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断捨離記

これはゴールデンウィーク五日間の雑記。この連休は持ち物の断捨離をする期間と決めたので、その意気を絶やさないため書き留めた。

5/1初日
薫風というには野蛮すぎる風が吹いていて、もてあそばれた枝葉の踊るのを横目に映画館へ向かう。タイトルは「旅立つ息子へ」。大型連休の初日というのに客入りはまばらだ。イスラエルの作品をみるのははじめてだった。知的障害を持つ成人した息子・ウリと、息子を施設へ入れることで自立させたい母、そして今までの生活が手放し難くそれを拒む父。約束の施設入所の日、父と息子の逃避行がはじまる。
親権もの(というジャンルがあるのかは謎だが)が好きなので前からチェックしていたが、これも期待にそぐわぬ良い映画だった。大人がこどもの為にしてあげられることってなんなんだろう。愛だけではどうにもならないことがあるし、これという正解がないので難しい。いつか自分のこどもや身近なこどもに接するときのためにも、適切な距離について考える機会を常に持たねばならないと思う。よりよい方法を考えつづけることこそがすべての大人の務めである。ロードムービーや通過儀礼的な物語が好きな人はみるといい。
断捨離用の段ボールが届く。段ボールなど家に腐るほどあるのに、予め規定の大きさを計るのが面倒だったから、買取業者の用意した箱をわざわざ頼んだのだった。こういう無駄が新たな不要を生む。馬鹿馬鹿しい話だ。
夜、にわかに雲行きが怪しくなる。近くに雷が落ちて、家がカタカタ揺れた。雷は昔から嫌いだ。明日は荷詰めをする。

5/2二日目
段ボールへ本を詰めてはみたものの、全然容量が足りない。処分すべきものが多すぎた。業者へ段ボールの追加を打診する羽目になる。
本の整理が一旦行き詰まったので、電子版の断捨離をはじめた。スマホの契約を格安プランへ変更すべく、キャリアメールが使えなくなることを見越して様々の登録を解除、変更して回る。
昼は買い置いてあったチーズケーキをホールで食べた。こういうことをしても太らないのは体質が幸いしてのことだが、健康の面でよくないことは分かりきっている。しかし背徳は美味。
作業に戻る。手続きはことのほか骨が折れて、ほとんど一日がかりになった。夕飯時にようやくあらかたが終わりしゃぶしゃぶを食す。付けダレはポン酢に限る。普段からゆずポン酢やレモンオリーブオイルなど、柑橘系の入ったものばかり好んで使っている。だいたいは柑橘を混ぜときゃ間違いない。
今日は目を酷使したので頭も首もバキバキだった。明日は目を休めるがてら、アナログの断捨離に戻ろう。

5/3三日目
作業というものはなんでも、とりかかるまでに相当の時間を要する。特に部屋の片付けとなると尚のこと。今日もそれだった。
午後になり、ようやくやる気が起きた。部屋のいるもの、いらないものを順に分けていくが、なかなか進まない。部屋の様々に目が移り、元の作業に戻ることなくだらだらと時間が経過していく。
積まれた本を整理しているなかで、かつて大学の入学式の帰りに道端で渡されたとある宗教の啓発本が発掘された。折角なので処分する前に目を通すと、なるほど、ネット上でも胡散臭い文章というのはやたら読点の多くて読みづらいと思っていたが、まさにその文体で長々と書かれているのだった。立派な製本がなされているので折角だしこれも中古で売れないかな、と邪なことを考えたが、査定の対象外だったのでゆく果ては資源ごみとなる予定。
この二日間、家に篭りきりだったから外気温のあたりのつけ方を忘れてしまった。明日は外に出る予定があるけど、一体何を着ればいいのか。

5/4四日目
朝から歯が疼く。もうかれこれ一年近くつけている歯科矯正のワイヤによるものだけど、いまだに慣れない。
よく晴れた暖かい日だったので薄着で出掛ける。四月の半ばにペールブルーのトレンチコートを買ったが、全然使わないうちに外套の不要な季節になっていた。
今日は舞台を観にいく。とはいえ世はコロナ禍、不要不急の外出はあまり褒められたものでないけど、わたしにとってはこの趣味が日々をやり過ごす生き甲斐なのだった。なるべくリスクを最小限に抑えるため、移動は車で。こまめな手洗い。消毒。出来うる限りの対策をする。終始ひとりなので店員さんとの些細なうけこたえの他は、人と話すことは無い。
万が一にも劇場でのクラスターが起こってしまうと規制がより厳しくなることを思えば、予防はどこまでしてもし過ぎることはない。関係者の方々による不断の努力を、ファンが無碍にすることはあってはならないからね。

劇場にむかう道程、公園へ立ち寄る。ちょうど見頃の藤棚は青青としてたっぷりした花が無数に垂れていた。あたりには蜜を吸いに来た熊蜂の飛び交う羽音がぶんぶん鳴り響いている。熊蜂ってこんなに大きかったかと思う。久しぶりに蜂をみたから殊更に大きくみえる。側で子どもがしきりに「ぶどう、ぶどう」と連呼していて訂正したものかどうか迷う。結局できずじまいになった。

藤は昨冬の大雪で一度折れてしまったらしく、幹が弱っているので触れたり藤棚の下へ入ったりすることは禁止されていた。そんな目に遭ってなお花を咲かすとは、生命力ってすごい。


舞台、オペラグラスが曇るほど泣いた。最近は配信で観られるものも増え、生で体験せずとも作品に触れる機会はままある。でもやっぱり劇場でみる感動に勝るものはない。これは映画にも言えることだけどね。
推し(荒木宏文さんのことです)の新境地ともいえる演出を取り入れていたのにも胸を打たれた。こんなことが可能なのかと…。刀剣乱舞の界隈はとかくネタバレに厳しい風潮があるので、詳しくは語れないし見た人と話がしたい。足掛け二年の大掛かりな公演なので、なにも気にせず感想を述べられるのはいつになるんだろうな。
すごいものを見た日は、余韻で寝付きが悪い。夜中の二時くらいまで延々と推しと舞台について思い巡らせていた。不健康だ。

5/5五日目
朝から雨が降っていた。今週の日曜日までがゴールデンウィークとする説があるが、明日から仕事に戻らねばならないとなると個人的にはもう終わり。終了だ。
特段仕事が忙しいわけでなく、職場の人間にも比較的恵まれているので耐え難く辛いことなどあるはずもない。それでも働かなくていいなら働きたくはない。仕事はわたしにとって生き甲斐にはなりえない。
断捨離の仕上げをする。ここで新たな問題が発生。雑誌だ。なんでも雑誌は買取の対象外らしい。そんな。これら全てただの資源ごみに成り下がってしまったのか…。まあそもそもが処分すべきものを、買い取らせてやるから金を寄越せというのも図々しい発想なんだよな。断捨離には諦めも肝心。
二箱目の段ボールにもついに本類を詰め終え、ガムテープを貼り、あとは引き取りを待つのみとなった。これにて本棚のカオスはひととおり解消される。
これからはみだりにものを増やすことのないように生きようと心に誓う。誓った先からAmazonで予約購入していた本が新たに届く。なかなかどうして…人生は思い通りにいかない。
本棚を片付けたところでまだまだ余計なものは山ほどあるのだから、ミニマルな生活はわたしにはまだ早いらしい。憧れはいつまでも憧れのまま。

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