新時代の扉 ポッケとタキオン、二人の立ち位置とその演出

それにつけても画面の使い方の巧さよ

新時代の扉、画面の使い方とてもうまいです。分かりやすくて巧み。
これは意識して見ない手はないですよ。

とくに主人公のジャングルポケットと立ちはだかるライバルであるアグネスタキオンの画面上での立ち位置が全編通してキマっていたのでそこんとこの話をしたいです。
聞いてください。

一応このnoteは一回は見た人のが読むことを想定しているので、まだ見てないって人がいたらできれば一度見てから読んでね(ネタバレが重要な映画ではないけど一度はフレッシュな感覚で見て欲しい)

そして「これが正解だ!」と言ってるわけでなく、自分はこう受け取ったよ!というだけの文章なので、みんなも自分の感想を大事にしてね!


上手(かみて)と下手(しもて)

ご存じの方が多いと思いますが、一応わからない人のために説明。
元々は舞台での用語で、同じように作劇を鑑賞する映像でも使わせるセオリーみたいなものです。知ってないと劇が観れないとかは無いですが、作る方は意識してるので知っておくと作品を読み解くのに使えます。
話の流れの方向なども関係する話ですが、今回はざっくりキャラクターの見せ方に使う時の説明を。

上手とは画面右側。下手は画面左側を指します。
アニメや映画などの映像作品ではどちらにキャラクターを配置するかでその属性を表現できます。

上手は強者。シンプルに強かったり、立場が上だったり、現在優位に立っているキャラクターの立ち位置ですが、観劇している側から見てネガティブな意味合いも持ちます。
立ちはだかるライバルキャラは上手にいる事が多いです。
また、上手から下手へのキャラクターの流れは弱体化を表す場合もあります。

反対に下手は弱者です。しかし現在弱いだけでチャレンジャーの立ち位置でもあります。
下手から上手へのキャラクターの移動は挑戦や抵抗の意味を持ちます。
ポジティブな立ち位置なので困難に立ち向かう主人公や味方のキャラこちらですね

ここまで話すともうわかりますよね。
上手にいるキャラクターはアグネスタキオン。
下手にいるキャラクターはジャングルポケットです。
 

※この手の決まりごとは知らなくても作中で数回同じ演出があるだけで脳が勝手に判断するので別に知識として必須ではないです。が、今回はこれをフックに説明するので5分だけ覚えてください。


この上手下手の法則は映画の中でいろいろ使われていますが、今回は主人公のジャングルポケットとライバルであるアグネスタキオンの立ち位置の設定とその変化がとても面白かったのでそこを書いていきたいと思います。

邂逅 地下馬道

ジャングルポケットとアグネスタキオンが最初に会話をするシーン。控室からコースへの移動する通路ですでにこの立ち位置は決定しています。

通路の中央に立つ柱をはさんで上手にアグネスタキオン、下手にジャングルポケットがいます。
これは別のレースでも変わりません。なぜなら劇中でジャングルポケットがアグネスタキオンに勝つことはないからです。

そして画面中央には二人を分かつ大きな柱。これは上手下手を分かつ絶対的な壁、そして二人の歩む道が同ように見えて実は交わっていない暗喩であると思います。その証拠に同じようなシーンでもお互いを高めあうライバルとなったダンツフレームは下手側(ポジティブな立ち位置)、そして柱のこちら側に立って画面に現れていて、明確に立ち位置に差をつけています。

ホープフル・皐月賞での地下馬道のシーン。上手下手をはっきり区別。さらに二人を分かつ壁が描かれている。
明確に柱のこちら側にいるように描かれるダンツフレーム。レースでもわかるように同じ道を歩み高めあうるポジティブなライバル関係を演出されている。



レース中の上手、下手の変化

は、もう画面がギャンギャン変化してキャラの配置の応用もすごいのでかなり長くなりそうなのと、画面が無いと詳細な説明が難しいので一旦省略します!
すごいんですよ!


旧理科準備室

もしくはタキオンの研究室。
初めてこの部屋が登場するときはジャングルポケットがタキオンに宣戦布告をしに来るシーンなので明確に優劣はつけられていません。
タキオンの机が入り口から入って右側の壁に接しているため、空いたカメラスペースの関係から自然とタキオンが左側、ポケットが右側にいます。
というか、むしろここは後のシーンに違和感を持ってもらうために意図的に逆にしている感じもします。

そのシーンが無期限休止宣言後の赤く染まった部屋です。
皐月賞に勝利後引退を宣言し、絶対に勝てない相手になってタキオンはポケットにとって強者になります。
ここでのアングルは壁側ぎゅうぎゅうに詰まった方向からだったり、上からの俯瞰アングルで不自然極まりないのですが、そこまでしてタキオンの配置を絶対に上手側に置きます。

