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武者震い

ある夜俺は震えていた。
それは風邪をひいたわけでも無く、某ワクチンの副反応でも無く、はたまた気温が低かった訳でも無かった。
緊張にも似た期待と不安から来る武者震いだった。


秋といえばスポーツだ。昨年もそんな事を書いたのだが、今年はちと事情が違う。
息子はじめての運動会なのだ。

幼稚園のイベントにおいて、親には記録を残すという重要な任務がある。
子供達が主役であるのは充分承知ではあるが、親にとってもその年イベントは親人生に1度しか訪れないない撮影チャンスでもある。

そんな勝機を企業が放っておくはずもなく、巷にはこれでもかと撮影機器が商品として売られている。
他の親御さん達を見渡してみるとダントツ人気はビデオカメラである。おそらく所持率は80%以上。

やはり我が子の頑張りを静止画では無く動画で残しておきたいのは親心か。
そうなると【カメラについてる動画機能】より【動画を撮るためのビデオカメラ】を選択するのはよくわかる。


しかしどうだろう。
このご時世スマホで動画は簡単に撮れる。なんならビデオカメラがいくらコンパクトになったとはいえ日常で持ち歩く事はほぼ皆無だろうし、イベントでしかその力を発揮しない機器という事になる。

そうじゃなくてもあまり物を増やしたくない上に、外出の際も最小限の荷物で出掛けたいタイプの人間にはビデオカメラは欲しいけど欲しくない、そんな悩みの種だった。


確かに動画撮影においてビデオカメラは抜群のパフォーマンスを発揮する。
ズームと手ブレ補正の凄さは他の機器では到底敵わない。

イベントでの撮影に必須なのはわかっているのだが、年に数回しか登場しないスポット的な存在を所持するのが嫌で仕方ない性分なのだ。


よって今回の運動会は愛用のiPhoneと一眼レフカメラにズームレンズを装備していく事に。
しかし一眼レフにズームレンズを付けると手ブレがハンパじゃない。
そんなので撮影したブレブレで動画は酔ってしまって見れたもんじゃない。

せめて三脚でも使えればと事前に幼稚園に確認すると、
『三脚はどのエリアでも使用不可です』
との回答。これは絶望的。

早々と明日の為に眠る息子の横で俺は武者震いをしていた。
動画はiPhoneオンリーという脆弱な装備で不安しかないが、
「や、や、、やってやるぜー!!」
と1人士気を高めて眠りについた。


運動会当日は早めに到着して最前列を確保。いざ演目が始まると観覧席には緊張が走る。
全員が撮影という同じ行為をしてるにも関わらず、対象は全員別というエネルギーが混線する空間はある意味異様である。

周りを見渡してみると三脚を立ててる人がチラホラ。
「なんだよ!!ルール違反じゃないか‥!クソがっ!」
そう心で呟き、やったもん勝ち的な雰囲気に辟易しながら舌打ちをし狂ってしまう。

あっという間に1日は過ぎてゆきはじめての運動会はドタバタのまま来年には己への課題を残し終了した。
果たして撮影の仕上がりは‥‥‥。

結果
iPhoneでの運動会撮影はまあまあ可


やっぱりズームが弱すぎた。一応Proシリーズを使ってたいたが、特にこうした遠距離を抑えたい時にはiPhoneの小型のレンズでは無理があった。
しかし手ブレ補正は素晴らしくてその点はとても見やすい動画が撮れた。
昼間の撮影もあってか、予想よりかは良いものが撮れた気がする。


ビデオカメラを構える親御さん達はずっと撮影しっぱなしだったが、俺は時折iPhoneの限界を感じながら上手く撮れないところは撮影を諦めて記録より記憶に残す事に徹した。

「ディスプレイ越しに観るよりも己の眼で観る方が何倍も価値があるんだぜ!」
なんて負け犬の遠吠えを吠えまくりながらも、
「来年はビデオカメラ買おうかな‥」
って手のひらをクルクルしながらAmazonでビデオカメラを探している自分がいる。


久々にしっかりと参加した運動会は子供の頃以来だったが、昔とほとんど形を変えていない事にほっこりした。

入場曲にドラクエのテーマが使われていたり、年長さんの徒競走の音楽が令和のこの時代に【狙いうち】を使ってたりと胸熱な選曲だった。


現代の世の中はすごいスピードであっという間に移り変わっていってしまう。
こうしたイベントはいつまで経っても変わらずに昔の形のまま残ってくれると良いなと思えた素晴らしい運動会であった。

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