見出し画像

お手伝い宇宙人とわからず屋地球人のお話(第五話)

もしかしたら、パイプはいつも、繋がっていたのかもしれない。


時が流れて、Mareは社長になっていました。夫に先立たれてから、シングルマザーとして子育てをする上で「不便だ」と思ういくつかの点について、改善する商品やサービスを発売すると、それが評判になり、売り上げとなり、仕事になりました。

今では子育てに関するいつくかの商品やサービスを取り扱う、小さな会社を経営しています。仕事関係で知り合った男性と再婚し、Mareはもうシングルマザーではありません。

Mareは、まだ、「引き寄せの法則」を信じ切ってはいませんでしたが、いつも気にかけていて、お気に入りの動画配信者は欠かさずみていましたし、自分のモチベーションを上げるツールの一つとして活用しているつもりでした。でも、ただそれだけのつもりでした。

でもある日。

子どもの頃に持っていた「絶対に晴れさせるてるてる坊主の力」に再会する日が来ました。それは、再婚したパートナーと結婚式を上げる日でした。


葬祭全部を同じ日に見る。



Mareとパートナーとは、籍を入れてしばらくたっていましたが、結婚式も披露宴もしていませんでした。入籍した3ヶ月後に、世界的な感染症が広まってしまい、どこもかしこもロックダウン。みんなお祝い事どころではありません。

会社の業績も傾き、どうにかしようともがいているうちに、何年か過ぎてしまいました。感染症が収まって少したってから、ようやく「結婚式、やろうか」という運びになったのは、単なる偶然だったのでしょうか。

「やる」と決めたら物事が進むのは早いものです。

日取りは6月4日の土曜日。ジューンブライドです。なぜこの日程になったかと言うと、それは良い日取りを選んで式場が挙げてくれた候補日の中から、自分やパートナーの仕事の都合、双方の親たちの仕事の都合、と大人の事情が満載でした。

Mareは口に出していませんでしたが、実は10年前の6月4日は前夫の葬儀の日でした。みんなの都合でこの日になったので、「同じ日に葬祭全部経験するって珍しいし、これも運命なのかも」と諦めて、自分だけの秘密にしていました。

テレビでは、「台風が近づいてくる」とニュースキャスターの人が言っていました。

「必ず台風一過」


結婚式の3日前。本当に大型の台風が上陸しました。パートナーの家族や親戚は、南の方にある離島に住んでいます。Mareはいろんな準備をしながら天気予報も見ていました。

Mareたちが企画した結婚式は、原宿にある古い神社で、雅楽の生演奏付きの花嫁行列をするというもので、晴れなければそのメイン・イベントはできません。

日本庭園から神社までの道のりを歩いて、参道でみんなに出迎えてもらうと言う人前結婚式は、雨の日の代替案は無いのです。

式場のスタッフさん、親戚や家族たちはみんな口を揃えてお天気の心配をしていました。実際前日は、Mareの住む地域も警報が出るほどの大雨でした。義妹や義弟を駅まで迎えに行くときに見えた川が、氾濫していました。

でも、台風の後って晴れるもんです。


Mareは自分がやりたいことは、絶対にできると信じて疑ってなかったので、ちゃんと次の日は晴れました。「当然だ」とMareは思い、みんな口々に「私が晴れ女だから」とか「俺が晴れ男だから」と冗談を言いながら、式を楽しんでくれました。

感染症のせいで、何年も「みんなで食事」ができなかった後だったので、より一層集まってお祝いをする、ということの価値が高まっていたのでしょう。みんなに感謝してもらって、お祝いしてもらって、Mareはやってよかったな、と思いました。


晴れ女とか晴れ男とか。そしてその大元は天国に。

披露宴の最後、パートナーが締めの挨拶をします。これで全ての式次第は終わりという時。彼は、こう言ったのです。

「昨日は警報が出るほどの大荒れだったのに、今日はこんなに晴れて、ありがたいなと思いました。

ただ、誰が晴れ女とか、晴れ男とかではなく、俺にはこの天気が、天国からCelareさんに”あと、頼んだよ”と言われたように思えます。

これからもMareと息子を大事に、仲良く生きていきます。」

と挨拶したのです。Celareとは、Mareの亡夫の名前です。自分の結婚式の最後の挨拶で、妻の前夫の名前を出す人がいるでしょうか!Mareは、パートナーがどんな挨拶をするのか知らなかったので、心底驚きました。


それにパートナーに、10年前の今日がCelareの葬儀の日だったことは話していません。それなのにこの日の天気の意味を、そう捉えてくれていたのです。


会場のみんなはボロ泣きでした。なぜならみんな、Mareが前夫と死別したことも、シングルマザーで起業までして奮闘していたことも、前夫が亡くなったときは息子がまだ0歳だったことも知っていたからです。たいして事情を知らない、式場のスタッフまで全員泣いてました。


でも、Mareは泣きませんでした。これが私の人生だ、と心底納得していたからです。

そして、何も話していないのに、披露宴の最後の挨拶にCelareの名前を出してくれる今のパートナーに、改めて尊敬の念を抱きました。パートナーの名前はVerum。名前の通りだな、としみじみ思ったのです。

式の日取りも、お天気も、何もかもが仕組まれたように完璧な日でした。後から振り返ると、いろいろとトラブルもあった割に、Mareは一貫してこの日が完璧になるものだと信じて疑っていませんでした。それは子どもの頃に感じてた「パイプがつながるような感覚」に似ているな、と後から思い出しました。

それは言葉を変えると、「Mareがやりたいことは必ず叶えられるという確信」です。


実は前夫を亡くした後、Mareはこの「パイプがつながる感覚」を子どもの頃のように感じる機会が増えたな、と思っていました。


なぜだろう?と考えた時、会社の経営には頭で考えるだけでなく、五感以上のものを感じ取って、物事を進めなければならない局面が度々くるからだと気がつきました。

会社員でいたときはこの「感覚」を押し殺さなければうまく適応できなかったのだと、理解できたのでした。

(続く)


いいなと思ったら応援しよう!