ボブ・ディラン Jolene
ドリー・パートンの同名の曲があるが、それと同じモチーフがこの曲でも扱われている。同じ曲名でモチーフまで同じなのだから、彼女への敬意の表れなのだろう。ディランのこの曲の方がモチーフがより明示的なのは、共作者のロバート・ハンターのどこか俳句的で簡潔な語法によるものか。
冒頭でHigh Street(町の目抜き通り)というイギリス英語の用語がある。これはアメリカ音楽の象徴であるhighwayに対比するかたちで使われている。つまりHigh Streetを闊歩するJoleneはイギリス人の女性という設定であり、ブリティッシュ・ロックが擬人化された存在。
イギリスのHigh Streetには生活感はあっても、アメリカのhighwayのような距離感がない。Joleneには、ブルースという「死人」を甦らせる力はあっても、町中では「山男(ヒルビリー)」は見つけられないだろう。また、ブルース本来の「暗さ」が足りないと、「王」の立場から述べている。
「おれはおまえを自分のものにするつもり」「おれは王でおまえは王女(クイーン)」という歌詞には、Bringing It All Back Home以来のディランのブリティッシュ・ロックに対する意識が感じられる。