とりあえず生で!と言わせてくれ
プシュッ!夕方のコンビニを出た矢先に聞こえた軽快な音。
仕事終わりであろう初老の男性が、喫煙スペースでロング缶のビールを喉を鳴らしながら呑み込んでいる。
エアコンから離れただけで汗が噴き出る程の暑さ。そんな中で呑むビールはさぞ旨いだろうなぁとも思ったが、自分はそもそもアルコールが呑めない。
弱いとかの問題じゃなく、体が受け付けないのだ。挙句には注射する時のアルコール消毒ですら赤くかぶれる始末。
そんな体質なのだが、アルコールを呑む事への憧れは一丁前にあったりする。
酒に酔ったお陰で深い話が出来た、酒の席で一気に仲良くなれた、なんて事は自分にとって夢のまた夢。
『とりあえず生で!』なんてこの先の人生で口にする事は無いだろう。
【酒なんてのは呑んでればどんどん強くなるもんだ!】よく聞く文句だが、これだけは断言できる。こんなものは絶対にウソだ。
【楽して稼げます!】と同レベルのウソだ。
かくゆう自分もそんな言葉を鵜呑みにして、何度も強くなれると信じて酒を呑んだ事がある。
しかし結果は散々だ。強くなるどころか、むしろアルコールに対して拒否反応を示す様になってきた。
呑みたい理想と呑めない現実を埋めるように生きていく中で、とある処世術を身に付けた。
それが、アルコールに酔えないのなら、その場に酔えば良い。いうなれば酔ったフリだ。
側から見れば滑稽に映るかもしれないが、これが案外楽しくなれるのだ。
習得すれば、
『あれ?結構酔ってる?』
なんて言われる事もしばしば。
なんならシメのラーメンまで食べたくなるほどにちゃんと場に酔える。
この処世術を身に付けた事により、思わぬ副産物もあった。それは性格がオープンになれた事だ。
擬似的に酔う事が出来てオープンになれるのなら、普段からオープンにしていた方が人生楽しく過ごせるんじゃない?という思考だ。
お陰で今では、自分の事を包み隠さず話せるし、そうしていれば相手もパーソナルな事を教えてくれる。
酒は呑めなくとも、深い話が出来て、仲良くもなれるってなもんだ。
最近はアルコールを呑めない人や、やめたって人も多いなんて聞く。
若い方々に至っては、飲み会離れも進んでいるとかなんとか。
酒の席から一線引くのではなく、あえてその場に酔ってみるってのも一興ではないだろうか。