オーストラリア2400km自転車旅21日目前半🚴♂️
21日目前半 「あと半分」
道路わきで横になり、こっちの世界と夢の世界を行ったり来たりしていた。
午前3時ころ、2台の車が50mほど後ろにあったシェドの近くで止まった。それから地面を掘っているような音がしだした。
人のことは言えないが、こんな時間に・・・何の用があるんだ、と思った。
「(・・・なんか怪しいな。死体でも埋めてんじゃないだろうね)」
俺の存在には気付いていない。
『見たなお前!』とか言われたらかなわない。
地面にべったりうつぶせてずっと息をひそめていた。
20分ほどたって、彼らは去っていった。
何をやっていたのか検討もつかない、、、とりあえず目が覚めた。
あぁードキドキした。
「よし相棒もうちょっとがんばるか!」
向かい風に逆らいながら走った。
そこにはもう昔のような純粋な黒い世界はなかった。
月が・・・明るくなっていた。怪しいほど明るい。
「月ってこんなに近かったっけ・・・」
手を伸ばしてみた。届かなかった。
相棒にまたがった俺の影が、アスファルトの上にくっきり写る。彼女はずっと俺を見つめてる。たまには視線をそらしてほしい。
自転車を止め、
「何だよ?」と睨み返す・・・
妖艶すぎて持って行かれそうになる。
その明るさは・・・俺にはちょっとうるさい。
彼女の前では星たちもおとなしい。
以前の「闇」を懐かしく思った。
まーいいか、とにかく夜のうちに走れるだけ走ろう・・・
そう思ったが全くダメ。ほとんど道路わきで眠っていた。
ディンゴには襲われなかった。
結局空が明るみ始めるまでに稼いだ距離は、最低必須の30キロ。。。
「あと残り30キロ。俺が早いか、太陽が早いか。」
あいつには月のような艶かしさはない。
あるのは『殺意』。東の空を見る。
やつは地平線を破り、ヌヌヌとそのどでかい顔を持ち上げた。
戦いのゴングが鳴る。
俺は目を全開におっぴろげ、彼を見つめた。
光が目を介し血流に乗って全身に満ちていく。
眠気や淀みが体から浄化されていく。
大声で叫んだ。
「ヌォォオオーーギャヤーーヌォオオオーーー!!」
戦いの挨拶をした。
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午前10時ナニュタラRHに無事着。相棒から倒れるようにして芝生に身を投げた。30分寝落ちした。
身を起こし、店に入り、ジュースとホットドッグ&チップスを買った。最高のご馳走だ!
シャワー代を払い、シャワーを浴びた後、またいつものようにキャラパーに潜伏し、アコモの手前の通路(影)で横になった。しかし眠れない、眠れる気がしない・・・
「・・・ふざけんなよ。何度あんだよ今日?」
体にかける水は音をたてて蒸発していく気さえする。いいかげん寝かせてよー頼むよー、神頼みを始める・・・
神様はそれに答える。
「エアコン効いた社員用の部屋があるからよかったらそこ使いなさい。マットもあるわよ。あんたのそのダンボールのようなマットじゃないよ、ちゃんとしたやつよ」
アコモを掃除していたおばちゃんが声をかけてくれた。
基本怒られると思っているから、内容のギャップに面食らう。
「えっ!?」
「お金もいらないよ。そんなところで横になっても眠れないでしょ。私の掃除の邪魔だし。ハッハッハッハ!」
なんて素敵なおばちゃんなんだ!
10時までに着いてほんとに良かった。
「おばちゃんありがとう!」
そのおばちゃんが案内してくれた部屋に相棒と荷物ごとお邪魔した。
「おおー こりゃ涼しい涼しい涼しい!!」
「クーラーが効いてるって言ったじゃない」
「うん言ってた!ほんとありがとう!眠れそうだ!」
「今日はほんと信じられないくらい暑いわ。私もこのままアナタと眠ってしまいたいわよ」
おばちゃんはウインクした。
「・・・冗談よ!出るときは勝手に出て行けばいいから。鍵は閉めないでいいわよ」
おばちゃんはまた掃除しに戻っていった。
・・・鍵は閉めたいな、と思った。
・・・・・・・
グッスリ眠ることができた。4時間爆睡。
体力回復!ほんとにありがとう。
目を覚ましてから、おばちゃんを探し、お礼を言った。
RHに戻り地図をチェックした。
次のRHまで227キロ。その間に休憩所が2つ。
一つ目は70キロ、二つ目は180キロのところに。
今晩どこまで行ったもんかなー。
ガソスタのおっちゃんに質問した。
「パースに近付けば幾分涼しくはなってきますか?」
「あんた自転車だろ。そんなすぐ変わらんよ。」
「じゃ一風は?いっつもアゲインストなんですけど・・・」
「海から陸に吹くようになってんだよ。」
「いやだけど昨晩追い風だったんですけど、ほんとに。」
「たまにはそういう時もある。」おっちゃんは続けた
「この時期に自転車やるやつはいない。やめとけ。
あそこの2人いるだろ?見えるか?」
そういって、おっちゃんは外を指差した。
二人のやんちゃそうな若者が車の窓を磨いている。
「あいつら今からカナーボンに向かうんだ。乗せてってもらえ」
カナーボンはここから370キロのところにある大きな街。
「あの一、何日か前にカナダ人の自転車やってる人来ませんでした?」
「アィドンノー。とにかくこの時期だけはやめとけ。死ぬぞ。」
おっちゃんの顔は真剣だ。
「サンクス」そう言ってそこを出た。相棒に話し掛けた。
「俺たち、もうパースまでの半分走ったぞ・・・
半分やったんだ、あと半分できないわけがない。」
相棒は黙って俺の言うことに耳を傾けていた。チェーンについている赤土を払いのけた。
この日はほんとに熱く、なかなか気温が下がらなかった。
結局午後6時まで、そこでマッサージをして待機していた。
改めて自分の足を見ると、以前の自分の足よりもたくましく見えた。たった3週間で、筋肉ってつくのか。。。
ガチガチの太ももを見ていると、あと半分やれそうな勇気が湧いてきた。
よし、そろそろ行くか。
いつものように全身に水をどっぷりかけ、相棒にまたがった。俺の体から相棒へと水が垂れ、相棒も涼しそうだ。
飯を食った、
眠ることもできた。
やれる。
「やめないし、死なない」
そう呟いて、自転車を漕ぎ出した。