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メディア運営企業に勤める28歳女性の話

What’s her job?
注文住宅を検討している人に向けた住宅情報誌の編集を担当する。冊子全体の流れや誌面の構成を決定する「企画」業務と、各記事の担当ライター、イラストレーター、カメラマンの手配や取材・撮影のディレクション、掲載内容のチェックなどを行う「制作」業務を並行する。


転職について

新米ディレクターとして、いまは日々勉強中。

「新卒入社した企業で2年半ほど働いていましたが、仕事内容や社風がどうしても自分に合わないと感じ、転職を考えるようになりました。そのとき仕事として携わりたいと思ったのが、雑誌の編集でした」。
2000年代初頭をピークに、市場規模が縮小し続けている雑誌。しかし彼女にとって雑誌は、ユニークな価値を持つ、なくしてはならないメディアだ。
「文庫本や新書と異なり、テキストとビジュアルの合わせ技で新しい情報を取り入れる楽しさがありますから」。
彼女は大学時代に、映画やニュースなどで気になったトピックについて、その業界の雑誌を読むことで知識の幅を広げていたという。今度は自分が誰かの世界を広げてあげられる立場になりたい。そんな思いが転職を後押しした。

数少ない「編集未経験者OK」だった企業の一つに応募し、合格。現在は注文住宅を検討している人向けの住宅情報誌の編集を担当している。彼女の所属するチームでは、編集は「企画」と「制作」の大きく二種類の業務に分かれる。まず「企画」では、チームの中で各々担当記事のアイデアを出し合う。例えば「家づくりにかかる費用を総ざらいするノウハウ記事」とか、昨今のトレンドを意識して「サステナブルな家の建て方を紹介するトレンド記事」など、読者の興味を引き、かつ有用な情報を伝えるため、さまざまな方向性からアイデアを出す。そして何度かの編集会議を経て掲載企画が決まると、構成の作成へ。見出しやテキストの内容に加え、イラストを使うか写真を使うかといったトーンも決めた上で「制作」に進む。制作工程では、ライター等への業務依頼や取材撮影の同行、全体の進行スケジュールの管理、上がってきた原稿の内容確認など、担当する記事を含めた情報誌が発行され、世に出るまでの全工程に携わる。
「体制としては私がディレクターなので、ライター、イラストレーター、カメラマンなど担当記事に関わるメンバーをまとめなくてはいけませんが、実際は私が一番の下っ端です。業界の知識も浅いし、企画のクオリティもまだまだ低い。誌面作りに協力いただく方たちには、いつも“教えてください!”という姿勢で向き合っています」。

企画業務について

自分の中から、他人から、
人を動かす企画のヒントを探り続ける。

担当雑誌の発行は3カ月間隔。しかし企画が難航したり、予定していた訪問先から取材の許可が得られなかったりと、各工程がスムーズに進まないことも多いため常に何かの企画が進行し、今号/次号の企画案も考えている。
「企画はまず自分の興味から考えるようにしています。自分が“読んでみたい、知りたい”と思えるものでなければ、読者の興味をそそることはできないと思うんです」。
しかし自分の関心の範囲だけだと、どうしてもアイデアの幅に限界が来てしまう。そんなときは自分と異なる層の人たちが何を知りたいかと考える。
「例えば以前に取材でお話を聞いた方を思い浮かべながら、“あの人ならこんなこと言いそう”と想像をめぐらせ、その方の興味や疑問に応える企画を考えるのです」。
 
自分で満足できる企画を提案できた経験は数えられるほどしかない。「劣等感を味わうことも多いです」と彼女は話す。
「勉強のため、他誌やほかの編集者のすぐれたコンテンツを見るたび実力不足を痛感します。良い記事は、情報や切り口にちょっとした新規性がありつつも、斬新すぎて読者を置いてきぼりにすることもない。そんな絶妙なバランスがあります」。
ほかにもタイトルの言葉づかいひとつで「読みたくなる」仕掛けがあり、読んでみるとレイアウトやイラストの使い方で「読み進めやすい」配慮もなされている。至る所に施された工夫から、学べる要素はたくさんある。
「雑誌の醍醐味は人々に気づきを与え、次の行動を促せること」。
“人を動かせた”と実感できる記事を作るのが、彼女のいまの目標だ。

今後のキャリアについて

仕事以外の時間が増えるほど、
仕事に活きる経験が増えていくはず。

当面は編集者としてのキャリアを続けていきたいと考えている彼女だが、いまの働き方には葛藤を抱えていると言う。
「仕事の忙しさもあり、なかなか趣味に充てられる時間が少ないのが悩みです。休めないという点だけでなく、仕事以外の分野から情報や刺激を受けられる機会が減ってしまうので、仕事の質も上げにくいのではと感じます」。
彼女は、“企画のために”情報を集めにいくのは本来的ではないと感じている。まず人々に“伝えたい”ことが先立った上で、どのように誌面を作るべきかと企画に悩むのが本当だと考えている。また必要に迫られて、調べて得た情報をもとに提案する企画は、どうしてもオリジナリティに欠けてしまうという実感もある。
「いまやアプリやSNSを通して、誰もが編集者として情報を発信できる時代。YouTuberもそうですよね。私がプロの編集者として仕事をするには、主観=私らしい感性や視点をもとに共感を生み、人を動かすすべを身につけるしかないと思います」。
だからこそ自分の時間をなんとか確保し、例えば訪れた街から、ふと目にした映像からインスピレーションを受けて、彼女ならではの企画を編み出せるようにしたいのだと言う。

「私はもともとマイノリティの世界に興味がありました。まだ知られていないけれど、伝える価値のあるものは世の中にたくさんある。それを、私の仕事を通してみんなに見つけてもらい、新しい考え方や行動につなげてもらうことができたなら、それが私なりの社会貢献になるのかなと思っています」。
揺らぐことのない強い思いを、編集者としての自身の強みにしていきたいと、彼女は話し終えた。今日も彼女は、自分と“誰か”の興味を行き来しながら頭を悩ませる。誰かにとっての助けや気づきになる情報とは何か、考え続けながら。


※内容は取材時点の話のため、現在とは状況が異なる場合があります。

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