チェスにおいて最も難しいのは、勝ちのゲームを勝つことだ。
こんにちは チェス好きのニートです。好きな駒はポーンです、何故なら、失っても、小さな傷で済むから───。
突然じゃないですが先日、Netflixで『クイーンズ・ギャンビット』というアメリカのドラマを観ました。
孤児院でチェスの才能を見出された少女エリザベス・ハーモンが、チェスを通じて成長していく物語。めちゃ良い。
(ここから早口)主人公のエリザベス 通称「ベス」が、男性優位社会の中で強い男達をバンバンなぎ倒したり、時には壁に当たって悩んだり、年頃らしく色恋沙汰やイケないことに興味を持ったりするんですが、このベスの仕草や言動がま〜〜〜〜可愛い、大人びてて全然キャピキャピしてないのに!
純粋で真っ直ぐだからその性格に惹かれるし、彼女が映る全シーンを額縁に入れて国立西洋美術館に飾ればあまりの魅力に人が押し寄せパンデミックが発生してしまうくらい構図や表情が美しい。(ここまで早口)
またチェスとの距離感も丁度よく、難しい戦術の話もほとんど無いので、素人も玄人も楽しめる良い作品です。是非にご覧あれ。
良い作品を観た後って、識者の考察を見たり、視聴者の感想を聞いたりするのもまた一興ですよね。最近だと漫画『ルックバック』やアニメ『オッドタクシー』などを楽しんだ後は、SNSの便利さに甘やかされます。
いつものように『クイーンズ・ギャンビット』の関連動画を漁るためYouTubeを開くと、一つの無関連動画が目に付いてしまいました。なんと、とある映画が公式に期間限定で無料公開されていたのです。アニメ映画愛好家としては見逃す訳にはいきませんでした。
そして、その作品の中のたった1つのシーンが、今回の記事のメインディッシュ、俳句でいう季語になります。季節は夏です。
2019年公開の劇場アニメ『BLACK FOX』。
忍者の末裔である女の子 石動 律花(いしどう りっか) 通称リリィが、理不尽にも家族の命を奪われ、その復讐に励む物語。陰鬱な雰囲気、可愛い女の子達、思い切った設定、見事なアクションシーン、腑に落ちない終わり方。好きな人は好きだとは思いますが、そんな感想はどうでもいいんです。
今回の季語となるのは、主人公の「リリィ」と頭脳明晰な女の子「ミア」とのチェスの対局シーン。メインキャラクターである二人が初めてコミュニケーションを図る大事な場面です。その間、チェスの盤面がハッキリと映し出されるカットが2箇所あるのですが、そこに映る盤面がもう、めちゃくちゃ。自由律俳句もいいところ。
細密なチェスの描写に成功した『クイーンズ・ギャンビット』と比べ、『BLACK FOX』の"キャラクター性を表現するためだけに使われたチェス"は、フォローしきれない粗末加減で逆に面白かったので、どんな酷さだったのかをここで紹介したい。
にっこりポニテガールのリリィ、儚げ銀髪少女のミア。
このシーンは二人が公園のフェンス越しに出会うところから始まるため、チェスの対戦は、リリィが口頭で指し手を伝え、ミアが二人分の駒を動かす形で進みます。いや普通に公園に入ってからやれよ、というツッコミは受け付けておりません。
そして対戦開始から初めて映し出される盤面が、次の画像です。
白番がリリィ、黒番がミア。
うんうん、よく見るe4、e5からNf3、対して堅さに定評のあるフィリドール・ディフェンス。消極的なミアの性格がプレイスタイルに表れていてスタッフのこだわりが...
んん!?!?!?
ポーンどこ!?!?!?
お分かり頂けるだろうか。上から2番目、右から3番目の白マスに、本来あるべき黒のポーンがありません。ミアちゃん!どこかにポーン落としてるよ!
