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マーケティングの考えから見る鉄道会社の新しい形

 ちょっと異文化のことを知ろうと思い、図書館で「超図解 新しいマーケティング入門」という本を手に取りました。博報堂マーケティングスクール著の新人マーケター向きの本ですが,素人にもわかりやすく、そしてマーケティング業界以外でも今後の企業活動においてもポイントとなるような事柄が書かれていましたので、ちょっとカッコつけたタイトルで、昨今の鉄道業界の新しい取り組みと絡めて書いてみようと思います。

有料ですがwebでも読めるようです。

マーケティングというと私の現在の仕事からいくとあまり関係ないように感じていましたが、読み進めていくとすっと自分の中に入ってきました。
印象に残った部分をいくつかピックアップし,昨今の鉄道業界にも重ねてみたいと思います。

地域に寄り添う姿勢が鉄道の未来に繋がる?(JR九州の事例)

 マーケティングを生業としている人にとっては「いまさら?」という話かもしれませんが、現在のマーケティングは「マーケティング3.0」と呼ばれるそうです。

マーケティング1.0…製品中心の時代。機能的価値を追求。
マーケティング2.0…消費者志向の時代。情緒的価値を追求。
マーケティング3.0…価値主導の時代。企業のミッションやビジョンなど精神的価値を追求。

超図解新しいマーケティング入門

 マーケティング3.0では企業のルーツや役割を振り返り,現在の生活ニーズや社会変化を俯瞰的に捉えて、社会や生活にどう貢献できるのかについてブランドの存在意義を考え直すアプローチ(ブランドパーパス)が重視されるようになりました。
 技術が進歩した現代では生活者が製品の質の違いを認知しにくく、企業のミッションやビジョンに共感できるか?という側面でどこの製品・サービスを使うかが選ばれるようになってきているようです。

 鉄道業界ではJR九州の取り組みが印象的です。

 JR九州が農場経営をしているというのは有名な話です。昨今の鉄道会社は鉄道の赤字を関連事業で埋め合わせるという構造が当たり前になってきており、各社は鉄道とシナジー効果を発揮できる不動産関連事業に力を入れることが多くなっています。

 その結果、どうしても都市部の再開発事業がメインとなりがちですが、このJR九州の取り組みは「九州の地場産業として基幹産業である農業に積極的に関わっていく必要がある」との思いからスタートしています。全国的に農業の後継者問題が深刻と言われていますが、九州全体を事業フィールドとし、流通から販売までも手掛けることができる基盤を持っているJR九州が農業に参画するということは地域の活性化に大いに貢献していると思いますし、なにより「地域に寄り添う姿勢」が世間に好印象を与えていると思います。

 生活者もJR九州の姿勢に共感しているからこそ「JRを使おう」となるだろうと思いますし、ビジョンに共感して新たな視点をもつ人材も集まってくる好循環が生まれているように感じます。他にも最近は広告代理店がワイン農場を経営したり、あえて本社を東京から地方に移転することで「地方で何かやりたい」という思いを持つ人々の後押しをしたりという企業が増えてきている印象です。

どんな生活者・ニーズと向き合うか?(小田急電鉄の事例)

 マーケティング戦略の立案にはSTPと呼ばれるステップが用いられます。

Segmentation:人を仕分ける
Targeting:向き合う人を決める
Positioning:提供する価値を決める

超図解新しいマーケティング入門

最近、小田急がご近所向けSNSを作ったそうです。

 これは社内でおこなわれた新規事業公募制度で電気保守担当社員が発案したアイデアだそうですが、高齢者の社会的孤立にフォーカスしたものとなっています。おそらくこの社員の方はマーケティングの考えに則って発案したわけではないと思いますが、実質的には「自社路線を利用しているお客様を一定の考え方で仕分け、ターゲットを絞り、提供する価値を決める」という流れになっており、その結果がこれまでの鉄道会社になかったアイデアの発案につながったのだと思います。

 ちなみにこの方、自身で自治会や駅前に出向き150人の高齢者の方にヒアリングしたというのですからその行動力には驚くばかりです…。この公募自体も「社会課題の解決」を目的としているとのことで、応募するまでの過程においてもかなり会社がサポートしてくれたものと思いますが、そういう土壌があることが素晴らしいですね。

 マーケティングに話を戻すと,最近ではSTPにおける人の仕分け方やターゲッティングにも変化が見られているそうです。
 
 従来では、人の仕分けはライフステージや年代・性別で行うことが一般的でしたが「どのステージの人も同じ製品を買っている」ということが起こっています。それは社会が多様化したことの現れであり、例えば「子育て世代となってからも独身時代と変わらぬ攻めのファッションをする」などライフステージや年代・性別にとらわれない生き方が増えています。小田急の事例でいうとSNSは若者のものだけではなく高齢者にも有効なものとなりつつあるということに世の中の変化が表れていますね。

最後に

 最近では多種多様な生活者をニーズで仕分けてしまうという考え方が主流となりつつあり、「ニーズの成長率」や「ニーズの自社シェア」でターゲッティングし、ここ数年大きく成長しているニーズや、成長が見込めるが取りこぼしているニーズにフォーカスを当てていくことが重要と言われているそうです。
 鉄道会社も鉄道とは直接関係ない分野に今後の成長のヒントが隠されていそうです。


 

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