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リユースの鍵となる3Dスキャニング──「山翠舎 時を重ねた古木をめぐる話」第7回
長野県を中心に「古木」の買取りから保管・販売、設計・施工を手掛け、常時5,000本という日本最大規模のストックをもつ山翠舎。
シリーズ「山翠舎 時を重ねた古木をめぐる話」では、その古木にまつわる仕事を紹介しています。
第7回は、京都工芸繊維大学木内俊克研究室と共同で進められている研究プロジェクトについてです。古木の流通・活用をより推進させるためには、その情報(データ)をいかに扱うかが鍵になります。産学連携の新たなチャレンジの現状報告です。
写真は第三回ふげん社写真賞グランプリを受賞し、写真集『空き地は海に背を向けている』(ふげん社、2024年)が出版された写真家・浦部裕紀による撮り下ろし。
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©京都工芸繊維大学
3Dスキャンシステム構築:バルナ・ゲルゲイ・ぺーター、西村穏、木内俊克(京都工芸繊維大学) 撮影機材協力:KYOTO Design Lab
情報の問題
前回は、古民家の解体・買取りの現場を訪ねた。相談を受けてから、まずは移築先を探るマッチングの期間を設け、それが叶わなければ見積りを行い、丁寧に解体をして貴重な材を回収する。その先には倉庫のキャパシティの問題、そして圧倒的な出口不足の問題があることが見えてきた。残念ながら解体される古民家は日本中に無数にあるが、ごく限られたエリアの、ごくわずかな木材が再び市場で流通しているに過ぎない。
古木が再利用されづらいのは、そもそも情報が流通していないことがひとつの大きな要因になっている。どんな材があるのかを知ることができなければ活用のしようがない。山翠舎の課題は、大町倉庫工場にある約5,000本のストックへのアクセシビリティを高めることだった。2022年から古木の3Dスキャニングの試行錯誤を始め、3DCGソフトでそのデータを組み上げたモデルをつくり、お客さんへのプレゼンテーションにも使っていたが、そのデータの重さ、すなわち情報の扱いにくさがネックになっていた。
適切な情報をつくること、しかもスピーディに、かつ物量を扱えるような方法の整備が求められている。
山翠舎と京都工芸繊維大学木内俊克研究室の出会い
そんな状況のなかでコラボレーターとして現れたのが、京都工芸繊維大学の木内俊克研究室だった。木内研究室は、かねてより解体された後の木材の活用に高い関心をもって研究を進めていた。
研究室の実践プロジェクトとしては、解体木材を含む非規格材のもつ個別の魅力を引き出しつつ、構造耐力も担わせ、一般的な木造工事に組み込むことを可能にするデザイン・加工・組み立てシステム「Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbers」があり、一定の成果を上げている。
また、研究室を率いる木内氏個人としては、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館で、日本の木造住宅を解体しヴェネチアへ運び再構築する展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」(キュレーション:門脇耕三)に参加し、3Dスキャニングを活用した実績でも知られている。
木内俊克特任准教授は研究の意義についてこう語る。「歴史的に見れば、1960年代までは建築材料としての木材はごく普通に二次使用されていました。それは木が貴重だったからです。しかし、高度経済成長期を経て、価格の安い輸入材に押され、次第に使い捨てのものになっていきました。他方で、この10年ほどの間に、地球環境問題への意識の高まりのなかで、建材のリユースが世界的に注目されてきていて、特にヨーロッパでは研究と実践が進んでいます。さらに、海外マーケットからの需要も高まっていて、そうした複合的なことが研究の背景にあります」。創造的な解体材リユースの機は熟していると言える。
研究室メンバーのバルナ・ゲルゲイ・ぺーター特任助教や、修士課程の西村穏氏を中心に、全国の様々な企業、事業者、活動を下調べしていたなかで、リサーチ対象の筆頭に挙がっていたのが山翠舎だった。2023年12月に一同で大町倉庫工場を訪ね、また、2024年3月には京都工芸繊維大学KYOTO Design Labでのシンポジウム「アダプティブ・デザイン」に山翠舎代表の山上浩明氏を招き、ディスカッションを行った。山翠舎と京都工芸繊維大学木内俊克研究室は、古木のデータ、3Dスキャニングに産学双方向から関心をもっている、言わば相思相愛の関係だ。
幸いにも、長野市の新技術等共同研究開発事業補助金が得られ、「建築解体資材古木の効率的な3Dスキャニングシステムの開発及び3Dデータの実用化」というテーマで共同研究が始まった。期間は2024年9月から2025年7月末までの11ヵ月。西村氏は大学を休学し、大町倉庫工場のすぐ近くへ移住し、山翠舎のインターンとしてこのプロジェクトに取り組んでいる。
何のためのデータなのか、効率化とは
共同研究は、そもそも木材のデータとは何か、そして何のためのデータなのか、という根本を考えることから始まった。一言で情報と言っても、個々の木材がもつ歴史や文脈、含水率も大きく関わる重量など様々な側面がある。山翠舎では、解体時に各材の出自と寸法について記載し、ラベルを付けて保管している。
今回の研究では、まずは木材の画像データに焦点が当てられている。それは、最も技術的な問題が複雑に絡み合っているところで、実験とフィードバックを繰り返さなければならないからだ。高い価値をもった唯一無二の古木として提供するからには、規格材を利用するための画像データのようなクオリティでは不十分で、傷やほぞ穴などを含む形や、色味を精確に捕捉する必要がある。しかし、データを精確に取ろうとすればするほど、手間や時間がかかる。ディテールと効率のバランスから有力視されているのが、被写体の複数の画像データを統合して3DCGデータをつくるフォトグラメトリ(Photogrammetry)という方法だ。設計・施工や販売といった実務レベルで使えることが、3Dデータ生成の精度の基準になる。フォトグラメトリによって生成される3Dデータは、用途や目的に応じてその性格や容量の調整が可能だ。例えば、プレゼンテーション用に形状をある程度単純化してデータサイズを減らしつつテクスチャに重点を置いた3Dデータや、加工のためにテクスチャの表現は落として形状の精確さを残した3Dデータなどに展開することができる。
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ハイクオリティな画像を撮るためには、室内環境の整備も重要だ。山翠舎の大町倉庫工場にてブースを構築し、いくつかのカメラ、スピードでスキャニングでテストが行われた。最終的に目指されているのはスキャニングの自動化だ。完全な3Dデータを作成するためのミニマムな撮影ルート、回数、木材の設置方法などを見定めるための実証実験が繰り返されている。
また、スキャニングを実施するためにはどの程度の広さのスペースを設けるのか。前回述べた倉庫のキャパシティと同様に、ここでも空間の有限性という問題に直面する。
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2024年11月、研究室の主要メンバーと山翠舎の山上浩明代表らが一同に集って行われた「合宿ミーティング」では、それら一連の課題をひとつひとつ確認し、具体的な方針へと落とし込んでいく議論が行われた。材配置、撮影、データ化などのプロセスのなかで、人間が行う作業をなるべく減らすことを目指していく。
研究期間は残り半年。古木の流通・活用をより推進させていくには、3Dスキャニングによる適切な情報の生成が欠かせないゆえ、期待は大きい。
文:富井雄太郎[millegraph]
写真:浦部裕紀
古木を使った建築・内装・展示デザインなどのご相談は、山翠舎のフォームからお気軽にどうぞ。
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