ボブ・ディラン When the Deal Goes Down
この曲の歌詞は内容のあることを何も述べていない。内容がないことを意図して歌っている。曲名の<When the deal goes down>「取引が下される時」というのも、どうとでもとれる言い回しである。それはこの曲の感傷的なメロディが、意味のない歌詞に聴き手が勝手に意味を与えてくれるのをディランは見越しているから。ディランはどこかのインタビューで「おれの歌詞には騎士的な高貴さがある」と言っていた。たしかに、ディランの歌詞は頑丈な鎧で覆われている。そして、その中にあるのは「身体」だけであって、それ以上のものはない。それはルーツとなるブルースやフォークにおける作法に倣っているにすぎず、ディランにかぎった話ではない。ただ、この曲の歌詞は空の鎧しかない。これはポピュラー・ソングの作法に則っているということなのだろうか。