだ。まあそれでなくとも有名なシリーズには違いなかったし、いつかアニメぐらいは見ておきたい作品として記憶されてはいたのだが。
近年のDCDでは珍しい上下2画面の筐体を思わずまじまじと見つめてしまう筆者。上画面には、作品キービジュアルで見かけたようなアイドル達と、もう一人、まるで一般のゲームプレイヤーがカスタマイズしたアバターのような風体のアイドルが並んでポーズを決めて映っている。そういえばこのゲーム、確か自分でカスタマイズしたアバター(アイドル)をゲームに登場させられるのだったか。よく見たら例の画面、その一人だけテイストの違うキャラの傍にひらがなで名前らしき文字列が浮かんでいる。これが恐らくプレイヤーネームだ。トップ画面に映し出されるということは、トップランカーやそれに準ずる成績優秀なアイドルだったりするのだろうか。
下画面では、タイトルロゴや関連作品・グッズの広告が表示される他、3Dモデルのアイドル2人が踊り、その手前でいかにも音ゲー然としたノーツが放射状に流れては弾ける映像も流れていた。これは他のアーケードゲームでいうところのデモプレイだろうと思った(これについては後編で詳述)。筆者は音ゲー全般がクソ苦手なため、ここで若干の敬遠を覚える。しかしアイドル達の造形や衣装、ダンスのモーション等は素直に「可愛い」と思えたので、筆者の関心は「そういやこういうのあるって聞いたな」から「ちょっとやってみようかな……?」へとレベルアップした。
DCDから離れて久しいとはいえ、同ブランドのお約束というか、基本的なシステムについての知識が一応あったため、筆者は最初にある仕様の確認を試みた。それは「プレイデータの保存」についてだ。以下余談。
初期のDCDは、あくまで「カードをスキャンしてキャラクターを登場・バトルさせる」ことが遊びの主旨であり、カードの組み合わせや戦う相手によって様々に変化する戦況やスコアを見て一喜一憂するゲーム性の部分はあくまでその瞬間限り、リザルトはプレイヤーの記憶や大会の記録として残るに留まるものであった。
しかしある時期(ムシキングにICカードによるデータ記録機能が実装されたのと同じ頃)から、一部のDCDにはそのリザルトを「蓄積」するシステム――正確には「ゲームプレイを経てキャラクターが成長する」機能が導入され始めた。例えば、ゲーム終了後に画面に表示されるパスワードをメモしておき、次回プレイ時に同じカードとそのパスワードをゲームに読み込ませると、カードのキャラクターが前回より少し強くなった状態で出現するようになる……といった実例が挙げられる。他にも、系列作品の液晶玩具とDCD筐体が赤外線通信で連動し、液晶玩具のキャラがカードのキャラと同様にゲームに登場したり、ゲーム内で獲得した報酬が液晶玩具に転送されたり、といった例もあるようだ。
そして現在では、専用のICカードによる詳細なプレイデータの保存(セーブ)がDCDのスタンダードとなっている。カードに描かれたキャラクターを召喚するだけでなく、プレイヤー自身がオリジナルのアバターとしてゲームに参戦でき、しかもゲームの都度アイテムや経験値を得て強くなるという胸アツなゲームシステムは、セーブ機能なしには実現し得ないものだ。
閑話休題。つまるところ「アイカツプラネットのプレイデータはどうやってセーブするのか」が気になったのである。DCD用セーブカードの入手経路は主に店で買うかキャンペーンで貰うかの二択(筐体から購入することはできない)なので、それを確保できなければ筆者は最新のDCDを昔ながらの遊び方でしか体験できないことになる。それは流石にがっかりが過ぎる。
筐体正面のテーブル部分には、カードスキャンの装置と、コンビニのマルチメディア端末等で見かけるようなQRコードの読み取り装置が備わっていた。読み取り部の説明書きを見る限りではこのゲーム、ユーザーを専用QRコード付きのカード(つまり完全オンライン)で管理・認証しているらしい。恥ずかしながら筆者はDCDのデータセーブにこういう方式があることを全く知らなかったので、これには少々驚いた。QRコードならDCD用ICカードのようにデータの読み書き回数も制限されない上、コードの控えさえあれば認証用のカードを紛失してもデータが失われることはない。実に良心的な仕組みだ。
で、そのQRコードが付いたアイカツプラネット用の認証カード=「アイドルライセンス」は、少なくともこの日店頭で手に入れる術はなかったのだが、筐体に貼られたポップには「公式HPでデジタルライセンスを発行できる」という記述が。今日からアイドルになれる…ってコト!?
