短編小説 『封鎖された部屋』



とある地方都市にある古いアパート。その一室、102号室は「封鎖された部屋」として有名だった。10年前に一人暮らしの男性が不可解な死を遂げて以来、誰も住むことなく、鍵がかけられたまま放置されていた。

大学生のリサは、そのアパートに住む友人ユウタを訪ねたときに、その部屋の存在を知った。興味本位で「どうして封鎖されてるの?」と尋ねると、ユウタは嫌そうな顔をしながら答えた。

「俺も詳しくは知らないけど……102号室では深夜になると男の声が聞こえるらしい。それで誰も住まなくなったとか。」

その話を聞いてもリサは怖がるどころか、むしろ興味を掻き立てられた。子供の頃からオカルトに興味があり、いつか本物の怪奇現象に遭遇してみたいと密かに思っていたのだ。

「じゃあ、ちょっと見に行こうよ!」

ユウタは嫌がったが、リサの押しに負けて、二人はその夜、102号室の前まで足を運ぶことになった。

廊下の電灯が薄暗く点滅する中、二人は錆びたドアの前に立った。何度も修繕された跡が見える古びたドア。その前に立つだけで、どこか冷たい空気が漂っているようだった。

「鍵かかってるよな……」

ユウタが安堵したように言った瞬間、リサはポケットからピンを取り出した。

「ちょ、何してんの!?」

「昔、ネットでピッキングのやり方見たことあるんだよね。試してみる!」

悪びれる様子もなく、リサは器用に鍵を開けてしまった。カチリと音がして、ドアがわずかに開いた。

中は真っ暗だった。懐中電灯をつけると、埃が舞い上がり、古い家具や散らかった書類がそのまま残されているのが見えた。

「誰も片付けてないんだね……」

リサが部屋を見渡す中、ユウタは早く帰りたそうにそわそわしていた。そのとき、どこからか微かな音が聞こえた。

「……今の、聞いた?」

二人は固唾を飲んで耳を澄ませた。何かを引きずるような音。それが部屋の奥、押し入れの中から聞こえてくるのだ。

「行こう。」

リサが先に押し入れの扉に手をかけた。ユウタは慌てて止めようとしたが間に合わなかった。扉を開けると、中には古びた日記が一冊だけ置かれていた。

「……これだけ?」

リサが日記を手に取り、ページをめくると、最後のページにこう書かれていた。

「見つけたら、次はお前だ。」

その瞬間、背後でドアが勢いよく閉まった。懐中電灯の光が激しく揺れ、部屋全体が冷気に包まれる。振り返った二人の目の前に、うっすらと人影が浮かび上がった。

それは、真っ黒な目で二人をじっと見つめる、かつての住人の姿だった。

翌朝、アパートの住人が管理人に通報した。封鎖されたはずの102号室のドアが開いており、中には誰もいなかった。しかし、床には埃をかぶった日記だけが残されていたという。

その日記の最後のページには、新たな言葉が書き加えられていた。

「次は、あなたの番。」


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