過去に囚われる女
例えばユニクロで偶然好きな人に会ったとする。
ユニクロに行くたびその人のことを思い出す。
もしかしたらまた偶然会えるかもしれない、なんてそんなことを思ってしまう。
いるはずないって、そんなことはわかってるのにね。もしかしたらいるかもしれないなんて。
覚えているのは真夏の暑い日。炎天下の駐車場。父親が運転する銀色の車。
例えば恵比寿で憧れの人と食事をしたとする。
ああこの街で、横に並んで歩いたなあって。
あの時の緊張と嬉しさを一緒に思い出す。
恵比寿にいないかな、偶然会えないかな、なんて。いるわけないのは、わかっているけどさ。
レコードから流れる音楽。薄暗い光。
あの人が好きだと言った曲を私は忘れてしまったよ。
そんなことを考えながら、少しだけそわそわしながら街を歩く。
“いい加減目を覚ませ!そんな偶然あるわけないんだから!”と言い聞かせながらも、心の端っこのほうに何かを期待している自分がいるのがわかってなんだか嫌になる。
当たり前だけど、会えるわけがなくて少しだけがっかりして帰る。
いないことはわかっているけど。
けれど毎回、そんなことを思ってしまうのです。
私だけ、いつまでもあの日あの時に取り残されているようだ。
もう一度、会いたいなあ。
なんて戯言を。
健気なんだか馬鹿なんだか。
いや、気持ち悪いよなあ。
私はそういう人間です。
どうしようもないね。