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亡きレンズを想う 【Carl Zeiss Distagon T* 2/28】

私は50mmと生きていく。

2ヶ月前にマクロプラナー 50mmを購入したとき、薄らに思ったことだ。

この記事も期待の新鋭レンズのレビューにするはずだった。しかし、とある事故がきっかけでその言葉通りにせざるを得ない状況になってしまった。


いままで長いことスナップには28mmを愛用していた。

Carl Zeiss Distagon T* 28mm F2。

19世紀からLeicaと双璧を成してきた(と思っている)光学機器ブランド、カールツァイスの広角単焦点レンズだ。1年半ほど前、某オークションサイトで7万円ぐらいで落札した。金欠な学生にとっては覚悟のいる出費だった。

京都府 天橋立 / 2024年 夏
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28

カールツァイスという会社自体は40年以上前にカメラ製造から撤退していて、今はブランド名として名前が残っている。ツァイスのレンズはマウントや製造元によって様々あるが、最近のレンズでもオートフォーカスが存在しない。その分写りがいいだとか、被写体に集中するためだとか言われている。

山梨県 富士吉田 / 2024年初夏
EOSR6, Carl Zeiss Distagon T*2/28

実際、本レンズも2010年発売ながらマニュアルフォーカスで、金属の鏡筒にガラスが詰まった質実剛健な造りをしている。

他のレンズを使ったことがないのでレビューみたいな芸当はできないが、このレンズが優れていることは吐き出される画を見れば素人の私にも分かった。

香川県 丸亀手島 / 2024年 初夏
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28

私はこのレンズを主力とし、ファインダー越しに色々な風景を目に焼き付けた。

東京都 神津島 / 2024年 夏
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28
栃木県 足尾 / 2024年 冬
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28
東京都 三軒茶屋 / 2024年 春
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28

28mmという焦点距離はちょうどいい画角だった。
広く写るが、広すぎない。
広角レンズ特有の歪みも遠景ならば気にならない。

千葉県 富浦 / 2024年 晩夏
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28
岡山県 宇野 / 2024年 初夏
EOS R6, Carl Zeiss Distagon T* 2/28
奈良県 吉野 / 2024年春
EOSR6, Carl ZeissDistagon T* 2/28


世界は28mmでできているとさえ思うようになった。

10月には50mmのマクロプラナーも導入したが、唯一の手持ち広角レンズとして、28mmの地位は揺るぎないものだった。


そして、事故は起きた。

初めて訪れた広島県、倉橋島。紅葉に牡蠣棚が映える美しい瀬戸内の風景に興奮し、28mmと50mmを取っ替え引っ替えしながら無心でシャッターを切っていた。

広島県 倉橋島 / 2024年 秋
EOS R6, Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/50

レンズ交換を終え、立ち上がったその時。なぜかチャックが閉まりきっていなかったカメラバッグから28mmがするりと落下。

階段状になっている堤防をピタゴラスイッチの装置のごとく転がっていき、穏やかな瀬戸内海に音を立てて落下した。

足元にこびり付いたヌメヌメ滑る海藻で尻もちをつきながら急いで拾い上げた。しかし、一度海水に浸かったレンズは内部で塩を吹き、大体の場合修理不能であることは愛好家の間では有名な話だ。

宿に到着後、ダメ元で真水で洗浄して除湿機で乾燥させた。だが案の定カメラのモニターに「レンズを認識できません」と表示されるだけだった。

レンズが海に向かって転がっている間、何もできなかった。

そしてこれはちょうど近くにある神社に参拝した直後の出来事だった。参拝後、めちゃくちゃ写真を撮ったので無礼があったのかもしれない。
でも、「レンズに手を出すなら全ての標準レンズたる50mmを極めてからにせい」というお告げだったのかもしれない、と思ってしまう自分がいる。

奥に写っている堤防でレンズを落とした。
倉橋島 / 2024年 秋
EOS R6, Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/50

その後の旅程はといえば「あぁ28mmがあったらなぁ」という風景にばかり遭遇した。(ように感じた)

そもそも28mmばかり使っていたためか、カメラを構えずとも視界が28mmで見る光景となっていたのだ。この景色、28mmで撮ったら良さそう!というアレである。

だから残った50mmレンズを通して映し出される景色は自分にとって窮屈で、しばらく慣れることができず「撮りにくい」とさえ感じてしまった。

斎灘 / 2024年 秋
EOS R6, Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/50

呉〜松山間のフェリーで撮ったこの写真も、28mmならよくあるエモポートレートの背景みたいに階段全体を写すことができただろう。まぁでもこれはこれで気に入っていたりする。


これから私は50mmと生きていく。

広島県 倉橋島 / 2024年 秋
EOS R6, Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/50
愛媛県 松山 / 2024年 秋
EOS R6, Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/50

数ヶ月後には私の視界も50mmに合わせたものになっているかもしれないし、新たに35mmや21mmを買っているかもしれない。

レンズの選択肢は減ってしまったけれど、カメラをやる人間にとってこういうのはつきものだ、切り替えていこう!と前向きな自分がいた。


こうやってネタにでもしないとやりきれないので、深夜テンションで思うがまま書きました。他のレンズもすぐ買い直せるような安いものでも無いので、大事に扱っていこうと思います。自分の失敗が誰かの役に立ったなら幸いです。では。

おわり


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