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全力姉
姉はなぜか私の友人達からの支持が厚い。
姉は特に社交的というわけでもなく、私の友人が家に遊びに来た時も軽く挨拶を交わす程度なのだが、その一瞬でみな姉を好きになってしまうのだ。姉を見たくてウチに泊まりに来た友人もいるくらいである。
私は姉とは全然仲良くないのだが、前に弟について書いたことだし、今回は姉とのことについて書くことにする。
それはまだコロナ禍で外出自粛が叫ばれていた頃のことだった。
私は受験生の夏休みでせっせと勉強していたのだが、大学生の姉はどこも行くことができず、ずっと家でゴロゴロしていた。
勉強しているとなりで音を出しながらダラダラYouTubeを見られると、さすがにカチンとくる。
イライラを積もらせながら三角関数を解いていると、突然姉がガバッと起き上がった。
「全力坂やりたい。」
全力坂というのは、若い女タレントが全力で坂を駆け上るだけを放送しているシュールな深夜番組だ。
姉の握ったスマホには全力坂の動画が流れており、自分もやってみたくなったのだという。
「お願いそのちゃん。今から撮影手伝ってくれない?」
姉は自粛期間で1番の目の輝きをしていた。そうか。そんなにやりたいのか、全力坂。
ダラダラしている姉にイライラしていた私だったが、情熱は人を動かすのだ。
「いいよ。」
そう返事をしていた。
数分後、私たちは近所の公園につながる坂道を前にしていた。時期は夏真っ盛り。セミがワンワン鳴いている。
「よし。まずはスタートから。なるべくいろんなカットを撮りたいから、よろしくね。」
姉は私の立ち位置や角度をテキパキ指示し、
「じゃあ、走りま〜す!」
と手をあげ、坂を駆け上っていった。
姉は走る、走る。
普段運動もせず、弟から もやし呼ばわりされていた姉だったが、懸命に走った。
いろんなカットを撮るために、私は崖から撮ったり、少し小高い位置から撮るよう命令された。テイクの度に姉は全力で走った。
何度目かのテイクの後、姉はゼェハァ言いながら
「よしっ、じゃあ次は、そのちゃんも走って!並走する感じで、撮って」
姉は走った。私も走った。
なんでこんなに頑張っているんだろう。汗だくの姉を撮りながら、ふとそう思った。
そんなこんなで姉が走る様子を撮影し終えた。私は受験生だったことを思い出し、勉強に戻った。姉はご機嫌だった。これから映像を編集していくらしい。
しばらくすると、姉と弟が揉める声が聞こえてきた。
「お願いお願い、台本読んでくれるだけでいいから。すぐ終わるから。」
「やだ。おれ、今スプラトゥーンで忙しい。」
どうやらナレーションを弟にお願いしているようだ。
汗だくで撮影した私としても、映像が完成してもらわないと困る。姉と2人がかりで弟を説得し、ナレーションをしてもらうことにした。
しかしスプラトゥーンを中断された弟である。不機嫌と仏頂面がもろ声に出ていた。
群馬県にある
この坂
この坂もまた
走りたくなる
坂である
番組お決まりのセリフを弟に言ってもらい、ついに姉の全力坂が完成した。
できあがった映像はよくできていて、このまま放送できるレベルだと思った。
「ねぇ、これ友達に送っていい?」
姉に聞くと
「え〜、、、ダメ。ただやりたかっただけだから。はー楽しかった。」
残念。姉ファンが多いだけに、映像をお見せできないのはもったいないなぁと思った。
でも姉は非常に満足したようなので、よかった。