おしゃべりな森できのこに出会う
夏から気温が少しずつ下がり、雨が沢山降るようになって秋が来ると、にぎやかになる場所がある。きのこたちがあちらこちらに生えてくる森だ。
フランスではきのこ狩りは秋のレジャーのひとつ。私の住む街には大きな森があって、秋になると人々はパニエというカゴと、ナイフを持って森へ出掛ける。
フランスに来てはじめてきのこ狩りに連れて行ってもらい、きのこを発見したときの驚き、そしてそれを持ち帰ってオムレツにして食べた時の感動。とても嬉しかった。生産されたものではなく、自然にあるものを収穫して食べる、という事に大きな喜びを感じた。いくつかの記事でも書いているように、これが野生を食べるようになった私の原点だと思う。それから秋になるたび、いつ、きのこたちに出会えるだろうかとうきうきしながら森へ出掛ける。
森の散策の準備
どんな準備をして森を訪れたらいいだろうか。
まず服装。道なき道を歩く際に茨があったり、泥道を進んだりするため、トゲに刺さりにくく、また汚れても大丈夫な動きやすい厚めのパンツ、そして雨が突然降ったりする事もあるので、防水・防寒できるジャケットがあれば快適。靴は、防水のトレッキングシューズなど。
次に道具。ナイフとパニエ。ナイフは土を避けて収穫したいきのこを根本でカットするするために使ったり、収穫したきのこの土を落としたりするのに使う。収穫したきのこはパニエ(籐など自然素材で編まれたカゴ)に入れる。収穫したきのこが動きにくく、傷みにくいため。
そしてきのこ図鑑。きのこ狩りをする時は、何が食べられるきのこか、どれが毒きのこかを一通り知っておくほうがいい。大前提として、知らないきのこは採らない。私はきのこ図鑑で同定したり、覚えたりしている。散策のときにも持ち運びやすいサイズの図鑑があると便利。
あとはカメラ。見つけたきのこをとりあえず撮って、後からどんなきのこか調べたりするのに良いし、楽しい。
最後にハンターに注意。秋になると狩猟が許可され、ハンターが野生動物を撃ちに森へやってくる。こちらも秋のレジャーのひとつ。捉えられた動物たちはジビエとして販売されたり、加工して販売されたりする。森を散策中に響く発砲音を聞くとなんとなく怖い。ハンターがいる気配がしたら、誤射防止のため、蛍光ベストを身に着けるのが良い。だけど基本的にハンターと同じ場所での散策はおすすめできないので場所を変えるのがいい。
きのこは森のどこにあるのか
大きな森のどこに行けばよいのか?どこにきのこを見つけられるのだろうか?正直にいうと、どこにどんなきのこが生えるのか誰にもわからない。去年沢山みつけた場所に今年も来てみたけど、何も見つけられなかった、なんてことはよくある。気候や時期によっても変わる。だからこそ面白くて、見つけた時はうれしい。といっても、情報が全く無い中闇雲に探すわけではない。湿っていてきのこが生えそうな場所とか、きのこが生える条件のある木立の場所とか、そういった場所に目をつけておく。きのこ狩りというのは1度ではなく、何度も森へ足を運ぶ。そういう事を繰り返しているうちに、勘とか嗅覚とかが備わってきたり、こなかったり。
さて、散策で一番大切なのは、「迷わない」こと。散策するときは道なき道を行くのだから、迷いやすいもの。コンパスをもって方角を大体頭にいれながら散策するのが一番良い。ちなみに、スマホとかのコンパスの方角はあんまりあてにならない事が多い(森は電波が入りにくい)。GPSでポイントをマークするのは役立つ。私はコンパスをいつも持っている訳ではないので、出発地点をGPSアプリでマークして、太陽が自分から向かってどちらにあるかで方角を判断する。くもりや雨のとき、太陽で方角がわからないときが一番迷いやすい。
フランスで好まれているきのこ
当然だけど、フランスに生えるきのこと日本に生えるきのこは違うし、好まれるきのこの種類も結構違う。可食でおいしく同定がしやすいきのこをみてみよう。
-Cèpe / ヤマドリタケ
まさにきのこっぽいフォルムのきのこ。柄が太いのが特徴。フランス語読みは”セップ”、イタリア語では”ポルチーニ”。今年はCèpeの当たり年といわれ、私も森で大量(6kg程)にみつけたので、半分を冷凍し、半分を乾燥させて、冬の間を楽しもうと思う。割と大きくなるきのこだけど、大きすぎないもののほうがおいしい。収穫後の処理では、きのこの中に虫が同居してる事があるので注意。良い香りがして、シャキシャキしておいしく、何の料理にも合う。乾燥させると香りが強くなる。
-Girolle, Chanterelle, Chanterelle en tube / アンズタケ、ミキイロウスタケ
(↑はChanterelle en tube)
