見出し画像

中堅生命保険会社に勤める28歳女性の話

What’s her job?
入社後3年間、保険商品に関する説明内容が法的に問題ないか、顧客に誤解を与えないかなどをチェックする募集文書管理を担当。現在は保険契約者の名義人の変更可否の査定や、成人年齢引き下げといった法改正にともなうシステム改修対応など契約保全業務に携わっている。


契約保全業務について

仕事に楽しみは求めない。
与えられた任務を地道に、着実に全うしたい。

彼女は主に、結婚・離婚や加齢など顧客の状況が変化していく中で、自社と顧客との間の契約が適切な状態であるように「保全」する業務を担っている。例えばある顧客から、保険金の受取人を変更したいという申請があったとする。それが夫から妻への変更など戸籍上の家族間での申請であればさほどチェックに時間はかからない。しかし近年、事実婚状態の人や同性婚家族など家族形態が多様化し、これらのチェックには慎重を要する。規定上その申請を受理できないことがあるためだ。顧客が保険事故発生時の請求手続きや税務上のリスクなどを理解した上で、正しく申請を行っているか、提出書類や保険加入者の担当営業者による情報から確認し、いざというときに滞りなく保険金が支払われるように手筈を整えておくのが彼女の仕事ということになる。

いまや日本国内だけで市場規模30兆円(年間の生命保険料ベース)※2を超える生命保険業界。多額のお金がやりとりされ、社会的影響力も大きい。金融業界の仕事にミスがあってはいけない、という世間からの目は責任の大きさに直結する。「たしかに、私の業務は契約者とのお金のやりとりに直結するので責任重大です。その点は研修でもたびたび教育されます」と、彼女はプレッシャーの大きさを語る。続けて「万一ミスが発生したら、原因究明や、再発防止用のマニュアル作成など煩雑な業務も増えるので、その点でも絶対にミスしたくないですね」と笑った。
そこであえて「楽しみを見出しにくそうな仕事ですね」と水を向けると「やらなければいけないタスクをこなすのが仕事という認識。そもそも楽しみを見出そうとは考えていません」と返ってきた。むしろ「好きなことを仕事にすると、きっと好きではいられなくなる。楽な仕事なんてない以上、趣味に責任を負わせたくないと思ってしまうんです」とも。ただ、対話を重ねながら、顧客の人生にまで踏み込み関係を築く営業のような仕事よりも、一つひとつのタスクが細分化され、それらを着実にこなしていくいまの仕事は自分向きだと感じているという。

後輩を育てる指導役として

「後輩がのびのびと仕事をできる場を
つくってあげればいい」と言われて。

タスクを粛々と消化していくことで社員としての義務を果たしたいと考えている彼女が壁にぶつかったのは、後輩指導の役割を担うようになった時のことだ。当時の上司から「指導役である以上、後輩の仕事ぶりにも成長にも、全責任がある」とはっぱをかけられた。この言葉に大きなプレッシャーを感じた彼女は当初、後輩の業務の段取りから進捗状況まで、逐一確認する体制をとろうとするが、すぐにその限界に気づく。彼女にもタスクがあるため、四六時中監視のような状態を保つことはできない。息の詰まるような状況で仕事をして後輩の生産性が上がることもない。何より、達成度が明確なタスクと異なり、人の成長や上司が期待する後輩指導には正解・不正解の判断がつきづらい。そこで指導方針について、先述とは別の上司に相談したところ、思わぬ助言が返ってきた。
「後輩の成長に責任なんて持たなくていい。ただ後輩が気持ちよく仕事できるようにサポートしてあげればいいよ」。
この言葉が「救いになった」と彼女は言う。それからは最低限のフィードバックをしながらフォローし、時に雑談。正確性を要する緊張感のある業務だからこそ、和やかな雰囲気をつくるよう心がけることにした。その後輩も、いまや別部署で指導役。
「人間だから、見通しの通り成長するとは限らない。その苦しみはありましたが、こうして育成に関わった子がほかの子を指導している姿を見ると、もう安心だとうれしい気持ちになります」。

今後のキャリアについて

プレイヤーとして、目の届く範囲の
責任に向き合い続けたい。

いまは指導の立場を離れ、新商品の販売や法改正などにともなうシステム刷新のプロジェクトを引っ張るようになった。販売システムの構築を担う部署や文書管理を行う部署など多岐にわたるメンバーと連携。生じるタスクを洗い出し、部署内外で情報共有しながらプロジェクトを完遂させる。顧客に不便が生じないように、他のメンバーの業務に支障が出ないように苦心する。
「多くの部署や協力会社を巻き込み、状況に応じてタスクを増減させるようなプロジェクトには、どうしても人も時間も必要になります。こまかな事務作業との両立をしんどく感じることは多いです。AIなどの機械が事務作業を代わってくれると、私たちはもっと効率的な業務フローや使いやすいシステム開発に頭を使えるのに、と思いますね」。
そう言いながら、請け負う責任が大きくなっても必要な業務を着実にこなしていく彼女。現場での信頼も厚いだろう。ただ彼女は、これ以上の昇進を望んでいない。
「管理職になると現場のメンバーにタスクを割り当てることになるから、どうしても嫌われ役にならざるをえない。私にはそのストレスは大きいだろうと思います。それに自分が深く知見を持たない領域にまで責任を負うことへの抵抗もあります」。
あくまで1プレイヤーとして、的確に業務をさばきながら経験を積み、会社の成長を支えたいと考えている。

「日本は公共福祉だけで老後の安心をまかないにくい社会です。そのため生命保険はこの先もまだまだ必要とされ続けると思います」。
いざというときに、人がお金で困ってしまうことがないように。生命保険が、その役割をきちんと果たせるように。自身の目の届く範囲で責任を全うしたい。それが、彼女が抱くプロ意識なのだろう。


※内容は取材時点の話のため、現在とは状況が異なる場合があります。

※2|参考
MS&ADホールディングス|生命保険業界
ライフネット生命保険株式会社|業界動向
一般社団法人 生命保険協会|2021年版 生命保険の動向

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?