レースを走らないからこその絶対的な強者となったアグネスタキオンは、この後一貫して上手から下手のキャラクターを見る構図が続きます。

余談ですがこのシーン、タキオンが窓から入ってくる演出良かったですね。
人形劇のような枠から登場し「ここからタキオンの演技が始まります」という暗喩だと思います。3人を煽りまくるシーンも映写機(カメラかな?)かごしの超奇怪なアングルだったりして(しかもタキオンが動く前に画面がカメラ側を向いたり)。
演技の理由はもちろん3人を焚きつけるため。効果は抜群だ。
最初に画面ごしの休止宣言を見せるのも、一連のシーンだけ真っ赤なのもここを強調したかったのかと思いました。

余談2 ここでカフェが観賞用のススキを撫でたのは花言葉が関係してるんだろうか?

旧理科準備室2

休止宣言後のタキオンの部屋は物が増えていき、いかにも動きづらそうな部屋になっていきます。すごく親近感。
これは大量の資料=研究にとらわれて自由に動けなくなったタキオンの状況を端的に表現しています。
この頃になると部屋をシェアしているマンハッタンカフェにも距離を置かれてカーテン越しに一瞥される始末。
カフェにとっては菊花賞勝利後のシーンでもあるにもかかわらず、画面内に二人で収まる時はアグネスタキオンが上手に収まります。
ここにおいても走らないタキオンが強者という立ち位置です。

少し話がそれますがレースを見ているタキオンが走りたそうに足をタカタカするシーンがありますが、菊花賞映像の画面に映るカフェの向きが上手から下手、タキオンの意識の向きは下手から上手へ向き直っています。カフェの走りに影響を受け、意識が運命へ逆らう方向へ向き始めているのが良いなと思ったシーンです。


旧理科準備室3

さぁ、好きなシーンです。
ジャングルポケットはジャングルポケット気持ちの整理をして、すっきりした顔でこの部屋を訪れます。ジャパンカップ出走宣言のシーンです。
部屋には相変わらずの大荷物、自分の研究資料で身動きが取れなくなったタキオンはまさに彼女の今の状況を示しています。しかしこの期に及んでも走らないタキオンは勝ち逃げをしている立場なのでジャングルポケットを下手に置き自分は上手側にいます。

さて、ここから上手下手の意味合いが少し変化してきます。
散々言ってきたように、映画の中ではタキオンは走るのをやめたがゆえに絶対的な強者として他のライバルキャラに立ちはだかります。若干トリッキーな立ち位置のライバルキャラですが、ストーリーと演出が良いのでここを疑う人はいないでしょう。
しかし、タキオンの意識はすでに走るのをやめたことを後悔している描写が挟まれていきます。足タカタカや、このシーン冒頭のトレーニングを積むウマ娘を窓から眺めるカットもですね。

そこへジャングルポケットが「並走をしてくれ」と頼みに来るわけですが、タキオンはこれを断ります。
このシーンの二人を映したカットでは荷物の山(まさに山)が画面中央に高々と詰まれています。これは前述したとおりのタキオンにとっての枷であり、二人にとっての蟠りの象徴でもあります。
構図は相変わらずタキオンが上手、ポケットが下手。

走りたいという気持ちを吐露するポケット。二人の間の資料の山は不動なのですが、サンキャッチャーごしの光りがタキオンを象徴する散らかった部屋へ差し込んでいきます。効いてる効いてる。タキオンの部屋にあるサンキャッチャーはタキオンの私物だろうと思われますが、ここはジャングルポケットの象徴ととらえてよいと思います。
ここでふと、窓から入ってきた光に押されるようにタキオンが画面右から左に少しだけ動きます。

そう、画面右から左へ、上手から下手への動きが「走らない幻の三冠ウマ娘から、もしかしたら負けるかもしれない未来が分からないウマ娘へと変わる」という意味付けがされはじめているんです。
意味としては弱体化ですが、果たしてこの映画ではそうでしょうか?
 

