Route 66
アメリカの白人ジャズ・ピアニスト、ボビー・トゥループの46年のナンバー。
この曲の冒頭は、if you ever plan to motor west「いつか車で西にいくつもりなら」という歌詞で始まる。このmotorという単語は「車で行く」という意味の動詞で使われているが、アメリカ英語なら普通driveを使うところだ。motorをこの意味で使うのはイギリス英語に見られる用法で、このことからこの曲の話者はイギリス人を想定しているものと考えられる。
ルート66はシカゴからカリフォルニアまでアメリカの東西を横断する有名な道路で、アメリカ人なら教えてもらわなくても知っている、ハイウェイのアイコンのような存在だ。それをこの曲で、do get hip to this kindly tip「(西に行くなら)この耳寄り情報を見逃す手はない」とわざわざ勧めているのは、この話者のイギリス人が「御上りさん」であることを暗示しているんだろうと思っていた。繰り返されるGet your kicks on Route 66という歌詞は今風の語感でいうと「ルート66はマジヤバいから」みたいな感じで、より「御上りさん」具合が強調されていて、これは日頃、アメリカ人を田舎者扱いしているイギリス人への仕返しのつもりなのだろうと。ストーンズがデビューアルバムの一曲目にこの曲を選んだのは、自分たちがアメリカ音楽の「御上りさん」であることを認めるという、英国流の自虐ユーモアなんじゃないかと。
ところが、最近ちょっとこの曲の見方が変わってきた。というのは先日NHKで放映された「映像の世紀 ルート66 アメリカの夢と絶望を運んだ道」という番組によると、この曲の発表当時、ルート66沿いにはSundown town「日暮れの町」と呼ばれる、日没後に黒人が出歩くと、リンチで殺されかねない町がいくつもあって、そのため黒人専用の「グリーンブック」という旅行ガイドが発行されていたのだという。そこで、この曲に登場する町を調べてみると、どれも黒人の旅行者を受け入れる施設がある町として掲載されていたようだ。だとすると、この曲はルート66のグリーンブック的なものを意図して書かれたのかもしれない。このことは、ゴスペルの起源が逃亡奴隷のための暗号の役割を果たしていたのと通ずるし、話者がイギリス人の御上りさんに設定してあるのは、アングロ・サクソン系の黒人差別主義者への皮肉とも受け取れる。この曲の作者が白人のジャズ・ピアニストという立場を考えると、単なるイギリス人への意趣返しの曲ではなく、実はもっと深い思いがあったのではないかという気が今はしている。