いつか「名刺」がなくなる世界を目指して
先日、飛行機の中で綴った「これからの働き方」について。
長文ですがお付き合いくださいませ。
あなたが初めて名刺を持った瞬間
初めて自分の名刺を持った時の瞬間を覚えていますか? 人によっては憧れの会社だったかもしれないし、何とか滑り込めた会社だったかもしれない。それぞれの思いは違えど、少し「大人」になった感覚を持ったのではないでしょうか。
私はそんな「会社」を代表する「名刺」が、いつかなくなる世界が来るんじゃないかと思っています。つまり近い未来、「会社の人」ではなく、「個人」を表現する名刺に変わるのではないかと感じているのです。
なぜそう思うのか、少し私の昔話にお付き合いください。
育休でのアイデンティティクライシス
第一子の妊娠が分かる2週間前、私は昇進(役職付き)の内示を受けました。もっと働ける、やりたいことが沢山ある!と思っていた矢先に妊娠が発覚。当時の上司からは、「早く戻って来いよ。お前のポストは残しておいてやる」という言葉もいただき、この産休・育休というキャリアブレイクを、前向きに活かそうと意気込んでいました。
しかし、1日8時間~10時間働いていた仕事が急になくなった時、私の”社会人”としてのアイデンティティは、崩壊しました。
会社の看板(=「会社に属する、個としての名刺」)を失った時、自分が何者でもないような気がしたのです。家族では母や妻であっても、社会との繋がりがない。会社を通じてでしか、社会に繋がっていないと感じたのです。
迷走する、32歳からの自分探し
2021年12月、子どもが生まれて数か月後に書いていた悩み。そこで、とにかくこの「空いた時間」を活用しようと資格取得から始めました。貿易実務検定B級、そしてA級、FP3級、そして2級…
でも、「これって本当に私という”個人”がしたくて、やっていることなのか?」という悩みが尽きません。
むしろ、「復職したときに、頑張っていたと思われたい」という、会社の枠組み(=評価)を抜け出せていない思いに気付きました。
そこから、もっと自分の想いに素直になり、やりたいことをやってみようと考えました。地域の留学生とのワークショップに参加し、子ども向けイベントを開催している方と運営を企画したり、旧Twitterでグローバルコミュニティに所属し、カフェ会(オフ会)にも参加してみたり。そこで、「やっぱり英語をもっと勉強したい」という思いに気付きながら、復職の日を迎えました。
自分の心に火をつける出会い
復職し、想像以上に大変な育児と仕事の両立を行う中、知人が出場していたG’s Academyのプレゼン大会をオンラインで視聴したことが転機になりました。G'sの学生さんたちは目を輝かせながら、自分がやりたいこと・作りたい世界を表現している… それに対して私は「会社」の枠組みから抜け出せないまま、仕事をしている。
本当に私の心に火をつけて、人生でやりたいと思えること、会社でやれることではなく、自分がやりたい事は何だろう?と深く考えるようになりました。
MBAとの出会い
「英語」というキーワードを元にたどり着いたのは、Globisのnano-MBAでした。すべての授業が英語で、リーダーシップについて学べる6週間。ちょうど部下を持ちながらの時短勤務に壁を感じていた頃で、学びが役立つ機会だと感じ、すぐに申し込みました。ここから私のMBAへの興味関心が高まりました。
この時、資格取得とは異なり、「私がやりたいからやる」という感覚が芽生えました。会社の評価や業務に直結していなくても、やりたい!と思えたのです。
この体験が種となり、そこからもっともっとビジネスを学びたいと思い、アメリカの授業料無料のオンライン大学院、University of the PeopleのMBAを経て、現在は一橋大学のフルタイムMBA(ICS)への進学を考えるようになりました。
👇UoPeopleについてご紹介頂いている記事です。インタビューをして頂きました!
