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Miss Americana

先日、チケットを持っていた友達に誘ってもらうという僥倖に恵まれ、Taylor Swiftの”The Eras Tour” 東京公演最終日に行ってきました。

テイラーのことは約10年ほど好きだけど、はっきり言ってにわか状態で、こんな私が行っていいのかな…?という気持ちで、誘ってもらってから慌てて予習・復習を始めたのでした。

https://www.netflix.com/jp/title/81028336

その一環で観たテイラーのドキュメンタリー映画 ”Miss Americana”。
子どもの頃から”Good girl”でいることを目指し、実際にそれを体現してきたテイラーが、ただの良い子ではいられなくなり、そこから抜け出していく様子。

楽曲制作やMVの撮影風景も興味深いけれど、そういうものよりも印象的だったのが、彼女がただの良い子ではいられなくなったきっかけとなるいくつかの出来事だった。

カニエ・ウェストから受けた攻撃。MTVアワードの授賞スピーチに乱入され、ビヨンセが受賞すべきだと言われたり、俺が有名にしてやったと下卑た表現で曲にされたり、どうしてここまで…?というほどの言動の数々。

ラジオDJによるセクハラ被害とそれに対する裁判。
被害を訴えることでメディアで同性からも異性からも批判され、勝訴しても得るものはないこと。

テイラーの曲では、この他にも過去の恋愛遍歴についてや自分自身についてあれこれ言われることについての思いがうかがえたり、トップスターならではの悩みが想像される。

私も正直、テイラーのような遥か遠い存在はまるで物語の登場人物のような架空の存在のように思ってしまっていて、特にセレブの恋愛に関しては、ゴシップガールのドラマのように、くっついたり離れたりして一種の話題作りのような華やかで軽いものという偏見を持ってしまっていたと思う。

けれど、授賞スピーチに乱入された時の困惑した表情、グラミー賞ノミネートの発表を待つ時の平常心でいられない様子やノミネートを逃したかもしれないと知った時のがっかりした表情・それでもなんとか気丈な感じを取り繕う彼女を見て、私と同じ等身大の女性を感じ取った。

カニエのような大物がここまで執拗に攻撃する対象には一般人はなり得なくても、周りの人からの嫉妬や批判、嫌がらせなどは誰もが経験したことがあるだろうし、どうしてこんな…と思うような理不尽な経験をした時のやり場のない気持ちは想像に難くない。

それに、性被害を訴えることによって世間から向けられる視線がどんなものかは、昨年から日本でも話題になっている有名人に関する話題を通して多くの人が痛感していると思う。
テイラーは自分は証拠があり訴えが認められたけれど、訴えを聞き入れてもらえなかった人や声を上げられなかった人もいる、ということにも目を向けている。

“Good girl”なら、たとえ傷つけられても抵抗せずに大人しくしているべきだろうか?
自分の気持ちや意見は押し殺して、みんなの望む良い子でいた方がいいのだろうか…
そういう葛藤があったのかなと想像できる。

テイラーは葛藤の結果、物言わぬ良い子ではいられないということに気が付いたのだと思う。
特に、アメリカ中間選挙に関する政治的な立場を主張したことにそれが大きく表れている。

それまでの彼女は、メディアで政治について尋ねられてもうまくはぐらかしていたけれど、自身の経験や周囲の後押しもあって勇気を出したのだろうということが伺える。

テイラーのチーム内でもこの政治的立場を明言することに対しては賛否両論あり、議論もあったようだし、最初に政治的立場についてSNSに投稿するとき、どうしよう!と足をバタバタさせる様子から、とても勇気のいることだったのだということが伝わる。

彼女をサポートするチームは家族が中心となっているが、家族との関係もこのドキュメンタリーでは垣間見える。
テイラーが子供の頃から”Good girl“でありたいと目指してきた背景には、きっと家族の期待に応えたい・喜ばせたいという気持ちもあっただろうけど、それがプレッシャーになれば今のような彼女にはならなかっただろうと思う。

自身の心の葛藤を家族に相談し、家族やチームと率直に議論する様子を見て、テイラーにとって家族やサポートチームは信頼できる絶対的な味方なのだな、と感じた。
そんな絶対的な味方がついてる彼女がとってもうらやましい。

映画の中で、テイラーは過度なダイエットによるスタイル維持についても話している。
彼女はとても理想的なモデルのような体型だったけれど、ファンやパパラッチにあらゆる角度からお構いなしに撮られる写真の中には、彼女を傷つけたり自分の身体に自信を持てなくなるようなものもあったという。

そしてある時気が付く。ライブ中に気絶しそうになるのが普通と思ってた、けれど違った。
食事は力の源で、今の自分でいられることが幸せだと。

それから過度なダイエットは辞めたというけれど、The Eras Tourで見たテイラーは一切の無駄がないにも関わらず、ヘルシーで完璧なスタイルだった。
たしかに過去の彼女はさらにスレンダーだったかもしれないけれど、今のテイラーは健康で完璧な美を体現しているように感じた。

