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必要なのは「強い好奇心を糧に、やり切れること」 代表&COOが考える"プロデューサー"論
アーティスト・マネジメント、アパレル、書籍出版、アートトイなどバラエティに富む事業ドメインを持つhayaokiでは、各事業部のプロデューサーが指揮をとり、それぞれが独自のカラーに沿ってコンテンツの制作を行なっています。
そもそも「プロデューサー」とは何をする人なのか。株式会社hayaokiの代表でありアーティスト・マネジメント、IPプロデュースチームを統括する高田順司と、アパレルを中心とした女性向け事業を推進する〈LiBon Studio〉チームのCOO藤原志帆が語ります。
インタビュー/鼈宮谷 千尋(hayaoki books) @beck0902
バラエティに富んだ事業ドメインを手掛けるプロデュースチーム
——まずは株式会社hayaokiでのお二人それぞれのポジションと、〈LiBon Studio〉ほか各事業部の位置付けについて教えてください。
高田:僕は会社の代表と、シンガー・ソングライターTani Yuukiのマネジメントチーム、アートトイなどの開発を行なっているIPプロデュースチームの責任者を兼ねていて、社内の主力事業であるLiBon Studioについては藤原に一任しています。
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藤原:会社としていろいろな事業をやっている中で、女の子の「かわいい」に先鋭的に特化したのがLiBon Studio。何を売るのか、どんなコンテンツを届けるのかは基本的に高田はタッチせず、私が事業部の責任者として主導権を持って進めています。
高田:新しい事業を始める判断や大きい金額を動かす決裁については最終的に僕が承認するという形ではありますが。「女の子が何を“かわいい”と思うか」なんて僕にはもはや分からないので……(笑)。
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——高田さんの管掌するアーティスト・マネジメントチーム/IPプロデュースチーム、藤原さんのLiBon Studioチームはそれぞれどのような体制になっていますか?
藤原:LiBon Studioのチームは現在11名。その中で、アパレル・ブランド「pium」に関わるのが9名、インテリアブランド「LARME de LAPIN(ラルムドラパン)」が兼任で3名、これから立ち上げる新ブランドも同じく兼任で3名……という感じで、少人数でやっています。それぞれの主業務はありつつ、はっきりと縦割りにはせず、チームを超えてお互いに協力し合うジェネラリスト的な働き方をしています。
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スペシャリストであることも素晴らしいと思う一方で、ジェネラリストな一面を持っていた方が応用が利くのかなと思っていて。なので「この人ならこれができそうだな」と判断して新しい業務を担当してもらうこともありますし、経験のないことには積極的にチャレンジしてもらっています。
高田:アーティスト・マネジメントのチームは現在僕以外に3名。他の会社であれば通常6〜7名でやっていることを3人で担当しているので、もう少し人を増やし組織化してそれぞれの役割分担をしていきたいところです。
今は全国ツアーのコンサート規模も一つひとつがかなり大きくなってきて、過渡期に入っている感覚はありますね。一方、IPプロデュースチームは僕以外に社内で兼務をするメンバーが数名、各分野の業務委託のメンバーが数名という体制でまさに立ち上げたばかりという状態です。
プロデューサーの仕事は、100種類あるピンクの中で「良いピンク」の基準を示すこと
——hayaokiは「コンテンツプロデュースの会社」ということで、各事業部のトップがやることをひとことで表すなら「プロデュース」だと思うのですが、そもそも「プロデューサー」とはどういう仕事なのか、お二人なりの定義はありますか?