「だったら……やるしかないじゃないかッ!!」と『マジンボーン』の竜神翔悟みたいな決意を固め、ポップのQRコードから公式サイトへアクセス。筆者はバンダイナムコIDを持っていたため、デジタルライセンスの発行は1分と経たずに完了した。
これで恐らく準備は完了、後はゲームを開始するだけだ。筆者はその欲望を解放するべくセルメd……100円玉を筐体に投入した。(筆者の記憶が正しければ、コイン投入時に鳴るサウンドはDCDではお馴染みの共通SEだったと思う)
「ゲームをする時は画面に近づきすぎないでね」という定番の注意喚起を経て、購入内容の選択を要求される。「ゲームだけ遊ぶ」、「スイング(=カード)を買って遊ぶ」、「スイングだけ買う」の3つから選べるようになっている。スイングを購入する場合、100円硬貨を追加でもう1枚投入する必要がある(つまりカード1枚が実質¥200)。カードなしでまともに遊べるとはハナから思っていないので、迷わず「スイングを買って遊ぶ」を選択。¥100で買えた従来のカードと比べれば確かに割高だが、筆者はもう社会人。少ない小遣いのやりくりに苦心していたガキの頃とは違うのだ。この程度でケチケチしてなるものか。
100円硬貨を追加で投入すると、ソシャゲの単発ガチャめいた演出と共にスイングが1枚「カタン」と排出された。……心なしか音が硬質だな……?
記念すべき最初の1枚を取り出し口から取り出す時、その硬質な落下音の理由が判明する。
スイングの材質は紙ではなくプラスチックだったのだ。
硬さと厚さの感触は「少し丈夫な下敷き」程度という印象。プラスチックならではの透明感とキャラクターイラストのファンシーさが相まって、ステンドグラスを思わせるオシャレなビジュアルになっている。流石アイドルゲーム、コレクションアイテムまで徹底した可愛らしさだ。ナリはほぼメンコだけども。
スイングの払い出しが終わると、次はアイドルライセンスのスキャンを促される。筆者は先程発行したばかりのデジタルライセンスをスマホに表示し、読み取り装置の上に伏せて置いた。すると数秒の間を置いて「よみこみ中…」の文字が映し出された。これはサーバーからのユーザーデータ呼び出しを意味するようだ。続けざま「スペシャルチケット」のスキャン画面も表示されたが、筆者は該当するコードを持っていなかったのでスキップ。
その後すぐアバターのカスタマイズ画面へと遷移。ここでは顔立ちやアイカラー等、全10カテゴリのパーツを自由に組み合わせて自分だけのアバターを作れる。
筆者はDCDが好き、という話をしたが、付け加えると「アバター要素のあるゲーム」もめちゃくちゃ好きなのである。ある時はリアルの容姿に似せて作り、またある時は性別すらリアルの自分から遠ざけて純粋に理想のキャラクターを作り、その仮想体でもってゲームの世界に飛び込む。そういう体験に筆者はどうしようもなく心惹かれてしまうのだ。とりわけ筆者がアバター機能を気に入っていたのはネットカードダス『サイバーワン』(サ終済)、次いで家庭用ゲーム『GOD EATER 2 RAGE BURST』。
筆者は男性プレイヤーなので、ここでは「純粋に理想のキャラクター」を目指してカスタマイズすることになる。「桃」ノ井モトキというPNなので桃色は入れたいし、差し色程度に青も欲しい。それ以前に髪型はどうしようか。ここはアバターの抽象的なコンセプトを先に決め、そこから逆算してパーツを選んでいこうか……などと数瞬の内に考えを巡らせ、改めて画面に向かうと、何やら画面左上の文字列が動いている。
【のこり 117 秒】
制限時間2分!! これは長いようで短いぞ。筆者は脳ミソにオーバークロックを施し、アバターのコンセプトと大まかな要素を大急ぎでまとめ上げた。
ぱっと思い浮かんだのは「ゆるふわお姉さんアイドル」。おっとり系の顔立ちにボリューミーなシルエットのロングウェーブ、セクシーさを出すために泣きぼくろも付けちゃおう。Twitterの自画像をモチーフに瞳はブルーで髪はピンク……えっ、メッシュカラーも指定できるの? 自由度高え~……じゃあ赤っぽいやつでいいや。メガネもあるなら着け……黒一色しかないのか……やべ、もう2分経つわ。ならひとまずこれでヨシ!
