オーストラリア2400km自転車旅14日目🚴♂️
14日目「ビール」
何時に起きたのかわからない。分かる必要もなかった。桃の缶詰を食べた。外に出て屈伸して、またべッドに戻り、ディープを塗って足のマッサージを1時間ほどした。足の調子は確実によくなっている。目もすっかり覚めた。昨日の手紙の続きを再び書き始めた。
手紙を書くこと、日記をつけること、どちらも日本にいた時はしたことがない。面倒臭い。でもオーストラリアに来てからはそれをしている。ワーキングホリデービザは一年しかない。この一年間で見たもの、触れたもの、感じたものはきっとこれからの自分の核になる。多分書かなくても忘れはしないと思う。でも些細な心の色はきっと忘れる。それが惜しい。だからこの国にきてから、面倒臭がりな自分が、書きたい、忘れたくない、と言ってる。
手紙を書き終えた。それをぐるぐるに小さく巻いて、ヒモで結び、ビニール袋に入れ、それをさらにビール瓶につめ蓋をした。小屋の近く、ナイフで掘り起こした穴にそれを埋めた。
未来の俺は本当にもう一度ココに来るだろうか?
だとしたら何年後だろう?
この手紙を読むだろうか?
この時のことを思い出し何を想うだろう?子供だなと想うかな?
どんな男になっているだろう?
素敵な人になってるかな?それとも卑屈な男になってないか?
・・・・・・・
理想は、
「ありがとう!この時のお前がいたから、今これができている!」って褒められたい。
めちゃくちゃカッコいいことしててほしい。
しばらくしてオーナーが小屋に来た。マンゴーを5つくれた。俺とシュンは今日でバーンヒル 4日目になる。宿泊代を払わなければならない。シュンに言った。
「明日発とうと思う。そろそろ自転車始めようと思って。」
自転車をやらねば、という『焦り』が湧いてきた。もしもう一日ここにいたならば、もう自転車への思いを心に留めておけないかもしれない。
「・・・・・そっか、そうだよね。」
そうして、シュンには悪いなぁと思いながら明日まで宿泊させてもらうということにした。
今晩が最後。シュンはビールを欲した。もう持っていたビールは尽きてしまった。
シュンは悩んだ。今晩のためだけに、ルーバックRHにそれを買いに行くか、それともそれはナンセンスなことなのか・・頭を抱え、俺に伺いを立てる。が、シュンは知っている、俺がシュンほどビールを求めてはいないこと。
「よしっ決めた!いくらヒロにアル中だと野次られようが僕は買いに行く!今日バーンヒル最後の日ならなおさらだ!」
「(決まっていたくせに)」と思う。
俺たちは車でルーバックRHへ行った・・・ビールだけのために。行きのドライブは、シュンはずっとハンドルを指でカチカチ叩いていた。帰りのドライブでは終始笑顔だった。
「(アル中だな、こりゃ)」と思った。
小屋に着き、さっそく一本グビッといった。良い気分になったところで、ビーチへカニを捕りに行った。昨日、予想以上にうまかったから。ビーチには直径10~20センチくらいのけっこう大きい穴がポツポツとあいている。その穴の中に体長1 5センチくらいのカニがいることが分かった。これを掘るのはけっこう根気がいる。カニはなかなか深くまで潜り込んでいて、しかもその穴がまっすぐ下に落ちておらず、クネクネくねくね曲がっている。穴が砂で埋まってしまって、進路をつかむのが難しい。進路に従って掘りつづけていくと、80cmほど下まで下がり、そこから穴は上に進路を変え結局地下たった15センチのところにいたりする。1時間近く穴を見つけては堀りしていたが、結局一匹しか捕れなかった。
今日の晩飯は、ハム野菜炒めとライス、いわしの缶詰、デザートにカニを今日も仲良く半分づつ。ビールをご飯と一緒に一本飲んだ。
二本目を持って2人で再び夜のビーチに行った。じゅうたんのようにふわふわした白い砂の上に寝転んだ。隣り合わせに大の字で寝転んだ。ビールを砂に押し込んで立てる。何にも考えない。風は涼しく、砂はあったかい。。。日中の太陽エネルギーが砂の中にはたっぷりと蓄えられていた。
たまにうつぶせに寝て、たまに仰向けで寝る。
「あ~気持ちいぃ~」官能的な声をもらすシュン。聴覚的にも視覚的にもうるさいものは何ーつない。
波の音と星空。
この日は遅くまで小屋に帰らなかった。気持ち良すぎて帰れなかった・・・
「なーシュン、1 0日以上前の話になるけど、手紙とレモンジュースありがとう」
「見つけてくれて良かった」
シュンとはこれまで多くの時間を過ごし、たくさん語り合った。俺はシュンを尊敬している。
頭がよく、いろんなことを知っている。
頭がいいくせに運動神経までいい。
いつも正直でありのままなのは、めちゃくちゃカッコいい。
男として嫉妬している。
そのシュンにも、悩みはある。抱えているものがある。
それを話してくれた。
明るい話ではなかった。
けど、やっとシュンについて納得できた。
夜空は暗いほど星の光は強い。
シュンの目そのものだ。
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