余談:主題とは違う演出の話ですが、ジャングルポケットの誘いを断り
彼女の去った後の部屋のカーテンを閉め切るアグネスタキオン。
外から聞こえてくるウマ娘のトレーニングの声を遮ったようにも見えましたが、暗くなった部屋には、確かに彼女の研究機材が凛々と光る様子が写ります。これは態度としては断って、走らないとう嘯いてもなお、失われなかった彼女の意志のビジュアル化ではないかなと思いましたが皆さんどう?(こう解釈したあとにもう一度映画見たら涙腺崩壊したのでお勧め解釈です)


この後に移るポケットと他のみんなのトレーニングシーンは右から左へ橋を走って渡る様子が描かれるんですが、これは右から左へと走る動きがポジティブであるという印象づけかなと思いました。これが最後のあそこで聞いてきます。


ジャパンカップ

シンプルにすごい。東京競馬場の映し方とかなんなんだそれかっこよすぎる…。

話がそれそうなので上手と下手の話題に戻します。
左回りの東京レース場、観客席前からの発走なので左から右へ、主人公が試練に立ち向かうチャレンジ的な意味合いを持つ構図です。

しかし画面はすぐにコーナーを回ったところで切り替わり、ポケットやオペラオー、ライバルたちは右から左へ向く構図へとなります。
ここで上手から下手を向かせたポケットの映像を映してナベさんに「立派になりおって…」は意識的に狙った構図でしょう。他のG1ウマ娘に劣らない、立派な強者になったジャングルポケットを見せてくれます。
 
しかし最終コーナーを回ると画面はグルんと回って逆方向へ。圧倒的強者はテイエムオペラオーとなりジャングルポケットはバ群に囲まれて画面左の下手側に配置されます。そしてオペラオーの、他のウマ娘の声を聴き…


君の瞳に映るもの

ジャングルポケットの末脚炸裂のシーン本当に最高でしたね。
でも「先に行くぜ」のところ不自然に感じた人多かったのではないでしょうか?

東京レース場は左回り、最終直線でウマ娘たちは観客席前を左から右へと走り抜けていきます。
観客席にいるアグネスタキオンから見ると下手から上手に走り透ける構図になるハズですが、ここでは上手から下手に向いた逆方向のジャングルポケットが描かれています。

恐らくですが、ここではアグネスタキオンの瞳に映っている鏡映しのジャングルポケットを見せられています。(たしか髪飾りの位置が鏡映しだったはず…)トリッキーな構図を成立させるためというよりは、それほどまでにジャングルポケットを凝視しているタキオンを意識して欲しかたのもあるのではないでしょうか?

さて、今までの話を聞いてくれた人は「ここはポッケがタキオンを追い抜いたシーンだから上手(強者側)に来たんですよね?」と分かっていただけるはずです。

しかしここで終わらないのがこの映画のすごいところ。

4人は何になったのか

もちろんジャングルポケットが勝者の立ち位置に来たのもあると思います。
我慢できずに駆け出したタキオンがレース場外へ走っていく一連の流れで印象的だった空中通路のカットではタキオンが自らの足で上手から下手へと走り抜けていきます。
ここは前述したように「走らないことで強者としてあり続けた幻の三冠ウマ娘から、絶対ではないウマ娘へと変化する」構図です。が、

ここでジャングルポケットとアグネスタキオンの走る向きを同じにすることで、両者の変化を見せながら両者の間に甲乙を付けないライバル関係を維持し続けるという演出を成し遂げているんです。

立場も状況も全く違う二人が、目の前で走るウマ娘から意志を受け取り、自らの足で駆け抜けていくクライマックスに持って行く脚本、見事…

この後のカットはご存じ、2人の走る様子がクロスオーバーしていきます。

そして橋を渡る(境界を越える)タキオン。
こうして、幻の三冠馬ではない、まだ何も未来がきまっていない僕たちのアグネスタキオンが完成したわけです。


そしてレース後、数か月後か数年後か、同期4人が出走する架空のレース。
地下通路でジャングルポケットとアグネスタキオンの間に柱は描かれていません。
どちらが強いか弱いかの構図は振り払われ、等しくウマ娘となった4人のレースの結果は僕らには見せてもらえません。


この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、

まだ誰にもわからない。

彼女たちは走り続ける。

瞳の先にあるゴールだけを目指して───。
(冒頭ナレーションより)



そう、ウマ娘は僕たちトレーナーが育てる事が出来るんです。
どんな未来が待っているかは育成次第。

映画としての完成度高いのは見た人は分かってもらえると思います。
ただ、メインコンテンツのアプリのプロモーションとしても完璧なストーリーをお出しできるってこんなことあります?

映画館へ行け

ちょっと長くなりましたが、構図の使い方でいいな~って思ったところを書きなぐりました。
当然違うんじゃねーのって意見が合わない場所も多いかと思いますが、自分はこんな見方をしてるので映画を読み解くヒントくらいに見てもらえると嬉しいです。

めちゃくちゃ丁寧に作ってあるので、反芻すればするほど味が出てきます。
皆さん見に行きましょう、映画館へ。


余談ですが強火のキング派の自分ですがアプリで最初に脳を焼かれた育成ストーリーはタキオンでしたね。すいません、浮気をしました。


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