藤原:自分の中で「これかな」と思っているのは、進む方向を決めて、チームメンバーを「こっちだよ!」と導いてあげるのがプロデューサーの役割なのかなと……。「サザエさん」のエンディングテーマのサザエさんみたいなイメージです(笑)。
自分の中で一旦「これが正解だよ」を決めた上で、「あのゴールに向かって一緒に頑張ろうね」とメンバーに働きかけるのが自分の役割なのかなと考えています。
高田:「方向性を示すのがプロデューサーの役割」はその通りだと思っていて、さらに僕が明確な役割だと感じているのは「エンドユーザーの期待を超えること」です。
サービスでもプロダクトでも何でもいいんですが、お客さんに想像を超える驚きや興奮や学びを提供するために考え抜く。「このぐらいで満足してもらえるだろう」というゴールを設定した上で、さらにプラスアルファで期待を超えていく方法を考える。それがプロデューサーのやるべきことだと思っています。
——なるほど。かなり抽象的ですが、具体的にプロデューサーに求められるスキルはどういったものなんでしょうか。
高田:僕はまず、プロデューサー本人が持つ「視点」がおもしろいかどうか、新しいかどうかが非常に重要だと思っています。例えば「pium」の「“かわいい”を諦めない」というコンセプトについても、「自分たちの扱う“かわいい”とは何か?」の視点をクリアにすることが大事なんです。
藤原:私は「世の中のために」というよりは「一人のためにブランドを作ろう」といつも思っていて、ある一人の人の細かいペルソナを決めて「この人を幸せにするためにどんなブランドを作ればいいんだろう?」と考えながらブランドを設計していくことが多いんです。だから、私たちが扱う「かわいい」って、たぶんすごくニッチで狭い範囲の「かわいい」なんですよね。
よくチームメンバーと話すのは「ピンクって100種類あるよね」って。ピンクは私たちの大好きなカラーで、どのブランドでも使っているんですが、ピンクの中にも「良いピンク」と「ダメなピンク」がある。「このピンクはかわいいけどこっちはかわいくないよね」みたいな話を飽きずに毎日毎日しています。「視点」ってそういうことなのかなと思っていて。
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高田:ときどきpiumチームのメンバーから「高田さん、このピンクとこのピンクどっちがかわいいと思いますか?」と聞かれるんですけど、僕から見たら正直全部同じに見えるんですよ。でも彼女たちから見れば全然違う。そういう価値観とか物差しが「視点」なのかなと。
例えばペルソナを考えるときに、「20代女性」だけでなく「◯◯でXXな20代女性」という「◯◯」「XX」にあたる部分。「この時代のこの瞬間でないとそのニーズはない」と思うようなポイントに気付ける感度を持っているかが大事だと思うんです。
僕自身は「何が"かわいい"のか」は分からないけど、「この人たちの言う"かわいい"の視点ってなんだろう?」というのが、アパレルを始めるとき最初に感じたおもしろさだったような気がします。
藤原:LiBon Studioには10人超のメンバーがいますが、全員が同じピンクを「かわいい」と思っているわけではないんです。その中でどのピンクを私たちの「正解」にしていくか、どのピンクを選べばより多くの共感を得られるのか、そこを言語化して一つずつ理由を付けていく作業をずっとやっているように感じます。
最終的な判断基準は「自分がワクワクできるかどうか」
——数ある物差しの中で「私たちの目指すものはこれだ」という指針を一つずつ言語化するのがプロデューサーの役割ということですね。
高田:アーティスト・マネジメントのケースだと、Tani Yuukiというアーティストを構成する要素はたくさんある。例えば音楽一つとっても、分解すると歌詞、メロディ、アレンジ、サウンド、音響や視聴環境……それ以外にも見た目や性格も含めたいろんなものがありますよね。
僕がやっているのは、こういう人物像の人間が周りからどんなふうに見えるといいんだろう? を俯瞰して客観視するような作業だと思っていて。
アーティストは人だから、その人そのものを変えることはできない。じゃあ、この人はどんな視点から見ると新しいんだろう? 発信する言葉は誰に向けたものなんだろう? この人は誰に何を、どんなふうに届けたいんだろう? を言語化して、どんな人に共感され得るのか、それが一番良い形で届く方法は何かを想像するんです。
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——とはいえ「これが正解」とはなかなか決めきれないと思いますが、どんな基準を元に「自分たちのやることはこれだ!」という判断を下していますか?