3時間以上にも及ぶコンサートは、曲間もほとんどなく、何度も衣装替えがあって、テイラー本人は息をつく間もなかったはず。

何しろ観客の私でさえ、曲間には少し休ませて!と思って席につくも、すぐに次のイントロが始まって、もう?!もう少し間が空いてもいいのに…と思ってしまうくらいだったのだから。。。
(周りのお客さんもそうでした)

次の衣装を重ね着しているものもあったけど、ストッキングや他の衣装に引っかけたら大変なスパンコールたっぷりだったり、上から被るだけとはいかないボディスーツや、履き替え大変そうなロングブーツなど、女子目線では信じられない早着替えに驚き、たくさん楽しませてもらった。

テイラーはこの講演を東京ドームで4日間連続で行った後、アメリカに戻り、LAに向かって恋人の出場するスーパーボウル観戦、優勝の瞬間に立ち会うという超人ぶりを発揮。

恋人とキスして喜びを分かち合う様子やアフターパーティーでの様子、どの写真を見ても一切疲れる様子はなくて美しかった。

彼女の体力、凄まじい…。
私よりも年上なのに、こんなにパワフルで、私も昨年あたりから体力が落ちてもうだめだ、歳をとるってこういうことか…と思っていたけど、甘えだったのかも。
普段の生活や食べるものも違う彼女のようなスターと比べるのもおこがましいのかもしれないけど。
でもなんだか彼女を見ていたら、わたしも頑張りたいというモチベーションが湧いてくる。

わたし、どうして今までテイラーのコンサートに行こうと思わなかったんだろう?
日本にツアーで来ることも正直知らなかった。

たぶん、画面の向こうの、雲の上の、別の次元の存在みたいな感じで、リアルに存在している感覚がなくて、自分が直接見られるなんて発想がなかったからだと思う。

それなのに、The Eras Tourで見たテイラーはどこまでもリアルな存在だった。
完璧な演出・豪華なセット・圧倒的な美に、余計に幻の存在みたいに思えるところだけど、彼女の表情や心からの言葉から、実在する人なんだと感じることができたことが嬉しい。

私は毎日通勤時に英語のpodcastを聴いたり、英単語の勉強をしていて、仕事には使わないしこんなことをしていて意味があるのかなと感じていたけど、テイラーのMCを生で聴いて、そのニュアンスをだれかの訳を通すことなく自分の中に受け止められたことは、本当に勉強してきてよかった!と思えた瞬間だった。

テイラーはその輝かしいキャリアから、成功している人として何もかもを持っていると思われ、その美しさやビジュアルから自信がある人・気が強い女性というイメージを持たれることも多いと思う。
けれどこのドキュメンタリーやライブでの実際の彼女を見て感じたのは、決して自信満々な単なる強い女性ではないということ。

テイラーは他人からどう思われても気にしないわ、なんて言わない。
でも世の中の成功している人に対するイメージはこういうものが多いと思う。

彼女はそれとは対照的に、褒められること・認められること・好かれることを求めてきたと率直に口にする。
自己顕示欲のある人間は逆にそういう気持ちをひた隠しにして、まるで他人の目など気にしていないかのように振る舞うものだけど、彼女はどこまでも素直。

彼女の音楽活動の源も、自分の音楽を褒められることや認められることだった。
MVの仕上がりをチェックして、もっと好かれる表情がいい、と言う彼女。
そんな彼女がメディアやSNSで批判されて、意地悪だとか性格が悪いと言われ、親切にしてきたのに、と悲しむ気持ちは想像を超えている。

しばらくの活動休止を経て、自分の体型についての考えや自分のアイデンティティを揺るがす世間の批判を乗り越え、自分の気持ちを押し殺すことを辞め、作品として自分の声を上げる術を身につけた。

アメリカもまだまだ歳をとった女性アーティストへの視線は厳しいものだそうだけど、実際にこの目に焼き付けた34歳のテイラーは若い頃の彼女よりもずっとパワーアップして美しく見えた。
こういう素敵な女性が自分よりも歳上であることは、自分にとってこの先の人生を生きていく上で一番勇気になる。

誰も成し遂げたことのない偉業を達成し、どんなに大きなスターになっても子供の頃からの自分の「認められたい」「好かれたい」という素直で素朴な気持ちを胸に抱いている、そんなところが彼女の魅力でわたしが一番好きなところ。

スーパーボウルでのアフターパーティでは、「友達と家族だけのプライベートなパーティーだよ」と言われて言葉通り受け取り両親を連れて参加するも煌びやかなクラブで、うっかり親とクラブに行っちゃった、と気まずそうな顔をしてる動画をpostしてる様子も好感度∞

テイラーのLove StoryやYou Belong With Meに合わせて彼と仲睦まじそうに過ごす様子も微笑ましかった。

全てを乗り越えて、自分自身とどこまでも向き合った後に出会った人が、今までで一番の素敵なパートナーなんじゃないかと思う。
彼とうまくいってほしいなと願ってしまう。


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