タイタニック
ドルビーシネマ最高。「本物の黒」の説得力。IMAXとリアリティがまるで違う。早くも冒頭のシーンを見て確信した。暗い海の底を隅から隅まで見渡せる。朽ちたピアノの白鍵を本体とかろうじて繋ぎ止めている木の筋までくっきり見える。そして夜空、ジャックがローズと出会った夜に見上げた夜空も、沈むタイタニック号と阿鼻叫喚を見下ろす夜空もとにかく美しい。
タイタニック鑑賞もついに5?回目。さすがに涙が出ることも無くなった。ジャックの魅力は自分のことをあまり話さないところだと思う。甲板に現れたローズを見初めた時も、食事会でローズの母に散々嫌味を浴びせられた時も、海に投げ出されて死ぬ時も、弱音の一つも吐かず、自分の感情を言葉に出すことはない。特に凍死寸前のジャックが自分のことを差し置いてローズへ人生のアドバイスを送るシーンは、もはや人間とは思えない、まるで少女漫画に出てくる理想の紳士そのものだ。人間離れしていると言えば、タイタニック号が冒頭のけむくじゃら男の説明通りに直立状態と水平状態を交互にして沈んでいく時にも、ジャックはまるで船の挙動を知っているかのように、スマートにローズを導く。船が一度水平状態に戻って、再度直立状態になった時、手すりの裏に回るように指示できるのは、船の沈み方を知っていたとしか思えない。もう一度水平状態に戻るのではないかという危惧があれば、手すりの裏に回ることはリスクにしかならないからだ。しかし結果的には、ジャックの判断によって最大限に長く落水までの時間を延ばすことができた。
私はジャックのことを、ローズを救うために現世に生を受けた天使だと思っている。ジャックが初めてローズを見て言葉を失うシーンなどは、私にはまるで天使が天界からの使命を思い出したかのように見えるのである。ジャックは感情を言葉に表さない代わりに、表情や体躯や指の先という彼自身の持てるあらゆるボディランゲージで観客に「彼」を想像させる。ジャックとキャルをタイタニック号に残して救命艇に乗りこんだローズが、ジャックを見上げるシーンなどはその極地である。ピントの合わないカメラは、ジャックの精悍な表情を、弾ける救難信号をバッグにしてしっかりと捉えている。ローズを救い、船とともにその運命に殉じることを受け入れた、痛切な表情を・・・
沈みゆく豪華客船の狂乱と、1人の女性との大ロマンスを同時に背負ったジャックというキャラクターの放つ「言葉」を伝えることができたのは、あの若きレオナルド・ディカプリオの力だ。彼はまさしくスクリーンの大スターだった。ドルビーシネマの画面にそれを確信した。