ま...まぁ、これは、ミアなりのハンディキャップなのでしょう。一方的な試合が友好関係にヒビを入れることは桃鉄で証明されています。落ち着いて、続きを見よう。リリィのセリフが入ります。
おい!!!!
これは何!?私の知らないゲーム!?偶然にも名前がチェスで見た目ソックリな全然違うボードゲームなの!?!?
分からない人に説明すると、f3とは白番目線で左から6番目、上から6番目のマスを指し、棋譜上では「ポーンをf3のマスに移動させる」ことを意味します。
しかし直前の盤面を見てみると、f3のマスには既に白のナイトの駒が置かれています。ルール上1つのマスに1つの駒しか置けないため、このf3は成り立ちようがない、というわけです。
しかし何のツッコミも入らずゲームは進み、淡々と駒を動かしていくミア。お前もう、これからプロフィール欄に「趣味:チェス」とか絶対書くなよ。
その後も再現不可能な棋譜が続き、何戦か続いた最後に映し出される盤面がこちら。
いや......えっと.................
おい!!!! (やけくそ)
あまりのツッコミどころの多さに尾崎放哉も咳が止まらなくなる程の常軌の逸しっぷり。
ちなみに直後にリリィが「5連敗か〜」と言っているので、この盤面は5戦目の終盤になりますが、何から言えばいいのか分からないので、とりあえず上の画像のおかしい点を厳選して、ボディビルの掛け声風に箇条書きでまとめてみました。
・白のbポーン ビビりすぎて逆走してるよ!
補足:ポーンはどう頑張っても自陣の一列目には動かせません。
・逆に黒のキングが勇敢すぎて誰よりも相手の陣地に特攻しとるやないかい!
c2の位置にある王冠型の黒い駒がキング。ヴィンランド・サガのトルケル並に戦闘意欲が高いです。Lv.100の藤井聡太かな?
・黒のポーンストラクチャ、北朝鮮の兵隊かい!
終局後なのに午前中のエスカノールくらい堂々としてるけど、どんな指し方したらこんなに真ん中だけ綺麗に並ぶの?
・白番はヒッポでも試してたんか〜い!
駒を自陣から出さずに戦うヒポポタマス・ディフェンス、通称ヒッポ。その応用の形で白番でも試したくなったんか〜い!
他にも・逆羽生善治九段か〜い!や・誰もキャスリングのルール知らんのんかいか〜い!などなど、挙げていったらキリがありません。ストーリーとは直接関係ない部分なので手を抜きたいんでしょうが、それにしても雑すぎません〜〜????ラップバトル1回戦ボーイでももう少し丁寧に言葉のピース並べますよ。
ごちゃごちゃ言いましたが、アニメ映画『BLACK FOX』は2021年8月31日までYouTubeで無料公開されているので、興味がある人は観てみてくださいね。
「チェスにおいて最も難しいのは、勝ちのゲームを勝つことだ。」
これは如何に優勢でも、良い状況を最後まで保ち続けるのは難しく、少しのミスでも負けてしまうというチェスの特性を指した格言。
数年前にアニメ『艦これ』で、弓道経験者からの「キャラクターの弓の構え方がおかしい」という指摘が物議を醸し作品の株を下げたことがあったけど、それに似たケースはどこにでも起こり得ると思います。
「神は細部に宿る」といわれるように、手を抜かずにしっかりリサーチして作り上げないと、いくら細かいことでも見る人によっては作品全体の評価に繋がりかねない。つまり、どれほど美しい季語でも、残りの文字使いが拙ければ伊藤園新俳句大賞には載らないよ、ということ。それが今回『BLACK FOX』を観て思ったことです。
私は人の"こだわり"を鑑賞するのが大好きだ。"こだわり"を摂取して日々生活しているので、最後に言っておきたいことがある。
この世の全クリエイターよ、
「こだわることから逃げるな!」
かくいう私も無断で作品から画像を切り取っているので、怒られたら尻尾巻いて逃げますけどね。
では、また。