いい加減なカスタマイズでもそれなりに可愛く仕上がるのだから、流石大手のアイドルゲームだなと舌を巻くばかりである。
アバターを作った後は、プレイヤーの情報を入力する。プレイヤー名は同定のしやすさと字面の可愛さを考慮し〈もものい〉、年齢と誕生日はバカ正直にリアルのそれを入力。結果として「この歳からでもトップアイドル目指せますか?」みたいなプロフィールのゆるふわ新人アイドルがアイカツプラネットに産み落とされることとなった。
プロフィールの入力が完了すると、いよいよゲームがスタートする。プレイヤーは最初に、今しがた完成したアバターを使うか、それともアニメに登場したアイドルのアバターを使うかを選択できる。どんなアイドルにもなれる、誰でもアイドルになれる。それがアイカツプラネット。君も暴太郎だ!! 筆者はオリジナルのアバターでゲームがしたいので、キャラクターセレクトでは〈もものい〉を選択。
キャラクターを確定すると、先程作ったアバター〈もものい〉が画面上に現れ、左の掌を画面側、つまり筐体の前に立つ筆者に向けてかざしてきた。画面には「手を合わせてね」というテロップと、差し出された掌を強調するエフェクト。
ここへ至り、『アイカツプラネット!』という作品について新たに思い出したことがある。それはこの作品のキャッチコピー、「なりたい私へ、ミラーイン☆」……このゲームをプレイする我々は、理想のアイドルとして選んだアバターをただ操作するのではなく、自らそのアバターと一体化してアイカツプラネットの世界へダイブするのだ。
画面の向こうのアバターと手を重ねるこの操作――むしろ「儀式」と呼ぶべきかも知れない――は、プレイヤーとアバターが同じ動作をするという「現実と仮想の同期」、そしてプレイヤーが能動的にゲームの世界へ手を伸ばすという「現実から理想へのアプローチ」を同時に発生させている。要するに虚構に対する心理的な隔たりをプレイヤー自らの「手」で穿たせる仕掛けなのだ。
「貴方はもう、この世界に飛び込む準備ができている。後はその手を伸ばすだけ」。画面の向こうのアバターが、こちらにそう語りかけているかのよう。この作品からは、ゲーム性より先に「雰囲気」の部分で徹底的にプレイヤーの心を鷲掴みにしようという気概を感じる。これほどまでに気分のノるユーザー体験、昨今そうそうありつけるものではない。
筆者はドキドキしながら右手を伸ばし、アバターの小さな掌にぴたりと重ねた。瞬間、その接触面から虹色の光が拡散し、華やかなサウンドエフェクトが鳴り響く。同時にマシンからは「掛け声」が発せられ、筆者は思わず無声音でそれにユニゾンする。
「変身!!」
……じゃなくて。
「ミラーイン☆!!」
この瞬間から、筆者のアイドル活動=アイカツ!がスタートした。
ちょっと待ってくれ、この時点でめちゃくちゃ楽しいんだが……????
(後編へつづく)