藤原:決め方の軸は二つあると思っています。一つは数字面で、採算が合いそうか、つまり事業として失敗しないかどうか。それは過去の経験や他社の状況などからある程度予測して組み立てることができます。
ただもう一つの基準である「自分の感覚」は、もう自分自身を信じるしかないですね。どんなブランドが受けるか、何を「かわいい」とするのが正解なのか、考えても答えにたどり着けるわけではないので……。
私はみんなが「かわいい」と言うものが好きだし、SNSでバズっているものを「おもしろい」と思うし、分かりやすく世の中で流行っているものを好きになる人間だと自己分析しています。だからこそ、“普通の人”である私が「かわいい」と感じるものは大勢の人が「かわいい」と思うはず。
その直感を信じた上で、すでに世の中にあるものの中で「ちょっと違和感があるな、これは違うな」と思うものを自分の好きな方向に近づけていくんです。
高田:僕はシンプルに飽き性で「今までにやったことがないこと、知らないことをやる」瞬間が一番楽しいので、「やったことないからやってみようか」が基準になることが多いです。 前にやったことを焼き直すのが一番つまらない。
hayaokiも「会社作ったことないから作ってみるか」から始まって、今までのアウトプットの成果は「あれもやったことないからやってみたいな」の積み上げ。どうしたら儲かるかのある程度の方法論はあるかもしれないけど、「こうしたら儲けられるな」を最初から考えることはほとんどないし、そもそも「どうしたらヒットするかの方程式」なんて誰にも分からない。
「〜〜をしてみたい」と想像したときに自分がワクワクしてやれるかどうかを考えて取り組むことがほとんどですね。
好きなスニーカーについて、居酒屋で2時間語れるか
——事業の拡大に伴い、これからのチームの作り方についてどのように考えていますか?
高田:規模を拡大するのがゴールではないので、 ただ「人をたくさん増やせばいい」という話ではないと考えています。ものづくりをする上である程度のリソースは必要ですが、それよりも「何をやるのか」「合理的にどう進めていくのか」の意思決定や実行のスピード感が自分たちの価値なので、動機と熱量を持つ人が最短で進める環境を維持したいと個人的には思っています。
藤原:人が増えるのはもちろんありがたいのですが、今のチームメンバーはみんな熱量高く向上心と愛を持ってブランドに向き合ってくれていると感じているので、やみくもに人を増やすことでそのバランスやいいところが崩れてしまうのではという懸念はあります。
一方で、過去にアパレル・デザイナーの経験を持つメンバーや店舗での接客経験があるメンバーが入ったタイミングで、私自身が事業に対する見方が変わったなと思う瞬間があって、自分にはない経験を持つ人に参画してもらうことの大切さも実感しました。
——具体的に「こんな人と一緒に働きたい」「こんな人はカルチャーマッチしそう」というのはありますか?
藤原:私たちのマインドに共感してくださったり同じ方向を向いて進めるような方に入っていただいて、まだ私たちの力ではできないことにチャレンジしていけたらうれしいと思っています。
具体的なところだと、去年始まったインテリア・ブランドの「LARME de LAPIN」は今事業が急拡大していて、家具の製造方法や小物の製造ルートに関する専門知識を持っている方が入ってくれたらもっとスムーズに進めていけるんだろうなと思いますね。
高田:世の中のトレンドを理解して分析できるということよりも「強い好奇心を持てる何かがあるか」が一番のポイントなんじゃないかなと思っていて。
たとえば「スニーカーが大好きでものすごく詳しい」でも「ポケモンのトレーディングカードについてならいくらでも語れる」でもいい。一緒に働く人には、ものすごくニッチなものでもいいから、ある物事に対して、酒の場で2時間語れるくらいの強い興味や好奇心を持っていてほしいなと思っています。
スキルとか専門性よりも「何が好きなのか」「何をしたいのか」「なぜしたいのか」という内なる強い動機を原動力にできるか。さらに、その原動力を糧に覚悟を持って物事をやりきる力があるかどうか。そう言うと「根性論かよ」と思われるかもしれませんが、個人的にはそれがすごく大切だと思っているんです。
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