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オーストラリア2400km自転車旅3日目🚴♂️
3日目 「オクトパス」
ぶっさいくなニワトリの鳴き声で目が覚めた。顔を洗おうと思い小屋の一番奥にあるシンクまでいった。左膝は・・・やっぱりまだ痛む。。。ハァー。。。
「おやっ!何だか魚臭い!」
眠い目をこすってよく見ると、封があいている魚の上にハエがたかっている。
「・・・しまった!」
ハーブは俺を起さなかった、気を使って起せなかったのかな。。。
せめて自分だけでも食べればよかったもののそれもしなかったようだ。眠ってしまうべきではなかった。申し訳なさでいっぱいになった。ハーブが目を覚ますのを待って、真っ先に謝った。
「ごめんハーブ。本当にごめん。」
「いいよ」と言ったその目はとても悲しそうだった。
「昨日は酒をたんまり楽しんだから」テーブルの上のラムのビンを見ると、もうほとんど残ってない。ずっと俺が起きるのを待ってたんだろうな。
「本当にごめん・・・」
ハーブは立ち上がり、その魚をパックごと摘み、小屋の外へとトボトボ歩き出した。捨てに行くようだった。彼の後を追うようにして外に出た俺は、さらにショックを受けた。そこには2 、3の薪木とたくさんの木の枝が用意されてあった。
「昔、俺がここにいた時、このパークにいた皆を集めてキャンプファイヤーしたんだ!それがすごく楽しかったから忘れられねーんだ!」
昨日ハーブがそう話してくれたことを思い出した。ハーブは俺と二人だけでもキャンプファイヤーしようって、そう思ってたんだろう。ハーブの方を見た。その背中が泣いてるように見えて、やるせない。寝るべきではなかった。彼は戻ってきて何も言わず、また横になった。
今晩もう1泊しようと思った。そして今日は何もしないでおこうと。左膝が少しでも良くなれば良いんだが。二度寝することができず、シャワーを浴び、洗濯し、べッドのマットを持ち上げ砂埃をはたいた。そうしてまた横になった。一度海を見に行った以外、夕方まで見事に何もしなかった。日も傾き少し暑さがひいた頃、海に行っていたのであろうハーブが笑顔で戻ってきた。彼は少し興奮気味に言った。
「海にいっぱいオクトパスがいたぞ!!」
めちゃくちゃ腹が減ってた俺は跳ね起きた。
「え!まじっ!?捕まえに行こう!」
「ちっちゃいぞ」
「食えればいい!」
おのおのナイフと買い物袋を持って海に向った。ハーブがこっちだ、と言って岩場まで案内してくれた。昼間は岩場なんてなかったが、潮がひいて現れたようだった。岩場につくと、ここからは静かに歩くようハーブから指示が出た。こっちに来い、と手招きをする。そこに行って彼が指差す方を見ると、いた!確かに小さいがのっそり動いてる。ハーブはそいつを一向に捕ろうとしない。しばらく変な沈黙があった。どうやら触りたくないらしい。
よーし俺が捕る!と意気込み、袋に手を突っ込み飛び掛かった。掴むには掴んだが、にゅるっと抜けた。そして墨であたりを真っ黒にして、岩のどこかに隠れてしまった。袋に足が2本だけ残っていて、まるでそれぞれが生きているようにクニョクニョ動いていた。すっげぇー!タコすげぇー!地面の色に合わせて体の色を変え、どんな細い隙間も体を細く伸ばし入っていく、危険を感じるとすばやく墨を吐き身を隠す。胴体本体を守るために足を故意にちぎることも・・・すごっ、すごすぎる!タコってこんなに多機能やったんか!しかし感心ばかりしてられない。こちとら腹減りマックス。ハーブは触りたがらないが、見つけるのはうまかった。ハーブが見つけて俺が捕まえるという役割分担が自然とできた。彼も俺もワクワクしていた。こんな気持ちは中学校の時、弟といっしょにクワガタとりに行った以来だな!と思った。4 0分ほどかけて6匹ほど捕まえたころ空がすっかり暗くなってきたので引き上げることに。
「もっと早くに始めていればもっと捕れたのになー」と俺。
「2人だから6匹で十分だろ」
「そだな」
ハーブは一瞬足をとめて一度後ろを振り返った。
「俺さー 息子がいるんだ。今回でここに来るの最後にしようって思ってたけど、また来ようかな、あいつと・・・」
「やめとけよ。ハーブ タコ触れねーからな。『お父さん、なんで見つけるばかりで捕まえてくれないの?』って言われるぞ」憎まれ口を叩いたが、ハーブは鼻くそをほじくっていて聞いていなかった。子供のことを思い浮かべていたようで、遠い目をしていた。小屋に帰ってから、
「ハーブは酒飲んで座っててくれよ。今日は俺がこのタコを料理するから!」
と言った時にはすでに飲んでいた。
昨日のことを悪く思っていたから、何とかこのタコを上手に料理したいと思った。と言ってもこんなもの料理したことなんて未だかつて一度もない。まーどうにかなるかと、とりあえずそのタコを洗い、ゆでた。その間、塩コショウを借りようと思い、小屋から歩いて3 分ほどのところにあるオーナーんちに行った。ちなみにオーナーは30代半ばくらいの女性だった。小学生と幼稚園生ぐらいの息子がいた。お父さんはいないのかな?あとでハーブに聞いてみようかな?何て考えながら塩コショウを借りた。その際に、コレも持っていきなさいと、ニンジンやキャベツ、玉ねぎ、ニンニク、玉子を四つもくれた素敵なオーナー。好きだ。
油ははじめから小屋の中にあったので、それらを使ってとりあえず、野菜炒めを作った。タコはゆでたのをちょこっと食ってみたが何だかぶにょぶにょしていていまいちだったので、小さく切って、フライパンで揚げて塩コショウした。
「よし、ハーブ食おう!」
と言ってちらっと彼の方を見ると、もうかなり酒に飲まれちゃったみたいで不気味な笑みを浮かべている。気持ち悪いやつ。味は自分でいうのもなんだがおいしかった、と思う。塩コショウだけなんだが。
「ハーブ、うまい!?」
「あんまり」
「・・・・」
「火おこすか? ?」
「いいや」
「そっか」
飯食って酒を飲むと、あんだけ日中寝ていたにもかかわらず、また眠くなり横になった。酒でほてった頬に、小屋を吹き抜けていく風が当たる。最高にLazyな一日だった。
あっ、 オーナーの旦那さんについて聞くのを忘れてた・・・・まっいいか・・・・