燃ゆる
人生を切り売りして書いてきた文章が本になった。けれどきみは、それを僕の前で燃やした。夏の駐車場、蚊がいるから嫌だな、と思いながら燃やされる本を見つめた。あれ、そういえば、ここ数年蚊に刺されてないや。蚊も生きるのが嫌になって繁殖をやめたのかな。生きていたら何度も絶望することがある、そんな時僕は虫ケラにでもなりたいと思う。嫌われて、殺される。でもたまに運がいいと人間に優しくしてもらえる。そうだな、カエルとか。キモいけどさ、キモいけど、可愛いのもいるよね。人間に可愛がられて、一生を安全地帯で暮らすんだ。僕は虫が苦手だから、なりたいと強く思うことはないのだけど、たまになりたいと思う。人間って矛盾する生き物。僕は矛盾だらけだ。
僕が書いた文章は、きみにとっては燃やせるくらい価値がなかったんだ。それでも僕は書き続ける。そうしないと、死んでしまうから。たまに、文章は趣味なんでしょ、といってくる人間がいる。違う。違うんだ。僕にとって文章はやめたら破滅してしまうもので、趣味とかそんな次元じゃないんだ。血を流しながら、内臓が壊れながら、僕は詩を書いている。誰かに書くわけでもなく、ただ自分自身のために。生きていることは素晴らしい!なんて詩を書く気はない。あなたがそういうのを読みたいのなら、他のものを読めばいい。僕はただ人生の悲嘆を書き尽くしたいんだ。
僕が病気だから書けるのか?それとも僕だから書けるのか?
永遠に答えの出ない問題に取り組むこと。疲れを知らずに駆け巡る。そういうことを何年もしていると、自殺という肯定できないゴールが見えてくる。悲しいことに、そういう運命だったらしい。
僕は綺麗じゃない。僕の文章も綺麗じゃない。だからきみは、僕の本を燃やした。その事実だけが、頭に反響する。あの屈辱と興奮は、一生忘れないだろう。