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【Coalis初取材】久保田氏に聞くスタートアップM&A本当の問題点とは
今年4月、国内VC業界が驚く新チームの結成が発表された。
その名はCoalis(コアリス)―――。
ベンチャーキャピタルの創業者、上場企業の代表取締役、弁護士事務所パートナーなど錚々たる経歴を持つメンバーが一堂に介し「スタートアップと事業会社の戦略投資やM&Aを支援するプロジェクト」を始めるという。
このドリームチームが発足した経緯はどのようなものか、そして、なぜ今、彼らはスタートアップのM&Aに取り組むのか。
Next SaaS Media PrimaryではCoalis発足のメンバーの一人である元WiLパートナーの久保田氏に取材を行い、その真相を探った。
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久保田雅也 氏 | Coalis General Partner
リーマン・ブラザーズ証券会社、バークレイズ証券に投資銀行本部にて、インターネット・通信・メディアセクターを担当。インベストメント・バンカーとして、東京、NY、香港の各オフィスにて、未上場ベンチャーから上場企業に至る多くの企業との取引案件を主導。2014年1月にWiL設立とともにパートナーとして参画。2023年9月にWiLを退任し、2024年4月からCoalisに参画。
次のキャリアは起業家の「山の下り方」もサポートしていきたい
――― 昨年9月のWiL退任発表後、久保田さんの去就に注目していた方は多かったと思います。まずはCoalis参画の経緯を教えて下さい。
久保田氏: 昨年、創業から10年間パートナーを務めていたWiLを退任しました。WiLでは充実した毎日でしたが、心地良過ぎるが故の危機感、みたいなのもありました。VCはベテランがなかなか辞めないのですが、若手のチャンスを奪っている側面もあると思います。10年という区切りもありました。
次を決めずに辞めたのは、自分自身を「VCの人」という印象が強いと感じたからです。あと、忙しくて次を考える余裕もなかった。しばらく色んな活動しながらフラットに次の挑戦を決めたいと思い、まずは何も決めずに一旦退任することを選択しました。
結果的にこれは人生で最良の選択のひとつとなったと思います。
いくつかの企業やファンドを手伝うなど活動の幅も広げながら、やがて日本のスタートアップ領域に対し自分なりに感じていた課題を解決したいという想いが芽生えてきました。
それが、スタートアップ領域でのM&Aです。
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私自身は最初のキャリアは投資銀行でM&Aなどを経験し、その後ベンチャーキャピタルのパートナーを経験しています。お世話になったベンチャー界に恩返しの意味でも、その双方の経験を活かせるCoalisは興味深かった。
WiL退任時にはCoalisの仲間との出会いも構想もなく、思うがままに動いてみたら、行き着いたという感じです。みんな似たような仮説と興味を持っていて、話していくうちに「やっちゃうか」となりました。
WiLでも大企業の新規事業育成を支援させて頂いたのですが、自前での難しさや大企業の限界も多分にあるなと。VCへのLP出資やCVCでも得られるものもあると理解しつつ、大企業が本気で変わらなければいけない環境下で、「スタートアップとそんなぬるい付き合い方でいいのか」と思うこともありました。
またビジネスモデル的な視点で考えても、CoalisはM&Aアドバイザリーと戦略コンサルティングのハイブリッド。今、世間で時価総額を伸ばしてるのはベイカレントやアクセンチュアのようなコンサル、そして日本M&AセンターやM&A総研などのM&A仲介業です。単純に、事業としても筋がいいかも、と思いました。
上場企業の利益剰余金の総額は500兆円とも言われています。この使い途が問われている中で、上場会社はM&Aに奔走し始めましたが、スタートアップにまでは手を出せていない。
現状の延長線上にある直線的M&Aではない、イノベーションのジレンマに備えた飛び地的なM&Aや、自らを壊すために異質な生態を取り込むための非線形なM&Aが必要になってきていると思います。
なにより、エグジットがIPO一本足の日本のベンチャーエコシステムは不健全であるなと。スモールIPOを否定はしないのですが、それに出口が縛られる状況は望ましくない。
スタートアップ同士が国内競争で疲弊するのでなく、手を携えて世界に挑戦していくべきと。それにはM&Aの土壌を整えていく必要があると感じました。
――― Coalisの発足メンバーには著名な起業家、投資家の方が名を連ねています。どのような組織体として活動をされていくのでしょうか。
久保田氏:現在、Coalisのホームページ上では、上原、原田、増島、久保田がジェネラルパートナー(以下:GP)として名を連ねています。なお、(STRIVE)堤さんも発足人の一人ですが、ファンド運営が続いていますので、現時点ではGPという肩書ではありません。
また、現職の兼ね合いで名前を公表できませんがもう一人の設立メンバーがおり、その6人が中心となって活動をしています。
Coalisは株式会社の形態で、ベンチャーM&Aに関するアドバイザリーやコンサルティングを行っています。よく聞かれるのですが、現時点においてはファンド形態ではありません。
自ら組織やアセットを拡大するのではなく、プラットフォーム志向を強く持っています。案件ソーシング面ではVCや証券会社との連携で、案件実行においても外部の小規模ファームなどとの連携に努めています。
コンサルもM&A仲介も往々にして労働集約ですが、できるだけ外の力をテコに進める。これは我々がインターネット業界出身者で構成されているが故の発想なのかもしれません。
なぜ、日本のスタートアップM&Aは少ないのか
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