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チバユウスケへ献花の会の話

「はちみつのにおいがするね」
ステージから発せられた言葉にとてつもなく高揚した、あの時の感情が忘れられない。
音が鳴った瞬間、客席にいる私たちは洗濯機に放り込まれたみたいになって、終わったときには汗だくでボロボロ。
なのにそこにいた全員めちゃくちゃ笑顔。地獄みたいな天国だった。

何度となく訪れたライブは、今思うと本当に全てが、夢みたいな時間だった。というか、もしかして夢だったのかな?と他人事のように感じる思い出ばかり。でも確かに私はその時、同じ空間にいた。

訃報を知ってから全然実感が湧かなかったのに、献花の日が近づくにつれてどんどん現実を突きつけられて、思い出したように曲を聴いてはしんみりしていた。
何年も聴いていなかった曲も、イントロを聴いた瞬間にぶわっと毛穴が開いて脳みそが痺れる感覚を思い出せる。自分でも知らないうちに体に染み付いていた。

彼について書き出したら本当にどれだけでも書き続けてしまう(実際下書きはあっという間に2000字を超えてしまった)けれど、
それは所謂深夜のラブレターになってしまうので心の中にしまっておく。

迎えた献花の日。

冬の青空。

会場に近づくにつれてどんどん気分が悪くなってきた。
行きたいような行きたくないような。
こんな気持ちでライブハウスに向かうなんて、初めての感覚。
身体から体温が引いていく。気持ち悪い…

会場は、どこからこんなに人が湧いてきたのかと思うほどの黒い集団で埋め尽くされていた。音楽を聴く気にもならないし、Xもインスタも見る気がしない。待機列に並んで、暮れていく空をぼんやり眺めていた。

一日中途切れることなく続いた列。どの人も前を向いて静かに並んでいたのが印象的。

会場から出てきたすすり泣く人たちとすれ違っても、フフッてちょっと笑って見てた。泣いたりするなんて、そんなに酔いしれるなんて嘘でしょ?って思ってへらへらしてた。

おなじみの登場SEが流れる中、会場に並んで入る。
やば、もう出て来る、始まっちゃう!とライブが始まる時のあの気持ちになる。なのにふと目をやったステージには誰も居ない。
全然大丈夫じゃなかった。噓みたいに涙が溢れてきた。
ここでは泣いて良いよ、って言われた気がした。悲しいときにちゃんと悲しいって思うことは大事なことだって昔誰かが言っていた気がする。

献花の会って、こんなに美しくて悲しいものなのか。

真っ赤な花で作られたでっかい星。絨毯の上にセッティングされたマイクスタンドとエフェクター、持ち主を失ったグレッチが傍らにぽつんと。
星空みたいなキラキラのライトと敷き詰められた白い百合の花、16本のキャンドル、マリア様とかメキシコの飾りとか鹿の角とか。天国ってこんな感じなのかな。
こんなかっこいい祭壇ってほかにある?!作った人たちのめちゃくちゃな愛を感じた。

献花は私の大好きな濃いピンクのガーベラだし、大好きな曲がノンストップで流れてきて、引きが良すぎてこわいぐらい。
一生ぶんのチバ運を全部使い果たした感。もうこれに関しては使うことは多分ないから良いんだけど。
あの声で「よく来たねぇ」と言われてる気がした。
多分、会場に集まった一人一人の中にそれぞれのチバユウスケが居て、みんなそう思っていたんじゃないかな。

献花を終えてもその美しすぎる空間からなかなか離れられなくて、流れる曲を声と詞のひとつひとつを噛み締めるように聴いた。こんなに優しい言葉ばっかり歌ってたんだと改めて気付いて、涙が止まらなかった。でも音に合わせて勝手に体は動いてた。
泣いて笑って感情が追いつかない今までに経験したことのない空間。
ありがとう。結局それしか言えなかったな。


Thanks!

チバユウスケ(に出会う)前・チバユウスケ後では、私の人生は明らかに変わったと思う。そしてこれからはチバユウスケ亡き後。一区切りをつけて新しい章が始まった感じだ。まだたまにメソメソしてるけど。

ピンクのガーベラはとびきり特別な花になってしまった。

ありがとう。
何度呟いても足りないぐらい、たくさんのものを私たちに残してくれた人。
これからは空から見ててよ。
この日見た景色、その時の気持ちを私はこの先きっと忘れない。

安らかに。

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