見出し画像

大手SIerに勤める28歳女性の話

What’s her job?
入社して3年ほどは、取引先企業に対して大手CRMツールの紹介や導入に向けた説明などを行うソリューション営業を担当。その後部署を変わり、今は同事業部の人事担当として、主にエンジニアの採用業務を行っている。


ソリューション営業時代の話

多くの人と関わり、案件を任される中で、
心が折れてしまった。

事業活動において、デジタル技術を活用した業務効率化やビジネスモデルの変革が求められる昨今。大手企業を中心に、ITツールやシステムの新規導入が加速しているという。
彼女が新卒で入社した企業は、それらツールやシステムの開発、販売から導入、運用までを一手に担うSIer(System Integrator)。そこで取引先企業の業務最適化ツールの導入を手助けする、ソリューション営業に配属された。
「私が勤めている会社には、取引先企業に付きっきりでニーズをくみ上げる顧客営業と、私のようなソリューション営業がいます。彼らの仕事が、取引先の事業課題やさらなる成長に必要なポイントを探り当てることだとすれば、私の仕事はそのニーズに対してツールのどんな機能を活用して、どんな施策が行えるかを提案することです」。
取引先の担当者のほとんどは、ツールそのものはおろかIT全般に関して、まるで素人。一つひとつの機能や用語について、理解しやすくかみ砕いて翻訳できるように、彼女にはツールに対する深い理解が求められる。
「ITツールは日々すさまじい勢いで進化していくので、知識をアップデートさせ続けるのはなかなか大変です」。

しかし仕事で最も苦労したのはツールそのものに関してではない、と彼女は言う。
「自社も取引先も企業規模が大きく、一つの案件で関わる人数が多いのが特長です。10人以上の関係者を巻き込んで調整業務を行うことも多々あり、正直なところ気苦労が絶えませんでした」。
彼女の他に、先述の顧客営業や自社の開発担当者、あるいは取引先の開発担当部隊などたくさんのステークホルダーがいる。それぞれが想定している予算や納期、実装したい/できると考える機能も異なる。「各担当者の間を何度も行き来して話し合い、金額面や仕様面での落としどころを探りながら何とか提案を固めていく。その連続でした」。
 
自分より年齢もキャリアも上の相手と交渉しながら、神経をすり減らす日々。なかなか成果は出ない。上司からも、期待からか案件を取り仕切るように任されていたことが、当時の彼女には重荷となってしまっていた。そんな中、複数の案件を抱え、文字通り業務に忙殺されていたある日。彼女は打ち合わせの途中で突然声を出せなくなってしまう。翌日からは極度の吐き気や睡眠障害などの不調が襲う。医師から、適応障害だと診断された。

休職中の話

責任感は誰かに対してではなく、
まず自分に向けるべきだと気づいた。

動けない体で、それでも当初は「休むわけにはいかない」という気持ちが強かった。宙に浮いた案件。一緒にコンペに臨んでいた仲間がいる。今も残業をしている仲間がいる。彼らに申し訳ない。しかしある時、ベッドに横たわり天井を見ながら、ふと思った。
「もしかすると仕事を任されていたというより、便利に使われていただけなのかな」。
頼まれた仕事に全力でぶつかり、一つひとつ懸命にこなしていく姿に、周囲からの信頼もあったのだろう。しかしそれ以上に、彼女の仕事への姿勢に、周りが甘えてしまっていただけだとしたら…?
「まずは自分が自分のことを大切にしなければ。健康も、その先のキャリアも、自分以外の誰かが責任をとってくれるわけではないのだから」。
そう考えるようになると、自分のすべきことが見えてきた。彼女は2カ月の休職期間を経たのち、部署異動の希望届を提出した。

現在 -採用担当として

人が働きやすい職場は、
人にしかつくれないと思う。

そうして数カ月の慣らし期間を経て、就職活動時代から希望していた人事担当へと異動に。ダイレクトリクルーティングツールを使い、めぼしい即戦力人材にコンタクトをとる。その後、彼女自身が求職者と直接面談を行い、次回以降の面接に進んでもらうかを判断する。
「コミュニケーション力が高く、私が良い印象を持った人でも次の面接で落ちてしまったり、あるいは上司も含めて高評価だった求職者なのに突然連絡がとれなくなってしまったり。“たった一人”を採用できない日々が続きました」。
相手の本音や転職活動の状況を読めないがゆえに起こるミスマッチ。合うか合わないか、全ては縁だと言ってしまえばそれまでだが、彼女は「まだ自分にできることがあるのでは」と思っていた。これまで以上にメールや電話で密に求職者と連絡をとってみること。求職者の関心や不安がどこにあるのか、面談の中でしっかりと聞き出すこと。
「私は、求職者が一番初めに会う、いわば会社の代表者。私に好印象を持ってもらえるほど、転職意欲も上向くはずだと考えました」。
 
苦心すること2カ月。丁寧なフォローが功を奏したか、ついに一人目の採用者が現れた。
「周りの人も喜んでくれ、ねぎらってくれました。何よりその方は“私が育てた”ような気持ちがあるので、報われたと感じます」。
そう正直な気持ちを吐露した後に、「でも」と続ける。「ここからが本番です。戦力として長く働いてもらえるよう、今後のフォローはより一層重要になります」。
会社が人を選ぶのではなく、人が会社を選ぶようになる時代。だからこそ会社として、人を育て、人が居心地よく働き続けられる制度や体制をさらに充実させたいと、彼女は考えている。
「将来的にAIが採用業務の大半を担うようになったとしても、会社が人と人のつながりから成り立つ組織である限り、人事戦略に人が介入する余地は残り続けるはず」。
では、どこに彼女自身の価値を見出すか。これまでやりたかったことや、これから実現すべきことを自身で探し、見つけ、試していく中で答えを見つける。
「しんどい思いはしたけれど、会社が嫌いなわけではありません。人事としてのキャリアをこれから積み重ねて、よりよい組織づくりに貢献していきたいと思います」。
体調を崩したつらい時期でさえ、職場の仲間を思った彼女。そんな彼女だからこそ、描ける組織があるはずだ。


※内容は取材時点の話のため、現在とは状況が異なる場合があります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?