このときようやく、「会社」の枠組みから抜け出し、「個人」がやりたいことを追求するようになったのです。
会社の名刺が、自分にフィットしなくなった
その後第二子の妊娠が分かり、再び産休。しかし今度はアイデンティティクライシスを迎えることはありませんでした。なぜなら、「自分がやりたい事」があるからです。母親として育児や家事を両立するのは前提の上で、「大学院(UoPeople)での学び」を追求。ほぼフルタイム並みに活動しながら、エッセイやグループワークをこなす日々でした。
一方で、オンラインコミュニティの運営も手伝ったり、現在の本職に繋がる業務の一部をボランティアで行っていたりと、かなり活動的に動き回りました。グローバルコミュニティのメンバー何名かと1on1してもらったり、オンラインイベントに参加する中で、「入社時にもらった名刺」が自分にフィットしなくなっていることを感じました。
新しい人に出会うときに、自分を表現する、常に進化し続ける名刺が欲しいと、感じるようになりました。
個人を表現できる名刺が欲しい
そしてたまたまご縁もあり、前職を退職してベンチャー企業に転職しました。そこで感じた「自由」が、さらに私を「個人」として掻き立てます。
フルリモートだからこそ、平日の昼間も自由に使える環境。子どもの病院への通院や送り迎えで一時的に席を外すこともできます。仕事のアウトプットをきちんと出していれば、別に副業や違う業務を引き受けていても(していませんが)、文句は言われないでしょう。
この平日の自由さを活用し、LinkedInでつながった方々と面談することもでき、ベンチャーで出会った起業家の方々に触発され、「私も何かしてみたい」という思いが強くなりました。その結果、どんな名刺もフィットしないと感じました。
本職の名刺も、どうもフィットしない。この長方形の名刺からはみ出している部分の活動、つまり名刺が表現している「事業領域」以外のプライベートや、仕事にもつながりそうなアイディアは、どこで表現したらいいのだろう?と考えました。
新しい組織(DAO)とNFTとしての名刺
ここでいきなり、DAO(分散型自律組織)について語ります。DAOとは、会社の枠組みを超えて協業・協働できる組織で、中央集権的な意思決定ではなく、みんなで提案し、決定権を持って運営できる透明度の高い、あたらしい組織です。
いつか「会社」という枠組みを超え、個人がやりたいことをやる時代が来た時に、DAOがその活動の受け皿として機能するでしょう。今は、日本DAO協会に属しながら、その概念や活動方法を学んでいます。
個人のスキルを改ざんできない形で証明するために、NFT(デジタルな資産)の一種であるSBT(代替不可能なデジタル証明)を活用することで、個人の名刺(経歴・実績)を、改ざん不可能な形で証明することができるのではないかと考えています。(このあたりまだ勉強中で、齟齬があったらすみません)
そんな世界を表す、私の名刺は?
抽象的な話をしますが、名刺を見ると「縛られている」と感じるようになりました。名刺をもらったときにあるのは高揚感ではなく、「束縛」を感じるようになったのです。
その会社でしかできないことに囚われず、もっと自由に業界も業種もまたいで活動をしたい。会社の中で昇進したくて資格を取っていた私とは違い、今は「会社の枠組みに囚われたくない」と感じています。どんな会社の名刺も、自分を表現していないように思えるのです。
では私が表現したい名刺は? 例えばこんな感じです。
本職: 貿易業界の人材育成と創出事業
個人:
グローバルなコミュニティで世界中とつながる
日本DAO協会でDAOの発展に貢献する
育児系コミュニティでママパパと協業する
個人として人を繋げるサービスも企画中
これなら私は誰に会っても、この名刺1枚を渡すことで自己紹介ができます。どこか特定の会社の「haru」ではなく、DAOが発展していけば、個人としての「haru」を証明する必要が出てくる。そうすることで、人とつながるのがもっと楽しくなり、会社で出会う人たちもその人の「本質」が見えるようになる気がするのです。
まとめ
名刺をもらったときの高揚感、今でも覚えています。あこがれの会社ではなかったけれど、どこかの団体に属したという安心感。そして大手だったからこそ、「すごいですね」と言われた一声。
でもそれらはすべて、本当に私に向けられたものではなく、その会社にぶら下がっている私に向けられたもの。産休に入り、その会社の名刺がフィットしなくなった時、私の「個人」への追及が始まりました。
これからは「個人」としての名刺を掲げたい。そうすることで、新しい出会いがどんどん生まれるかもしれない。自己証明には限界があるので、Web3.0の技術を組み合わせて改ざん不可能な証明にすれば、皆がもっと自由に自己実現を目指しながら、その功績をきちんと証明できる世界ができるかもしれない。
そんなことを日々感じながら、本業のベンチャー職も、個人で始めようとしているサービスも、そしてMBAへの勉強も進めていきたいと思います。