ジロール(シャントレル)はオレンジの鮮やかなかわいいきのこ。この鮮やかさは森で目立つので見つけやすい。フルーティーな良い香り。小さめ。名前がややこしいんだけど、Chanterelle en tubeはジロールより香りは劣るものの、似た種類のきのこ。ジロールのほうが希少価値が高め。
-Trompette de la mort / クロラッパタケ
黒くて小さめのきのこ。フランス語では”死のトランペット”という意味だが毒きのこではない。その見た目どおり、トランペットみたいな形をしている。珍しいきのこで高値で売られている。乾燥させるのにも向いている。強い香りが特徴的。以前森で大量に見つけた事が1度だけあったけれど、(写真には撮ってなかった)黒くて小さいため、発見する事自体がちょっと難しい。泥がついている事が多く収穫後の処理がちょっと大変。
-Morille / アミガサタケ
フランス語読みは”モリーユ”、春に生えるきのこ。特徴的な形をしている。めちゃくちゃ高値で売られていて大変珍しいきのこ。春になるといつも探すのだけど、見つけた事も食べた事もないので味の感想は無し。森より標高の高い山のほうで見つかりやすいと聞いた事はある。写真では右がモリーユで左は形の似ているシャグマアミガサタケ、こちらは食べると死ぬ。
-Pied-de-mouton / シロカノシタ
白くて固めのきのこ。フランス語読みは”ピエドムトン”意味は「羊の足」、もこもこした見た目で、傘の裏にも特徴がある。写真は以前大量に見つけたときのもので、いわゆる"fairy circle"と呼ばれるもの。白くて見つけやすいし、扱いやすい。味に強い特徴は無いものの、コリコリしてるところがおいしい。
以上、これらの人気のきのこは、シーズンになると森で収穫されたものがスーパーにも並び、販売され、購入できるようになる。天然ものなのでもちろん値段は少々張るけれど・・・日本のスーパーで購入できるきのこといえば、しいたけ、えのき、エリンギ、しめじ、マイタケなど豊富だけど、いつでもスーパーで買える、生産されているフランスのきのこはChampignon de Paris(マッシュルーム)だけです。
フランスのきのこ料理
可食のきのこはフランスでは主にどのように調理されているのだろうか。
メジャーなのはバターで炒めて溶き卵をからめてオムレツにする。シンプルなのできのこの香りを存分に楽しめる一品。他にも、パスタ、クリームパスタ、きのこと肉(チキンやビーフ)のソテー、ポタージュスープ、グラタンなどなど。「香り」をメインにした調理が多く、ソースに合わせたりもする。
日本でのきのこ料理といえば、きのこ鍋がメジャーではないだろうか。他にもきのこ汁、炊き込みご飯、天ぷらなど。基本的に「きのこの出汁」を味わう事がメインになる調理法が多い。使用するきのこも違ったりするし。
私は大量に収穫できた時はフランス風にも日本風にも調理して楽しみたい。
毒きのこ、死ぬきのこ、変なきのこ、かわいいきのこ
食べられるきのこの他にも、森にはいろんなきのこがいる。
-Amanita muscaria, Amanite panthère / ベニテングタケ、テングタケ
ベニテングタケは言わずと知れたもっとも有名な毒キノコ。森でベニテングタケファミリーに出会ったときは興奮した。赤い傘に白の斑点があからさまに毒々しいけれど、そこまで毒は強くない。しかも実はイボテン酸という、かなり強い旨味があるきのこ。食べても症状は嘔吐くらいですぐ回復する。茶色のテングタケの方が毒性は強く、神経系に作用する毒が含まれており意識不明に陥る事もあるが、致死性ではない。
-Hypholoma fasciculare / ニガクリタケ
森でとてもよくみかけるきのこ。かなり広範囲にニガクリタケが生えすぎてニガクリタケ村みたいになっている一帯を見た事がある。毒性は強く死亡例もある。見た目は地味で似たきのこはよくあるけれど、齧るとひどい苦みがある。色はみどりがかった黄色、倒木などによくわさわさ生えてる。
-Amanita virosa / ドクツルタケ
1本でも食べると死ぬ。かなり明るい白いきのこで、暗い森で見つけるとちょっと神々しい感じすらする、美しいきのこ。でも食べると死ぬ。白いきのこは毒キノコが多く、同定も難しいので基本的に触らない。
-Anthurus d'Archer / タコスッポンタケ
これもきのこ。私は最初に見た時、「地球に侵略に来たエイリアン」という言葉が思い浮かんだ。
その他今までに出会ったいろいろなきのこ
森の恵み
きのこ狩りは宝物を探すように楽しく、目当てのきのこが見つけられなくても、奇妙だったり、美しかったりするきのこに出会える。森を歩いて鳥の声を聴いたり、野生動物の跡をみつけたり、また野生動物を見つけたりするのも楽しい。心が満たされる豊な森が私は大好きだ。